093. にゃーん

「にゃーん」


 ネコがいた。


〈にゃんにゃんにゃーん! 本物のネコですわ~!〉

〈メェ、俺も初めて見たメェ。猫人フェルパーに似てるメェ〉


 商国へ向かう連絡馬車での5日間、僕達はネコと共に過ごすことになった。


「みゃう……?」


 ネコは自分を囲んで騒ぐ亡霊達の気配に気付いたのか、何もない所(に普通の人には見える所)をじっと見つめている。

 今の内に、僕もこっそり触らせて貰おう……そーっと……あ、めっちゃ大人しい!

 すごい! 猫カフェのネコみたい!! 逃げない!!


「大人しいですね、この子」

「ニャハハ、撫でられるのが好きなんですニャ」

「にゃーん」

〈はぁ~、かわいいですわ~! にゃ~ん!〉


 ネコを抱いているのはネコの飼い主、猫人フェルパーの商人の人だ。純血に近いのか、人間サイズの2足歩行ネコが服を着てるように見える。


 ネコがネコ飼ってるの? と僕の感覚からすれば疑問に思うものの、この世界の人からすれば特に気にならないらしい。


〈いえ、普通に気になりますわよ? 正直何だかモヤモヤしますわ〉

〈俺達インテリヒツジだって、ヒツジを飼ったりはしないメェ〉


 気になるらしい。


 なお、ダイ吉君にも僕が異世界から来たということは既に話してある。

 種族が「異世界人」なのは知られているから、当然のように「うちの世界では~」みたいな話をしていたんだけど、どうも話が噛み合わない。

 よくよく聞いてみれば、「異世界人」が「異なる世界から来た人」だという認識が無かったようで、改めてその話をすると驚いていた。

 言われて納得したけど、僕だって「猫人」を「猫(地名)から来た人」だとは思わないもんなぁ。


「にゃーん」


 ネコかわいい。


 猫人フェルパーと言えば、あのラノベでよくある無理矢理なルビ。漢字にカタカナでファンタジー用語が振ってあるやつ。

 今まで特に疑問に思わず読んでたけど、この世界だと、実際言ったり聞いたりする時は「読み仮名と共に漢字が頭に浮かぶ」んだよね。

 書き文字を読む時も「猫人」と書いてある(ように僕には見える)のが、自然に「フェルパー」と読める。深く意識すると脳が掻き混ぜられる感じがするので、普段はあまり気にしてないけど。


「抱いてみますニャ?」

「あ、良いんですか? やった、お願いします」

〈うぅ、羨ましいですわ~……わたくしのスキルが【対獣特効:超級】だったら……〉


 でも姫様、対物特効スキルがないと今頃イヴィルゴーストですからね。


「ふみゃあ」


 しかしネコめっちゃかわいいな。魅了付与とか持ってるんじゃないか、こいつ。


「商国にはネコって多いんですか?」

「海沿いの港湾貿易商なら飼ってることも多いかニャ?

 都市部にはいないニャ。言っても魔物だからニャ」


 そりゃそうか。テイマーなんて滅多にいないもんな。

 うちのクラスには纏められてたけど。


 僕がネコを飼い主に返すと、順番待ちをしていた他の乗客が代わる代わる受け取り、愛でていく。

 この馬車も王国内の町と比べれば亜人の比率が多いけど、商国には更にいろんな種族の亜人がいるらしい。

 犬人ライカン猫人フェルパー鱗人レプティリアンのような獣人系。

 エルフやドワーフ、フェアリーのような妖精系。

 背中に翼の生えた有翼人とか、他にも聞いたことのない種族がぱらぱらと。


 それから4日後、到着までの5日間。

 これといった事件もなく、僕達はカタバラ商国北端の都市、ノースゲートの街に到着した。

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