100. あ、あれは通り魔なんぞやない、首無しのバケモンや……!
冒険者ギルド併設の喫茶店で、何かのお茶を飲みながら反省会をしていると、急にギルド内が騒がしくなる。気付いた時には人が集まって何も見えなかったけど、話から察するに、何かに襲われた冒険者が運び込まれて来た感じだろうか。
〈ちょっと見てきますわ〉
姫様がふわりと浮き上がって、人の壁の上から野次馬に向かう。
冒険者には怪我が付き物だし、僕も先日死に掛けたけど、これだけ騒ぎになるのは珍しい。
〈そりゃおメェ、普通は騒ぐほどの大怪我を負ったら、人里に戻る前に死ぬメェ〉
運が良かったメェ、とダイ吉君は呑気な調子で言った。
うーん。まあ確かに。
この世界、人の基礎能力は僕らの地元より遥かに高いけど、死ぬ時はわりとすぐ死ぬからなぁ。
ここまで生きて戻れば、回復薬で何とかなるでしょ。たぶん。
〈たたた、大変ですわ~!〉
あ、姫様が戻ってきた。
何かありました?
〈トカゲの人ですわ!〉
トカゲの人、というと……あ、ゴブリンから助けてくれた、
〈そうですわ! 大きな鎧を着た鱗の方ですの!〉
〈メェ、あの堅そうなが人メェ? どんな相手と戦ったメェ……〉
あのパーティは確か、鱗のある人が2人と、鱗のない人が2人の4人組だったはず。
実際に戦っている場面は(気絶していたので)見てないけど、ベテランの風格漂う強者っぽい人達で、特に重戦士の人は鱗の上に金属鎧を着た、とにかく堅そうな人だった。
でも、大怪我を負っても後ろに攻撃を通さないのは流石だなぁ。怪我は嫌だけど、僕も今は前衛の盾役でやってるし、それくらいの気構えは持ちたい。
実戦でどうなるかは判らないけど、まぁ気構えとしては。
〈そうじゃないんですの!〉
そうじゃないと言いますと。
〈怪我は1つもありませんの! でも、他の3人は亡くなったみたいですのよ!!〉
〈メェ!?〉
……ええ? うっそでしょ?
僕とダイ吉君も近寄れる所まで近付いて覗き込んだけど、宙に浮けない僕からは何にも見えないので、話だけを聞くことにした。
重戦士の人はギルドの人に捲し立てるように状況説明を行っている。ただ、その声は先日聞いた自信溢れる頼もしい声ではなく、なんというか……か細い震え声だった。
「つまり、何です。あなた方《鱗の誓い》はノースゲートの街の中で通り魔に襲われて、あなただけが生き残った、ということですか?」
ええ……何それ怖すぎるでしょ。
どんだけ強い通り魔だよ。真面目に働けばいいのに。
「ち、ちゃう、ちゃうわ! 何べん言わすねんボケ!
あ、あれは通り魔なんぞやない、首無しのバケモンや……!」
「そうは言っても、図鑑にそんな種族は登録されてませんよね?」
恐慌状態の重戦士の人を、ギルドの人は冷静に諭す。
ギルド証を持っている冒険者ギルド会員が使えるギルドメニュー、その機能の1つ「図鑑」タブは、ギルド証を持った状態で見た種族の名前が記録される、コレクター意欲を刺激する面白機能だ。
それがこうして実用されている様を見ると、何だか不思議な気分になる。ただの面白機能じゃないんだね……。
「この異世界人というのも、説明テキストでは“人間に似た外見”とありますし」
「そんなん知るかぁ! あのバケモンも首生やしたら人間に似とったわ!」
「ううん……まあ、混血による個体差もあるかも知れませんね……」
んん、何だこの流れ。何か異世界人が化け物にされそうだぞ。
〈このままだと、異世界人が討伐対象にされてしまいますわよ!?〉
えええ! そんなことあります!?
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