083. 何かを殺めるのではなく、何かを守ることによって、善き行いと為しなさい
万花の月/15日。
全然休めなかった休日が明けて、今日もまた学校だ。
山狩り中の冒険者達に会釈してすれ違い、身内の死亡報告を綴った手紙を中身を告げずに大聖堂の人へ手渡し、宿に戻って、夕食の後はぐっすり寝た。
出発の準備も整ったし、そろそろ出ようかな。
〈お前ッ!! この僕を殺しておいて、よくもそんな平然としていられるなッ!!〉
殺してないよ……セナ君が勝手に爆死したんでしょ。
状態異常にかけたのは悪かったけど、そんな簡単にガチャ回す人いる?
〈うーん、わりといますわよね?〉
姫様の地元ではそうでしょうね。
〈329番さんもさっき回した所じゃありませんの〉
そう言って姫様は、さっきガチャで引いて合成した【首飾:竹細工の首飾り+1】を指差す。
そうですね。ごめんなさい。
すると、それを聞いたセナ君がまた騒ぎ始めた。
〈そっ、そうだ! おい死霊術師、何だお前!
当たり前のようにガチャを回して! それに宝玉はどうした!〉
言ってなかったっけ。
〈聞いてないッ! ガチャで師匠と同じ対霊特効スキルを取得したとしか聞いてないぞッ!!〉
〈女神様のご加護ですわよ。329番さんは女神様に選ばれた使徒なのですわ!!〉
大筋はその通りなので否定しづらいなぁ。
〈ふざっ……ふざけるなッ!! 邪悪な死霊術師が女神様の使徒だとッ!?〉
〈セナさん、亡くなってから前より元気になりましたわね?〉
いや本当、こんな人だったっけ。
亡霊化って副作用あるのかな。姫様も本当に大丈夫です?
〈うるさい、うるさいッ! 大体お前、何もかもが気に入らないんだよッ!!
女神様のご加護を受けておきながら、死霊術師と蔑まれても平然と返事をしやがって!〉
そんな僕嫌われてたの……申し訳ない気持ちになってきた。
えっ、というか、死霊術師って蔑称だったの?
〈わたくしも知りませんでしたわ……!〉
〈こいつら……ッ!!〉
セナ君すごい怒るね。
生前はストレス溜まってたんだろうな。
それより、やっぱりウラギール大司教にはご挨拶に行こうよ。
弟子が死にました、手紙で知らされました、おしまい、では失礼に過ぎるでしょ。
何だったら、今日も学校休んでも良いからさ。
〈ぐっ……だ、駄目だッ! 師匠に合わせる顔がないッ!!〉
じゃあもう今日は良いよ、気持ちの整理もあるだろうし。明日は行くからね。
〈い、行かないッ! 絶対に行かないぞッ!! 無理に行こうとしたら呪い殺してやるッ!!〉
〈亡霊にそんな能力はありませんわよ〉
変異したら何か出来るらしいですけどね。
〈あ、そうですわ! セナさんの未練って何ですの?〉
〈未練? 未練がどうしたッ!! 何故お前達にそんなことを言わなければならないッ!!〉
〈未練を解消したら、亡霊は昇天できるのですわ〉
〈つまり、未練を残し続けていれば永遠に憑き続けられるわけか……ッ!!〉
いや、でも早く昇天しないと、笑い方が「ゴスゴス」になって、その内イヴィルゴーストになるんだよ。そしたら普通に魔物として滅するしか無くなる。
〈それは……それは流石に……ッ〉
〈なるべく早く、穏便に昇天する方がいいですわよ〉
そうですね。姫様も他所様のこと言えませんけどね。
ちなみに、ここまでのやり取りにおいて、僕は全く口を開いていないし、ほとんど身体を動かしてもいない。
もし誰かがこの部屋を覗いていたとしたら、虚空を見つめて何分もぼーっとしている僕の姿が目撃されたことだろう。
翌、万花の月/16日。
予告通り学校を休んで大聖堂に行くと、ウラギール大司教は朝のお務めを終え、一旦自室に戻られた所だった。
昨日のセナ君は、学年の合同授業中にも姫様と騒いでいたので、恐らく対霊特効持ちだろう生徒からは白い目で見られてしまった。
スキル持ち、つまり貴族の人の大半はセナ君と同じA組の生徒だ。たぶん朝から担任の先生にクラスメイトの訃報を聞かされて、そのクラスメイトが亡霊になって僕に憑いて騒いでるんだから、まぁ何かとは思うよね。わかるよ。
なので、セナ君は早く大司教様に引き取ってもらいたい。
〈うう……師匠………〉
〈大丈夫ですわ、セナさん。ウラギール大司教は公正で善良、慈愛に満ちた信頼できるお方ですもの〉
〈それは判っている、判っている、が……ッ!〉
まだ背後で何か言ってるけど、気にせず僕は部屋のドアをノックした。
「どうぞ、お入りなさい」
「失礼します」
〈失礼しますわ!〉
セナ君が亡くなった件は、経緯も含めて一昨日の手紙で伝えてある。
で、僕が来たことも聖職者の人に伝言してもらって、話をする時間も頂いた。
そして僕が来たということは、姫様と、セナ君も来たわけだ。
「先週ぶりですね。学校では問題ありませんか?」
「はい、概ね問題ないです。ありがとうございます」
〈大司教さまのお陰ですわ!〉
「それは何よりです。
ところでセナ。バクシースル嬢に隠れていないで、前へ出なさい」
〈はい……〉
簡単な近況の後、大司教様はすぐに本題に入った。
「セナ、状況は手紙で読みました。私はとても残念に思っています」
〈うぐっ、師匠、申し訳ありません……ッ!〉
片膝をついて頭を垂れるセナ君に、大司教様は悲しそうな顔で尋ねる。
「何が残念なのか、わかっていますか?」
〈それは……ぼ、僕が女神様に仕える身でありながら、亡霊に堕ちてしまったことを……ッ〉
「違いますよ」
ですよねぇ。僕も、この大司教様に限って、それだけは無いと思ってたんですけど、セナ君が聞かないんですよ。
「1つはセナ、君が亡くなってしまったことです」
〈……ッ!!〉
「もう1つは、君がつまらない勝ち負けに拘って、無益な争いをしたことです」
〈……ううっ…………〉
何か言いたそうな様子だけど、言えないセナ君。
〈わたくしや329番さんが言っても全然聞きませんでしたのにねぇ〉
まぁ大司教様の人徳ですよね。
〈ですわねー〉
ともかく、セナ君は大司教様直々のお説教により、行動を改めることにしたようだ。
「それで、セナ。君の未練とは一体何なのですか」
〈は、はいッ! 僕の未練は、師匠から認められたいということですッ!! そこの死霊術師よりも!!〉
「ふむ。では、彼と共に善行を為しなさい……と言っても、漠然とした言葉では難しいかも知れませんね。
それでは、何かを殺めるのではなく、何かを守ることによって、善き行いと為しなさい」
〈……は、はいッ!! 承知いたしましたッ!!!〉
話が纏まったらしい。良かった。
結局セナ君は大司教様に引き取ってもらえず、僕が連れていくことになったようだけど、大司教様のご判断に間違いはないだろう。受け入れます。
なら、僕も一言言っておかないといけないことがある。
「大司教様」
「はい、何ですか」
「セナ君を死なせることになってしまい、申し訳ありません」
〈な、お前……ッ!!〉
最初は僕そんな悪くないと思ってたけど、よく考えたら普通に僕も悪いんだよな。
こっち来てから、人や生き物が死ぬのは慣れちゃったけど、やっぱり悲しいことではあるんだよ。
死体は消えちゃうし、亡霊になって残ったりもするから、あんまり実感なかったけど。
「ごめんね。本当ごめん」
〈……ちッ、もういい! 謝られても生き返る訳じゃないからな!!
それより、善行だ! お前も手伝えよ、死霊術師ッ!〉
「うん、それはもちろん。手伝うよ」
〈わたくしもお手伝いしますわ!!〉
〈ははッ、せいぜい僕のために働けよッ、亡霊ッ!!〉
あ、笑った。
死んでから初めてセナ君が笑ったのを見たかも。
「ふふ、良い友人ができましたね、セナ。
話し方も、ここに来た頃のように戻っていますし」
〈し、師匠……ッ!!〉
大司教様の言葉に、セナ君は半透明の肌を朱に染めた。
亡霊に血は通ってないと思うんだけど、これ何で染まってるんだろうね?
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