078. 運営に知られたら修正が入りそうな裏技だなぁ

「何でつの?」

「そういうスキルよ」


 げえ、スキル怖っ……という気持ちが顔に出ていたのか、「★★★★★星5だから安心して」との補足を頂いた。

 なら安心だ。僕はどうせ★☆☆☆☆星1しか引けないし。


 というか山本さん、初回の星4に続き、星5まで引いたの?

 確かこの人、ステータスの幸運値が僕の倍くらいあった気がするけれど、あれってまさか、ガチャの確率にも影響あるのかな。

 姫様、そんな話聞いたことあります?


〈聞いたことありませんわねぇ。

 そもそも、統計が取れるほど1人でたくさんガチャを回した人なんていませんわよ〉


 そりゃそうですね。回せば99%死ぬんですし。


「君には関係ない話だけれど、ガチャって乱数調整が利くのよ」


 山本さんは何だか聞いては不味そうな話をし始めた。


 初回のガチャで運良く【危機感知:超級】(※あらゆる危機を100%予測して報告する有能スキル)を引き当てた山本さんは、異世界転移者特典の1日1回無料ガチャを回す前にスキルで確認し、安全な場合にのみガチャを回そうと考えていたそうだ。

 最初の数ヶ月はふと思い立った時にだけ危機感知を試していたそうだけど……ある時、ほんの数分間の差で危機感知の結果が「10:0ジューゼロで死ぬ」から、一切の危機がない状態に変化した。

 色々試す内に、ドロップアイテム取得判定のような、確率が関わる行動を取ると結果が変化するのだと推測―――あとはひたすらその辺の雑草を抜いて引きちぎれば、雑草の死亡時のドロップアイテム取得判定が行われ、乱数が調整できたらしい。

 運営めがみに知られたら修正が入りそうな裏技だなぁ……。


〈ところで329番さん、こちらはどちら様なのでしょう?

 お話から察するに、329番さんのお友達の方ですの?〉


 あ、すみません。

 あれです、僕が異世界に来た時に、一緒に飛んできた1人です。

 運動神経も良く、性格も善良で寛大。初対面の僕とも気安く話してくれました。

 とても良い人ですけど、たぶん友達ではないです。


〈うーん、難しいですのね〉


 難しいんですよ。



 山本さんの案内で、彼女の現在の住処である洞穴にやってきた僕は、そこで懐かしい顔を見た。


「あっ……! こ、怖い人……!!」


 と、僕の顔を見るなり怯えて山本さんに隠れた女の子だ。


「この子、ラビットフィールドの町から連れて行った子だよね」

「そうよ。コナ、このお兄さんは怖い人じゃないのよ。王都までの道であった人達の方が、余程怖かったじゃないの」

「うぅ~……」


 この子、ラビフィー祭でガチャ爆死寸前の所を山本さんに助けられたんだけど、初対面の時に、僕が無抵抗の一般市民を無言で歩きながらボコボコにした場面を見たせいで、僕をやべーやつだと思っているらしい。

 妥当な判断だとは思うけど、あの時は混乱状態だったので、情状を酌量して欲しい。


〈あら、それじゃこの子はラビットフィールドの町の子なんですの?〉


 そこへ、僕の後方でふわふわしていた亡霊の姫様が、僕の身体を突き抜けてぐにゅっと飛び出した。


〈うふふ、ラビットフィールドの町の民なら、お父様やお兄様の領民!

 わたくしの家族も同然ですわ! 仲良くなれますかしら?〉


 そのお父様の方針で爆死しそうだったので、判断が難しいですね。


「……わぁ!? しっぽのお姉ちゃん、誰? どこから来たの?」

「えっ、どうしたのコナ」

〈あら、わたくしが見えますの? うふふ、コナちゃんって言うのかしら? よろしくですわ!〉

「よろし、く?」


 姫様と会話を始めたっぽい女の子、コナさん? と、それを見て訝し気な山本さん。


「お姉ちゃん、なんで飛んでるの? なんでしっぽなの?」

〈しっぽ? ああ、わたくしの足のにょろにょろですわね。どちらも亡霊だからですわ!〉

「亡霊?」


 普通に会話してるね。つまり、この子も対霊特効スキルを持ってるんだろうけど。

 でもこの子、確か平民の孤児じゃなかったっけ。


「山本さん。何でこの子、スキル持ってるの?」

「……君が何かやったの?」

「という訳でもない、と思うんだけど」


 ひとまず僕は、姫様の事情と状況を簡単に説明した。

 姫様がラビットフィールドの町の前領主の娘だと言ったら山本さんが顔を顰めたけれど、姫様自体は貴族の中では穏健派というか、平民に優しい方だよ、的なフォローで一旦飲み込んでくれた。コナさんが楽しそうに話しているのもあったのだろうけど。


 で、何でコナさんがスキルを持っているのかと言うと、あれだ。

 ガチャを回したんだって。ええ……。


 詳しく話を聞いた所、何か説明の端々から、お金持ちに対する悪感情がすごかった。

 この人がここまで恨みを込めるって、余程のことがあったんじゃなかろうか。

 草原を突っ切ってきた僕とは違い、正規ルートで大回りして来たんだろうけど……その辺は割愛して、話の流れだけまとめると。


 後ろ盾も、お金も、技術もない孤児が独り立ちするには、手っ取り早くガチャスキルを得るべきだ、と考えたらしい。

 でも、1日1回無料ガチャの特典がある僕達とは違って、この世界の人達は有料ガチャしか回せない。

 そこで危機感知スキルで貴族の御屋敷や大きな商会に忍び込み、金庫や宝物庫からガチャ用の宝石を盗んできた。


 普通の人が日常的にガチャを回さないし、気軽に大金を溝に捨てて他人にガチャを回させる人も滅多にいないので、そんなにガチャ石を備蓄している家なんてある訳がない。別の目的(魔力の塊だし、それなりに用途はある)で貯めていた物を少しずつ掻き集めた。

 バクシースル準男爵家の御屋敷なら大量にあったと思うけど……。


 で、どうやってコナさんにガチャを回させたのか、だけど。

 危機感知スキルは山本さん自身の危機にしか反応しないけど、目の前でコナさんが頭を爆発させて死ぬのは、結構な精神的ショックだ。

 それを自分の危機と認識することによって、抜け穴的に危機感知を使用し、更に乱数調整も行い、コナさんは現在既に2回の有料ガチャを回しているんだそうだ。


 ……もうこれ絶対修正されるよね?

 いやでも、高ランクの危機感知スキルを持って生まれた貴族の人もいるはずだし、こんな裏技に今まで誰も気付いてない訳はないよね。ならこれ仕様で良いのかな……。

 うん、この話はおしまい。



 僕は、疑問に思っていたことを訊くことにした。


「ずっと冒険者から隠れてたのに、何で僕の前に出て来てくれたの」


 訊くと、山本さんは急に変な顔――眉尻を下げ、眉間に軽く皺を寄せ、少し口を尖らせた表情をした。

 変な顔をしても整ってるね。すごいなぁ。


 少し考えてからこう言った。


「……危機感知スキルがね。

 何もせずにここに留まっていたら10:0ジューゼロで死ぬし、そのまま無目的に此処を出て行っても、50日以内に9:1キューイチで死ぬか、それより酷い状態になる。

 昨日、あの場所に行って適切な行動を取れば、そこそこ生きて行ける確率が上がるって言ったのよ」

「なるほどなぁ。ちなみに、今でどれくらい?」

「昨日で4:6ヨンロク、今日で6:4ロクヨンくらい」

「まだ結構死んじゃうね……」


 それからお互いの近況報告と情報交換を済ませ、結構時間も経ってしまったので、僕は帰途に着いた。

 別れを惜しむ姫様とコナさんを宥め、ようとしたらまだコナさんに怯えられ、亡霊の姫様に逆に宥めてもらい。

 ちらちらと背後を気にする姫様を引きずり、山道を歩くことしばし。


〈あら? 今、そこの茂みで何か動きませんでした?〉


 魔物ですかね。逃げましょう。


〈即断ですわ……!〉


 僕は今日も山道を全力で駆け降りた。

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