082. 解決した

 何やかんやで問題が解決したような気分になっていた僕達だけど、実はそれほど解決してはいなかったのだ。


「王都からは離れた方が良さそうね。今このタイミングなら、死ぬ確率は3:7サンナナ程度らしいから」


 今離れると3割死ぬ。

 でも、離れなければもっと危ないんだろう。


「……でも、これからどうしようかな」

「どうって?」

「この角でしょ。何処に行っても、鬼だって追い回されるわ」

「え。じゃあ角を隠せばいいのでは?」

「え」


 何か齟齬があるな。


「山本さん、ギルド証持ってるでしょ。ギルドメニューから図鑑開いて」

「はい、開いた」

「人系のとこ見せて」

「人系? はい」


 あ、これ僕のと順番違うなぁ。やっぱり遭った順なのか。

 人間、ゴブリン、犬人ライカン、ドワーフ、オーク、コボルト、エルフ、猫人フェルパー、異世界人。


「異世界人が増えてるわ。私達って人間じゃないんだ……」

「僕ドワーフ見たことない。何処にいたの?」

「え、王都に来る途中の町だけど……。で、これが何?」


 首を傾げる山本さん。

 お返しに、僕の図鑑も見せながら読み上げた。


「僕の方は、人間、ゴブリン、犬人ライカン猫人フェルパー、エルフ、角エルフ、異世界人」

「角エルフ! 噂の角エルフ!? 会ったの?」

「クラスメイトだよ」


 話したこと無いけど。


「で、これが何? 角エルフの自慢?」

「じゃなくて、ほら、鬼とか、角異世界人とか、そんな種族は載ってないでしょって話」

「……ああ、え、そうなの? そういうものなの?」

「そういうものらしいね」


 何となく僕の言いたいことは伝わったらしい。


 ギルドの依頼にあった3本角の鬼、というのはギルドメニューが使える冒険者ではなく、通報だか討伐依頼だかをした窃盗被害者の人の証言によるものだ。

 図鑑でも種族が「異世界人」としか表示されないなら、角さえ隠せば普通に人里を歩いても問題ないと思うんだけど。


「あ。今、死ぬ確率が1:9イチキューになった」

「おお、やった」

〈お話は終わりましたの?〉


 とそこへ、コナさんと遊んでいた姫様がひょっこり顔を覗かせる。


「うん。とりあえず終わった」

〈わかりましたわ! ではコナちゃん、お別れですわね!〉

「うぅ~……しっぽのお姉ちゃん、行っちゃうの?」

〈わたくしは明日も学校がありますのよ!〉


 随分懐かれたみたいだなぁ。

 コナさんは見た目のわりに幼い感じするけど、姫様も似たようなものだしね。


「コナ、行くわよ。えぇと、姫様? も、コナと遊んでくれてありがとう」

〈どういたしましてですわ!〉

「どういたしまして、とのことです」

「ふふっ」


 今まで人里を避けていた山本さんは、特に問題なく街道や街中を歩けるようにはなった。

 とはいえ今でも指名手配中みたいなものだから、国外には行くらしい。


「今、この国と隣の帝国? が戦争中なんでしょ。なら、そっちの国に行こうかな」


 これで解散かな。

 短い間だったけど、久しぶりに会えて良かったなぁ。


 と。


「あの、お兄ちゃん……」


 僕を怖がって近寄ろうともしなかったコナさんが、僕の袖を引いて呼び止める。


「どうしたの」

「あの……えっと……」

「うん」

「えっとね……司祭のお兄ちゃん、あげる」

「うん?」


 あ。そういえばセナ君を意識から外してたな。

 亡霊の人は意識から外すと、声も姿もほとんど気にならなくなるミュートできる。ので、ちょっと意識を切り替えた。


〈おいッ、死霊術師! お前、この僕を無視したな!!

 いやそれより聞け、この平民のガキ、王都を離れるんだろッ!!

 お前からも何とか言え!!! 止めろ!!!〉


 と言われてもなぁ。

 セナ君、こっち来れる?


〈はあ!? この僕も下僕にするつもりか、死霊術師め!〉


 ええ……じゃあ、大司教様の所に連れていくから、その間だけ僕に憑いてきてよ。


〈なんッ……し、師匠にこんな、亡霊なんかに堕ちた姿を見せられるか!!〉

〈えええ……わたくし初対面から亡霊ですけど……〉


 うーん、とりあえず引っ張ってみるか……。


「あっ……」

「あ、取れた」

〈うわっ、おい何をするッ!!〉

〈あら、ようこそセナさん!〉

「え、何、解決したの?」


 解決した。




 ……とは言ったものの、本当の所、やっぱり問題は山積みだ。

 どうしても師匠には会いたくないとセナ君が言うので、大聖堂の人に手紙で死亡報告だけはしておいた。


 どうしたものかなぁ。僕は僕で気が重いんだけど。

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