079. 冒険者を集め山狩りをするのだ

 学校に入って一番良かったのは、ダメージ計算式を学べたことだと思う。初日の状態異常計算式も参考になったけど、ダメージ計算は一入ひとしおだ。

 剣や弓を使った直接攻撃、機械や火薬を使った間接攻撃、魔法攻撃。特効計算、属性耐性計算、複数属性、貫通効果、貫通抵抗、ガード補正。楽しいなぁ。

 僕はきっと、ダメージ計算をするためにこの世界に来たんだ。


〈お友達は作りませんの?〉


 姫様、友達と言うのは作るものではないんです。

 いつの間にか、自然とできるものなんですよ。


〈そうでしたわね!

 うふふ、いつできるのかしら、楽しみですわ!〉


 2度目の休日、僕はダメージ計算の実践と小銭稼ぎを兼ねて、適当な以来を求めて冒険者ギルドを訪れた。

 すると、もう昼前の時間だというのに、ギルド内は結構な人が溢れている。この時間帯だと、いつもはここまで混んでないんだけどな。


「あ、カマセーヌ様。おはようございます」

「む。平民、貴様も来たのか」


 クラスメイトの馬鹿でかい斧が見えたので、挨拶がてら事情を聞くことにした。


「鬼が見つかった。それで、冒険者を集め山狩りをするのだ。今ここにいるのは第2陣だな」

「え。見つかったんですか」


 鬼、というのは先日会った山本さんのことだよね。

 危機感知スキル持ちの山本さんが、冒険者に見つかったのか。


〈大変ですわ! 助けに行きませんと!!〉


 ですね。たぶん大丈夫だとは思うけど、6:4ロクヨンで死んじゃうそうですし。


 魔物だと認識されてるから問答無用で命を狙われるし、仮に生きたまま捕まっても、貴族の財産を盗んだそうだし。王都の法にもよるけど、どうなるか解らない。

 適当に捜索を妨害して、その間に逃げてもらおう。


「参加するつもりならやめておけ。貴様の手に負える相手ではない」

「カマセーヌ様も行くんです?」


 この人普通に強いし、僕の顔も知られてるからなぁ。


「いや。この俺様も第1陣で参加したのだが、死角から不意を付かれ、あばらを23本やられてしまってな……」

「えええ、早く帰って休んでくださいよ!」


 あと1本しか残ってないじゃないですか、肋骨!


「そうさせて貰おう……かはっ」

〈きゃあ! 口から血が出てますわ!〉

「あの、回服薬あるんで良かったら使ってください」

「む、すまんな……ぐっ、おおっ!?

 これは効く!! 今ので肋が3本は繋がったぞ!」

〈えええ! なんという生命力ですの!?〉


 ダブついてた回服薬をあげたら割りと元気になったので(※本当に3本も骨が繋がったかは知らないし、仮に繋がっててもまだ20本は折れてる)、僕と姫様はカマセーヌ様を見送り、周囲に怪しまれない程度に急いで、山本さんのいる山に向かった。



〈あら、洞窟はもぬけの殻ですわね〉


 山本さんも連れの子コナさんもいないし、奥にあったガチャ宝石の山も無い。もう引っ越したみたいですね。


〈無事で良かったですわー〉


 それじゃ、他の冒険者に見つからない内に帰ろうかな。

 と思ったら。


「やっぱり君か」

「あ、山本さん」


 渦中の鬼こと異世界人の山本さんが、穴の外から現れた。


「もう知ってると思うけど、また冒険者の大群が来るから逃げた方がいいよ」

「知ってる。でも、今ここに来ないと死んじゃうから」

「えぇぇ……ハードモードにも程があるでしょ」


 そんなに世の中は危機で溢れてるの?

 段幕STGシューティングじゃないんだからさ……。


 曰く、前回僕が帰った直後から、何度も危機感知に反応があったらしい。

 コナさんは僕が冒険者ギルドに密告したのではないかと疑ってたらしいけど。あの子そんなこと言うの? まぁ言うかなぁ。

 でも、山本さんは僕を信用して、1人で会いに来てくれたらしい。やっぱりこの人、めっちゃいい人だな。


「君に会えば生存確率が上がるんだから、君が助けてくれるんだと思う。

 迷惑かけて、本当に申し訳ないけど」

「どうかなぁ。山本さんの方が僕より遥かに強いでしょ」


 角も生えてるし。


「結構助けられてるよ。私は」

「1、2回は助けた覚えもあるけど、客観的に見て、その数十倍は僕が助けられてるよね」

「まあ、それは確かに」


 それでも、頼られる分には返して行きたいと思う。


 この非常時に、暢気なのか物騒なのか判らない会話をしてしまっているけれど、山本さんの危機感知が何も言わないなら問題はないんだろう。

 少し様子を見て問題なさそうなら、またお別れかな。

 餞別にあげられる物とかあったかな、お菓子とか……あ、下級魔法薬が余ってるんだよね。勿体なくて自分じゃ使えないやつ。これあげよ。


〈……? あっ、危ないですわ!〉


 突然叫ぶ姫様。


「危ないらしいよ!」


 咄嗟に復唱する僕。


「? …………なっ!?」


 2テンポ遅れて振り返った山本さんを、幾条かの熱線が貫いた。

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