096. 何びびっとんねん、その鱗は飾りかぁ?

 少し時間を遡って昨日。

 商国北端の都市、ノースゲートの街に到着した日。


 王国通貨のcコインを商国通貨のzゼニスに両替し、レートと手数料の問題で目減りした現金を見ていた僕は、金銭的な不安を感じ始めた。

 何ヶ月も人のお金で生活していると、宿代等で「現金が減る」という状況に直面した時、言い知れない不安を覚えるものらしい。


〈ずっと宿生活でしたから、今更野宿はつらいですわ……〉


 という姫様には全面同意だけど、今更ながら、亡霊も寝床の質とか気になるんですね。


 僕は宿を取って早々に冒険者ギルド(多国籍企業)に駆け込み、大々的に募集していた依頼を受けた。

 それがこの、ゴブリンの居住地の大規模討伐だ。とにかく数を集めて一気に殲滅しようという話で、端っこで安全に貢献しようと思っていたら―――翌日、囲まれて返り討ちに合って、ほとんど何もしないまま討伐が終わってしまい、現在に至る。


 囲まれたら普通に負ける。当然だ。

 僕は自分より弱い相手には勝てるけど、自分より強い相手や、自分と同レベルで自分より数の多い相手には、順当に負けるのだから。


〈堂々と言うことじゃないメェ〉


 と呆れたように言うダイ吉君。

 うん、だから口には出してないよ。



 ゴブリンに囲まれて死の瀬戸際だった僕を助けてくれたのは、鱗人レプティリアン男性4人組の戦闘班パーティだった。


 直立した蜥蜴の人。

 肌は人間でちょっとマズルがある人。

 人間の全身に鱗の人。

 ほぼ人間で、目と尻尾だけ爬虫類っぽい人。


 トカゲ度に相当な差があるので、鱗の少ない人達も全員鱗人レプティリアンだと気付いたのは、彼らの会話を聞いてからだ。


「おう、せやったヤーイルこのボケこら」


 仮拠点へ向かう道すがら、不意に1人が唸りに近い声を上げた。


「お前の矢ァさっき俺の顔の1.1センチ横通ったぞ。殺す気か」


 トカゲ度が1番高い重戦士の人が、トカゲ度が1番低い弓士の人に突っかかる。


「はあ? せやから当たらんとこにねろたったやろが。何びびっとんねん、その鱗は飾りかぁ?」

「何やと、この人間もどきが! お前ら鱗無し代わりに俺らが前衛やったってんねんぞ!」

「黙れワニもどき、次それ言うたらほんまに当てるぞ」

「お前ら何喧嘩しとんねん! 帰り道で怪我すなや!」


 喧嘩を始めた2人を見て、鱗人間の軽戦士の人が仲裁に入る。


「ごめんなぁ兄ちゃん、あいつら昔からアホやねん……」

「はぁ、いえ、そんな」


 肌色蜥蜴の魔法使いっぽい人が一緒にいた僕に気を遣ってくれたけど、「あいつらアホやねん」と言われても「へーアホなんですねぇ」とも返せないし、曖昧に頷くしかなかった。


 よくわかんないけど、獣人の人達はケモ度の差による差別みたいなものがあるんだろうか。

 ダイ吉君とこはどうなの?


〈インテリヒツジは他種族との混血はそうそう無いメェ、というか俺は見たことないメェ〉


 なるほど。まあ、流石に外見に差が有り過ぎるからなぁ。

 人間との混血だと、2足歩行のヒツジか、体毛のないヒツジになったりするのかな。


〈不気味が過ぎるメェ……〉

〈わたくしは可愛いと思いますわよ?〉


 うーん、姫様の意見を否定するのは心苦しいのですが、当のインテリヒツジが不気味だって言うんだから、まあ不気味なんじゃないですかね。異世界人の僕も不気味だと思います。


「兄ちゃんな、ベテランやったら知らんけど、兄ちゃんみたいな若い子ぉがソロでゴブリンは無理やで。あんなアホ共でも何でも、パーティは組んだ方がええよ」


 くだらない妄想から意識を引き戻し。僕は魔法使いの人の言葉に深く頷いた。

 アホ云々うんぬんに同意したのではなく、パーティを組むべきだと言う話についてだ。


 今回僕は荷物を減らすために、使わない物は宿の部屋に置いて、武器は槍と弓の2種類だけ持ってきた。で、それがバッキバキに折られた。

 そんな状態でゴブリンに囲まれたわけで、普通なら死んでたよ。1人だったら。

 亡霊は2人憑いているけど、物理的な干渉力となると、対物特効スキルを持った姫様が小石を転がすので精一杯だ。小石を踏んだゴブリンが一瞬動きを止めたとして、残りのゴブリンにボコボコにされて終了だろう。


 可能な限り安全マージンを取った依頼を受けるにしたって、リス退治に行ったら鬼が出る世の中だよ?

 今は特に急ぎでやることもないし、生活費のために冒険者を続けるなら、仲間探しをしても良いと思う。


〈まあ! ということは、お友達が増えるんですのね!〉


 仕事上の付き合いなので、友達になれるかはともかく、仲良くやれると良いですねぇ。

 と、ついに殴り合いに発展した喧嘩を眺めて思った。

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