102. インテリヒツジ族の秘伝を教えてやるメェ

 通り魔は怖い。

 何が怖いって、急に来るのが怖い。

 ノースゲートの街を出る予定は経ったけど、それまで引きこもってる訳にも行かないし、出会さないように祈るだけだ。


〈何か防犯アイテムでも買いません? 【転移の玉】とか〉


 と姫様。

 あれば便利ですけど、流石にそんなお金は無いですねえ。


〈お金がないと不便ですのね……ダイ吉さん、護身用の必殺技とかありませんの?〉


 護身用なのに必ず殺す技とは……でも実際、化け物に手加減する余裕はない。


 ダイ吉君、今覚えて明日使えるようなのってある?


〈………メェ。なら、そうだメェ。

 インテリヒツジ族の秘伝を教えてやるメェ〉

〈まあ! どんな技ですの?〉

だメェ〉

〈えっ〉


 えっ。


 念動力? サラッと言ったけど、あれだよね。

 生前のダイ吉君達が使ってた、手を使わずに物を動かすやつ。


 ダイ吉君の提案に、僕と姫様はポカンとしてしまった。

 あれって種族固有魔法とかじゃないの?


〈メェ、ただの魔法だメェ。

 おメェ達の使う炎熱/冷気/電撃の属性魔法とは少し違う……ある意味では似たような物だがメェ。別の系統の、ただの魔法だメェ〉

〈インテリヒツジの念動力が他の人族にも使えるなんて、聞いたことありませんわよ?〉

〈メェ、門外不出の秘伝だからメェ〉


 え、そんなの教えてもらっていいの?


〈地元を出る時に、異種族には何があっても秘匿しろと言われたメェ。でももう俺自身が亡霊、異種族になったからメェ。手後れだメェ〉

〈えええ……でも確かに仰る通りですの……??〉


 本当に大丈夫なのそれ。


〈身を守る手段は1つでも多い方が良いメェ。

 それに、これはきっと俺がこの世に居た証を残せる、最後のチャンスだメェ〉


 そんな言い方をされると、何も言えなくなるんだよなぁ。

 それに、元よりこちらとしては有難い話だ。


 そういう訳で、僕は寝る前に、ダイ吉君から念動力の魔法を習うことになった。



 念動力。

 これは「物を掴んで持ち上げる力」だと僕達は思っていたのだけれど、どうも実際は全然違う物らしい。


〈人間や妖精は「炎熱/冷気/電撃」の3属性を魔法属性、「圧力/切断/刺突/衝撃」の4属性を物理属性なんて呼ぶこともあるメェが、熱や電流は物理現象でもあるメェ。同様、圧力や衝撃が魔法現象であるのも当然だメェ〉


 曰く、念動力とは「衝撃魔法」の応用なのだそうだ。

 殴ったりぶつけたりするのが衝撃属性の攻撃だけど、つまり、念動力は棍棒で持ち上げるイメージになるらしい。


 戦闘の時にラム美さんが念動力で攻撃するのを見たけど、本来は「念動力で攻撃」じゃなく「攻撃で念動力」というのが正しかった訳だ。

 つまりこの人達、棍棒でノート捲ったりペン動かしたりしてたのか……。


〈あっ、できましたわ! うふふ、ほら、小石が動いてますわ!!〉


 姫様はちょっと理屈を聞いただけで、すぐに実践出来てしまった。

 すごい、触ってもないのに小石が動いてる……!

 今の姫様は亡霊で普通の人に姿は見えないから、掴んで動かしても念動力で動かしても違いがわからない、なんて話は言いっこなしだ……!!


〈メェ!? インテリヒツジでも習得に1、2週間はかかるがメェ……〉

〈わたくしは元々魔法も使えましたし、きっとそのお陰ですわ〉


 なお、僕は基礎段階の「衝撃を飛ばす」所で躓いている。


〈念動力は杖がなくても使えるメェ。

 竹刀と盾を使いながらでも扱えるから、予想外の角度からの不意打ちにも便利だメェ〉


 なるほどなぁ。

 それに、杖が折られても使えるのは良いよね。弓と槍を折られたばかりだし。


 こういう、命の危険がない修業は楽しいな。

 それからしばらく衝撃を飛ばす魔法の練習をして、小石を転がせる程度になった所で、お開きにして眠ることにした。

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