086. おメェ、今俺達に声を掛けたのかメェ?

 悪霊化しかけていた姫様は、一晩寝たらすっきり治った。

 やっぱり大司教様の仰る通り、スキル封印が原因だったらしい。

 ちなみに姫様、【病気耐性:上級】と【対物特効:下級】、どっちが原因だと思います?


〈たぶんですけど、対物特効だと思いますわ〉

〈師匠の仰っていた、スキルによる物質との結び付きというやつか。流石は師匠だな!〉


 霊が見えて霊媒体質になる「対霊特効」とついになるなら「対人特効」辺りな気もするけど、姫様はそれ持ってないしなぁ。

 でも病気耐性の方は関係ないんですか?


〈あれは病気と言うより、むしろあるべき姿に戻るような感覚ですもの〉


 真夜中までずっと小声で生命を呪ってたのが、あるべき姿なのか……。


 ただ不幸中の幸いとしては、未練を引き摺った亡霊の末路を垣間見たセナ君が、いよいよ本気で昇天を目指してくれたことだ。

 昨日も大司教様に怒られてたけど、悪を倒すとかいう方向じゃなく、人の役に立つ方向―――具体的には、僕の守護霊として導き、それを僕が評価して、大司教様に報告する形になった。

 そんなんで良いのかと思ったけど、セナ君が納得してたから、問題ないんだろう。




 ひとまず活動の方向性が決まった所で、今日も楽しい学園生活だ。

 不慮の事故で亡くなったはずの貴族出身聖職者ことセナ君が何故か亡霊になって憑いてたり、姫様の従姉の人ことバクシースル準男爵令嬢と2日続けて決闘騒ぎになったり。この王立高等学院における僕の扱いは、一言で表せば「腫れ物」といった所だろうか。


〈なかなかお友達が増えませんわねぇ〉

〈こんな得体の知れない男に、マトモな者が絡もうとするか?〉


 学園生活が亡霊との会話と授業だけで終わるのは流石に嫌だなぁ。

 そんなことを考えながら、教壇で朝会を進める担任の先生に耳を傾けていた。


「さて、明日は新入生にとって最初のダンジョン探索実習です」

〈きゃー! いよいよですのね!〉


 数日前から予告されていた、文字通りダンジョンを探索する実習の話だ。

 ダンジョンかぁ。一応冒険者の端くれだけど、行ったことないんだよなぁ。

 宝箱とかあるらしいけど、魔物も強いのが多いって聞くし。


「学院の管理するダンジョンなので大きな危険はありませんが、魔物も罠もありますし、運が悪ければ命を落とすこともあるでしょう。しかし、それは普段の学園生活でも言えることです」

〈確かに。改めて目を配れば、平民の命の扱いは軽過ぎる。学院内でガチャを回させられて爆死することすらあるのだからな〉


 僕の知り合いだと、貴族も結構ガチャ爆死してるけどね。


「十分に安全に配慮し、探索班パーティのメンバーで協力しあって、課題を成し遂げるように」


 んん。パーティとは?


〈ダンジョンに潜るなら、探索班パーティを組むのは常識ですわよ〉

〈ダンジョンの単独行は、何処の国でも法律で禁じられている! 常識だろうッ!〉

「それでは今から各自、4人、4人、3人での3班で班分けを行ってください」


 僕が初めて聞いた常識を咀嚼している内に、担任の先生はポンポン手を叩いて話を締めてしまった。


〈329番さん、これはお友達を増やすチャンスですわ!〉


 確かにそうですね。ここは待ちより攻めの姿勢で行きましょう。

 では、まず誰に声を掛けるかなぁ。


「おいっ、平民!! 貴様、班はもう決めたか!」

「あ、カマセーヌ様」


 と、当社比で気合いを入れて教室を見回していた僕に、斧使いの武闘派貴族、カマセーヌ様が先んじて声を掛けてくれた。

 何だかんだ一番会話のあるクラスメイトなので、こういう時に誘ってくれるのは嬉しいな。


「俺様の班はもう決まったぞ! どちらが今回の実習でより良い結果を出せるか、勝負だ!!」

「あ、はい、頑張りましょう」


 と思ったら、勝負を挑まれただけだったらしい。

 僕は努めて表情を変えずに同意した。


〈カマセーヌ伯爵家の嫡男かッ! 死霊術師! 相手にとって不足はないな!!〉

〈やってやりますわよ、329番さん!!〉


 ではそれで良いです。

 カマセーヌ様の班員は、タヌキ使いの犬人ライカンの人と、タカ使いの猫人フェルパーの人。

 あちらの班が3人組なので、残りのクラスメイトを急いで誘わないと。


「ウェ~イwwww角エルフちゃん激マブでヤンスwwww俺らとダンジョン探索するでヤンスwwww」

「ウェイウェイwwww俺らの行き付けのナイトプールで作戦会議するトヨwwww絶対楽しいトヨwwww」

「3ウェ~~イwwww角エルフちゃんのダンジョンも探索したいズラwwww」

「…………ぶち殺すぞ、下等な人間共が」


 でも、もう話し掛けづらそうな連中しか残ってないんだよなぁ。


〈329番さん、あちらのお2人はどうですの?〉


 姫様が示す方を見ると、あ、体高が低いから見落としてた。


 そこには眼鏡をかけたヒツジと、リボンをつけたヒツジが並んで歩いていた。

 見た目は完全に4足歩行のヒツジだ。眼鏡とリボン以外は全裸で、羊毛でモコモコしている。これから寒くなる季節だしね。


〈ほう、インテリヒツジか! 知力と魔力に優れ、独自の念動力も操る2本角種族!! 悪くないぞッ!!〉

〈ふわふわで可愛らしいし、わたくしもおすすめですわ〉


 インテリヒツジの人達かぁ。

 確かにこの中だと一番話しやすそうに見えるな。話したこと無いけど。


 僕は2人の方に近付きながら声を掛ける。


「こんにちは。良かったら、パーティを組んでくれませんか」


 外見はどう見ても単なるヒツジなんだけど、亜人の1種に数えられる種族、インテリヒツジ。

 授業中に当てられて回答する姿や、念動力サイコキネシスで教科書を操る姿を見ていなければ、単なるヒツジにしか見えなかっただろう。

 実際、普通のヒツジもこの世界には存在し、家畜として飼育されているらしい。



「ほう。おメェ、今俺達に声を掛けたのかメェ?」


 眼鏡の方のヒツジが念動力で眼鏡をくいっとやりながら不敵に笑った。


「メェ! ダイ吉、態度が悪いメェ! ごメェんメェ、黒毛のお兄さん!」


 ん。今のって態度悪かったの?


「ふん。ラム美、仮にもクラスメェトにそこまで気を使うこともあるメェだろメェ。そんなでは卒業まで、俺以外に友人もできるメェ」

「メェ!? ダイ吉だってあたし以外に友達なんかいるメェでしょうメェ!」


 正直に言うと、メェメェ言うのに気を取られて、態度とかはよく判んない。

 ただ、付き合いにくい人達ではなさそうだ。

 是非ともこの人達とパーティを組みたいな。


「クラスメイトだし、そんなに気を使わなくて良いですよ。それで、パーティの方はどうでしょう」

「メェメェ、ほら見るメェ。宜しく頼むメェ」

「メメメ、めっそうもメェですメェ! あたし達の方こそ宜しくメェ!」


 良かった、受けてもらえた。


「それじゃ、これから宜しくお願いします」

〈よしッ、勝った!! これで今回の実習は貰ったぞッ!!〉

〈お友達にもなれると良いですわね!〉


 そうして、僕と2人のインテリヒツジはパーティを結成した。

 インテリヒツジはフィジカルにもマジカルにも優れ、前衛も後衛もこなせるオールラウンダー。知力も高いから司令塔の役割もこなせる。

 器用度は低いので僕は主にその辺を補いつつ、リーチの長い武器での遊撃や、市販の薬等を使った回復役、状態異常攻撃を使う魔物への壁役などを担当することになる。

 放課後にも3人で集まって、お互いの得意なこと等の情報を共有し、作戦やフォーメーションを相談した。


 道具も各自で買い揃え、準備は万端。後は明日のダンジョン探索実習を待つばかり。

 


 で、翌日、そのパーティにメンバーがもう1人編入された。

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