097. 当方片手剣士、他全役割募集

 【槍:竹槍+2】と【弓:竹の弓+6】が死んだ。


 昨日の時点で嫌な予感はしてたけど……残骸を手に持ったままメニューウィンドウを開いても、装備品一覧どころか、所持アイテム一覧にすら表示されない。多少の破損なら次に同じ物を引いた時に合成すれば直るけど、これはもう完全に無理。


 今、手元にある武器は【剣:竹刀+4】【杖:竹の杖+3】【双剣:トレッキングポール】の3つ。

 最近は殺傷力優先で槍と弓、あと魔法用の杖ばっかり使ってたけど、久々に金属製の登山杖トレッキングポールを使うかなぁ。と思っていたのだけど、


〈黒毛は盾の使い方を覚えた方がいいメェ。竹刀をオススメェするメェ〉


 というダイ吉君の意見に従い、【剣:竹刀+4】と【盾:竹の盾+8】の片手剣士スタイルになった。

 竹刀なんて、剣道部の人達が毎年全国各地で生身の新入生を囲んでボコボコにしても、たまに死亡事件が起きる程度の非殺傷武器だ。多少スキルがついてたって、ガチャアイテムでは元の攻撃力が飛び抜けて低い。バランス調整をしろと切に思う。


 とはいえ、防御を軸にした立ち回りが身に付けば、ソロでの死亡率も下がるのかな。

 衛兵の亡霊に戦い方を習った時は、(僕の基礎能力が低過ぎて)先手必勝の奇襲戦法しか教えて貰えなかったけど、今ならもう少し色々できるはず。


 そんなわけで、ギルドの仲間募集サービスには「片手剣士」という役割パートで登録した。


 受付での手続きを経て貼り出された僕の募集要項には、


「パーティメンバー募集!

 当方片手剣士、他全役割パート募集

 リーダー未経験の初心者です

 方向性はみんなで相談しましょう

        登録番号:00586」


 とある。


 このアマチュアバンドの地雷メン募みたいな文面は僕が考えたのではなく、ギルドが用意したテンプレートだ。

 なので、掲示板に並んだ募集内容はどれも似たり寄ったり。文面で弾かれることはない。

 逆に言えば、文面で人が集まることも無さそうだけど。


 ざっと見た感じ、片手剣士がボーカル、魔法使いや弓士がギター、重戦士がベース、斥候がドラムみたいな雰囲気かなぁ。


〈??? 何の話をしてますの?〉


 斥候少ないなぁ、って話です。

 うちは亡霊が安全に偵察とかできるし、いっそ僕の役割パートを「死霊術師」で書いた方がいいのかも。


〈絶対誰も来ないと思うメェ〉


 うん、生け贄にされそうだもんね。

 



 さて、カタバラ商国が「商国」たる所以は、「誰でも自由に商売をできるから」でも、「お金さえあれば全てを支配できるから」でもない。

 この国が、国家単位で計画的な商業活動を行っているからだ。

 と言っても社会主義的なやつではなく、要は国家が1つの企業体なんだって。


 ほぼ全ての経済活動は国家が元締めで、希望と試験と適性により業務を振り分けられる。国籍と業務が紐付いていて、農家も商店も運送も行政も全て国の部署。国に売上を納め、国から給料が支払われる。

 国内であれば全て同じ財布の中の話だから、大規模取引が帳簿上で済む利点がある。あと、全ての国民の戸籍と口座が把握されているから脱税も難しい。似たような部署が沢山あるので、部署間の競争は普通にある。

 というようなことが、聞こえの良い表現でパンフレットに書いてあった。

 パンフレットは総合案内所で貰えたよ。


 で、冒険者ギルドや女神教会は、そんな商国では数少ない外国籍経済団体なんだけど、商国直営にその手の部署がないのかと言えば、そんなことはない。

 パンフレットによれば、宗教系なら「冠婚葬祭互助センター」があるし、レンタル武力なら「傭兵斡旋所」があるらしい。一時期商国に滞在していたダイ吉君が存在も知らなかったので、規模や知名度はお察しだけど。


 でも、用途によっては、そっちの方が都合が良いこともあると思うんだよね。

 例えば、冒険者がパーティを組む場合は双方の希望がマッチングしないといけないけど、傭兵なら片方の希望が「お金」に固定されているので、話が早い。


〈傭兵斡旋所なんて初メェて来たメェ〉

〈ギルドよりも随分小さいですわね〉


 中央から離れて寂れた周縁地区、木造の横長平屋建てに、傭兵斡旋所の看板がかかっている。パンフレット内の地図通りだ。

 入り口のスイングドアをそっと押し開けて建物に入ると、接客用のカウンターが1つと、右手側に広めの酒場バースペース、左手側に「関係者以外立入禁止」と札の立った通路が見える。

 バーの方では、冒険者ギルドより品の良い荒くれ者達が、昼間から姿勢正しくお酒を飲んでいた。


 きょろきょろと周囲を見回していた僕の背後で、手を離したスイングドアが、ギィィィィィ、と軋みながら、ゆっくりと閉まった。



 瞬間。場の空気が変わる。



 言い知れない不安感が全身を駆け巡る。



 それまでお酒を飲んでいたバーの客達と、受付嬢の人の視線が……スッ……と、一斉に僕の方を向いた。

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