101. 異世界人には首がない人もいるのですか?

 謎の通り魔事件発生。

 犯人は首無しの怪物・異世界人という噂が突如として湧いて出た。


〈名乗り出た方がいいメェ〉

「あ、すいません、すいませーん! その異世界人っての僕です!!」


 ざわり、と人の群れがこちらを向く。僕の近くの人が道を空けてくれたので、割り込みながら事情聴取の現場に向かった。


「ん……お前、ゴブリンに殺されかけとったガキか」

「はい、そのガキです。これ僕のステータスです」

「確かに、備考欄に異世界人とありますね。異世界人には首がない人もいるのですか? 生まれつきでなくとも、何かの拍子で取れてしまったりは?」

「異世界人は首がなくなると確実に死にますね」


 ひとまず、異世界人=化け物説は否定できたと思う。


「首が無い人型というと、デュラハンや首無人アケパロイ辺りでしょうけど、図鑑に載っていませんしね」

「異世界人と首無人アケパロイの混血かもぇへんやろ!」

「首が無かったんですよね。なら図鑑にも首無人アケパロイで出ますよ」

〈首のない怪物なんて恐ろしいですわ……!〉


 足がない亡霊の人も怯えている。


 ううん。よく解らない。結局、何が起きたんだろう。

 よく解らないけど僕の用事は終わったし、そろそろ引っ込んで良いかな。


〈気付かれないようにそっと立ち去りますのよ……!〉


 駄目元でやってみますね!


「あ、そちらの異世界人の方。後で異世界人についてもう少し聞きたいので、そこで待っていていただけますか」


 駄目でしたね。


「それで、どうして4人パーティの内、あなただけが生き残ったんですか? ……それも、無傷で」

「あいつの攻撃が俺には通らんかったんや……暗うてよう見えへんかったけど、小っさいナイフか何かやな」

「小さいナイフ。それなら確かに、あなたの鱗には通りませんね」


 ギルドの人は目を細めて重戦士の人を見ながら、手元のメモ用紙に何事か書き込んでゆく。

 重戦士の人はあれこれと説明を続け、ギルドの人はそれをメモに取ったり、取らなかったりしていた。


〈さっきから同じような話を繰り返してますわね〉


 ですねぇ。

 退屈になった僕は、野次馬の会話に耳を傾ける。


「おい、本当にそんな化け物がいると思うか?」

「さあな、街の中で襲われたってんだろ? 聞いたことねえな」

「《鱗の誓い》つったらこの辺でも上位のパーティじゃねえか。そんなのを倒す怪物ねえ」

「あいつら普段から揉めてばっかだったろ。実の所、仲間割れでも起こしたんじゃないのか」


 あんまり情報ソースとして適切じゃない感じがするので、野次馬の会話はシャットアウトすることにした。


「わかりました。それでは、この件は近日中に何らかの対応を行います」

「お、おう、頼んだぞ……俺は今日は帰って寝るわ……」

「お疲れさまでした。それでは異世界人の方、場所を移しますのでこちらへ」


 重戦士の人が帰ってから、10分程かな。

 僕は異世界人についての毒にも薬にもならない説明を行い、宿へと戻った。




〈黒毛。どう思うメェ?〉


 通り魔のことだよね。めっちゃ怖い。


〈メェ、あの鱗人レプティリアンの虚言だとは思わないメェ?〉


 ではないでしょ。嘘ならもっとマシな嘘くよ。幻惑されてた可能性はあるかもだけど、それでも犯人は別にいる。


〈メェ。俺もひとまず、この街に危険があるってのは同意だメェ。今日明日ってことはあるメェが、傭兵との契約期間が終わったらすぐに発つべきだメェ〉

〈そうですわね、それでは別の街に……あっ、わたくしネコを飼いたいですわ! ネコの売っている街にいきましょう!〉


 この街を出るのは僕も賛成。

 ネコを飼うのも賛成です。


 じゃあ、出発は傭兵契約の終わる2日後、夕方の便の乗合馬車で良いかな。隣街くらいならお金も足りる。

 僕は運も良い方だし、まあ2日くらいなら大丈夫でしょ。

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