084. 家畜が2足歩行なんて生意気ですわ!!

 依代の僕に亡霊のセナ君が協力して善行を積むことで、セナ君が師匠である大司教様に誉めてもらう。

 で、未練がなくなったセナ君はめでたく昇天する。

 大司教様にそんなプランを示された翌日。


「ウフフフ、下賤な平民め!

 家畜が2足歩行なんて生意気ですわ!!」


 学院の廊下で、メイドの人達に囲まれる中、女子生徒に靴で頭を踏みにじられる男子生徒を見掛けた。


〈おいッ! 死霊術師!! 悪が居るぞッ!!〉

〈ええっ、キュウちゃんは悪なんですの!?〉


 まあ悪でしょ。

 あれ姫様の従姉の人ですよね。


〈確かに、廊下の真ん中だと通行の邪魔ですわね……〉

〈インテリヒツジのような4足歩行の亜人種もいれば、ニワトリのような2足歩行の家畜もいるッ!! 足の数で貴賤を決めるなんて女神様の教えに反する、ナンセンスだ……ッ!!〉


 姫様は従姉に似たようなことをされて育ったそうだから、その辺の感覚がおかしいんだろう。

 セナ君は貴族出身の聖職者の人だから、たぶん差別周りの認識がぐちゃぐちゃになってるんだな。

 知らないけど。


 とりあえず姫様、あれは平民虐めですよ。邪悪なやつです。


〈へ、平民虐め!? 学園物語の悪役がやっていたやつですわ!〉


 で、セナ君、君のところの教義はよく知らないけど、もし女神様が平等を謳ってるなら、貴族と平民の間の貴賤差感覚も取っ払う方が良いと思うよ。


〈……? ………………ッ!? そ、その発想はなかったッ!!〉


 絶対あったと思うんだよなぁ。


「詫びなさい、平民の分際で、このわたくしの影を踏んだことをッ!!」

「げぼっ、ぼ、申し訳ありまぜん……!」

〈おいッ、死霊術師! あの女の横暴を止めに行けッ!!〉


 前に僕が止めようとした時は、関わるなって邪魔した癖に。

 でも、止めることはやぶさかではない。

 廊下を塞ぐ集団に近付きながら、僕は声を掛けるタイミングを見計らう。


「家畜が人の言葉を喋るなッ! コケコッコと鳴くのですわ!!」

〈それみろ! コケコッコと鳴くのは2足歩行だ、破綻しているぞ馬鹿めッ!!〉

〈キュウちゃんはちょっとアホなのですわ……〉

「コ、コケコッコ……!」

「オーホホホッ! 何を言っているのか判りませんわッ!! オラァッ!!」

「ぐべっ!?」


 ちょっと面白かったので見入ってしまったけど、そのせいで平民の人が結構痛そうな蹴りを受けてしまった。

 これは以上はまずい。僕は慌てて、従姉の人に声を制止する。


「あ、あのっ! すみません!」


 貴族の人だから少し丁寧目に。

 無礼を理由にその場で殺されても嫌だし。


〈ククク……そうだッ! 多少の問題が起きても、裁判まで持ち込めば、師匠のお力で何とでもなるからなッ!! 無難に善行を積めッ!!!〉


 裁判には持ち込まれるのか……。

 少し落ち込み掛けた僕の声に、従姉の人は眉をしかめてこちらを向いた。


「……はぁ? 今、わたくしに声をかけましたの?」

「はい、すみません。ええと、その人を放していただけませんか」

「このわたくしに命令する気ですの?」


 けれど、ノープランで初会話の人を説得できるほど、僕の会話能力は高くはなかった。


〈キュウちゃんは決闘を申し込むと乗ってきますわよ。

 何かお願いしたい時は決闘で勝てば良いのですわ〉


 本当ですかそれ?

 法的や礼儀的な問題は無いんです?


〈相手の同意があれば問題ないッ!! くはははッ、そうだ、決闘だッ!! 僕を殺したあの卑怯な状態異常で、バクシースルの血を絶やしてやれッ!!!〉

〈バクシースルにはまだお兄様がいますわよ〉

 

 うーん、とにかく大丈夫だと言うなら信じよう。

 殺されそうになったら全部放棄して国外逃亡するよ。

 ゆっくりと、刺激しないように近付きつつ呼び掛けた。


「ええと、あなたに決闘を申し込みます。

 僕が勝ったら、その人を解放してください」

「決闘? フフッ、いいでしょう!

 ただし、わたくしが勝ったら、あなたがわたくしの奴隷になるのですわ!!」


 すごい、本当に乗ってきた!


 負けた時の条件はきついけど、まあ余裕でしょ。

 貴族と言っても所詮は準男爵家の人だし、相手のスキルは男爵級。つまりノーマルスキルが1個あるだけの女の子だ。

 Nスキル単体のしょぼさは、僕が世界で一番よく知っている。

 貴族はステータスが高めに生まれるそうだけど、それも男爵相応で、少なくとも子爵家出身のセナ君はよりは弱い。もう負ける理由がないよね。


〈あっ、でもキュウちゃんはいつも…〉

「決闘成立ですわね! では先手必勝ですわぁッ!!」

〈決闘の時は絶対に不意討ちしてくるのですわ〉


 ぐわっ、至近距離からの砂掛け!?

 何で令嬢が制服のポケットに砂入れてるんですかね!!


〈くそッ、油断したな、死霊術師! この愚か者めッ!!〉


 返す言葉もない!

 相手は決闘慣れした貴族、せめて姫様から戦法なりを聞いておくべきだった。

 ギリギリで目は庇ったけど、追撃が……。


〈来ませんわよ〉


 来ませんね。


「ふふふ……ウフフフ………オーッホッホホホ!!!

 他愛もない!! これで勝負ありですわね!!」


 従姉の人は一握りの砂を投げ掛けただけで、突然の高笑いを始めた。


 何ですこれ。

 今ので僕、死ぬんですかね。


〈これはキュウちゃんの必殺技ですわ!〉


 と言いますと。


〈砂による目潰しで精神を乱しつつ、砂粒に籠った【魅了付与:下級】スキルの多段ヒットで相手を魅了状態にする技ですのよ!〉

〈なッ、そ、それはまさか……ッ!?〉


 ひ、姫様のアドバイスで、僕が一昨日の模擬試合の時にやっちゃったやつでは……!?


〈その通りですわ!!〉


 なんてことだ、それは相性が悪すぎる……!

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