099. 全身が赤く硬い毛に覆われ、目をぎょろ付かせたリス
中型犬ほどの獣が駆け寄って来る。
全身が赤く硬い毛に覆われ、目をぎょろ付かせたリスが、牙を剥いて涎を撒き散らしながら。
『危険! 危険! 3秒後に
タイミング良く響いた危機感知スキルからの警鐘を受け、3、2、
「いちッ」
飛び込んで来たチノイロジゴクオオリスの足元に竹刀を突き出し、跳んで避けた横面を盾で殴った。
「リスァァァッ!!」
見た目より重い手応え。反動で後ろに跳びながら、標的を僕個人に向けたチノイロジゴクオオリスに再び竹刀を向け――そこへ獣の側頭にエルキチさんの放った矢が当たり、折れた。
「くっ、やはり刺さらないか!」
「十分や! オラッ、凍れ!」
僕に飛び掛かろうとしたチノイロジゴクオオリスが視線を射手に向けた時、
「リスォ、リスォォァァッ!!」
それでもチノイロジゴクオオリスが動きを止めるのは数秒だ。
僕の竹刀、エルキチさんの矢、フェアミさんの魔法でこれを仕留めるのは難しい。
「こいつで、終いじゃあ!!」
だから止めを刺すのは、4人の中で一番破壊力の大きいドワオさんの大槌だ。
首の骨を折ったチノイロジゴクオオリスは何度か痙攣した後、消滅した。
あ、ドロップアイテムだ。今日は黒字だな。
今回の討伐依頼は、縄張りを追い出された
「ナイスやドワオ!」
「鈍間なドワーフにしてはよくやったな」
「いやあ、流石の攻撃力ですねぇ」
エルキチさん、フェアミさんがドワオさんを労う所に、さらっと紛れ込んで一緒に褒める。
これがパーティプレイ。しっかり練習しておかないと。
〈黒毛は頑張る所が違うメェ〉
〈学院では普通にやっていたように思いましたけど……〉
ダイ吉君と姫様は判っていないようですが、学生の実習とプロの仕事は違いますからね。
相手は世代も上だし、そりゃ気を遣いますよ。
傭兵斡旋所で契約した3人のパーティメンバー達。
エルフの弓使い、エルキチさん。
フェアリーの魔法使い、フェアミさん。
ドワーフのハンマー使い、ドワオさん。
みんな妖精族であり、妖精族は寿命が長い。傭兵としては新米の方で、外見も若く見えるけど、全員50歳は越えてるらしい。つまり、凄い上の世代の人達だ。
「旦那もよく相手を見ておりましたな。なかなか良い動きでしたわい」
「いえいえとんでもないです、へへ……」
〈なんだか卑屈になってますわよ、パーティリーダー〉
そうは言っても、前情報がですね。
今朝、斡旋所に言った時に、受付嬢の人に言われたじゃないですか。妖精は亜人の中でも気難しいから、怒らせないようにって。
お金を払えば普通に働く人間や獣人と違って、敬意を持って接することが必要だとか何とか。
〈おメェの普段くらいの態度なら大丈夫と思うメェ。
いや、でもプロの受付嬢の人が、わざわざ口に出して忠告するんだよ? 怖いでしょ。
商国には亜人が多い。
1種の亜人が国民の大半を占める国はあるけど、1つの国に住む亜人の種類が多い。この大陸の大半の国は単一種族が起こした国家なので、これほどの多種族が混在しているのは、他には侵略で国土を広げてきた帝国くらいだという。
王国を始めとする大陸西部の周辺国では、平民でも役人になることはできるけど、貴族のように行政のトップに立つことはできない。
純粋に才能と技能で仕事が左右される商国には、世界中から成り上がりを目指す優秀な平民が集まって、現在のような種族の
様々な文化が混ざり合った結果が今の商国なので、同じ妖精でも、排他的な者もいれば、他種族に気安い者もいる。
とりあえず初対面では礼儀正しく、仲良くなっても舐めた態度で接すると酷い目にあいますよ、というのもパンフレットで注意されていた点だ。
〈そう言われると不安になってくるメェ〉
世の中、何が原因で死ぬかわかんないからね。警戒するに越したことはない。
「旦さんも謙遜しなや! あの盾のタイミングとか完璧やったで!」
フェアミさんが空中で僕の動きを再現しながらカラカラ笑う。
身長30センチもない、翅の生えた少女のような見た目の人だけど、この人も50歳オーバーだ。
「ありがとうございます、プロにお褒めいただいて嬉しいです、へへ……」
それから僕達は冒険者ギルドに戻り、依頼の達成報告と報酬の清算を行った。
冒険者登録を行っているのは僕だけだから、手続きは僕が1人で行う。
ドロップアイテムの売却と報酬の山分けを行い、3人にお礼を言って、その場で解散。
ノースゲートの街を揺るがす大事件が起きたのは、ちょうどその頃だ。
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