076. 太古のヤンキーは、学校を無断欠席することを「ふける」と称したそうだ

 太古のヤンキーは、学校を無断欠席することを「ふける」と称したそうだ。

 僕は入学2週目にして学校をふけた。


「すみません、お時間いただきまして」

〈大司教さまはやっぱりお忙しいのですわね!〉

「いえいえ。こちらこそ推薦人の立場なのに学業を休ませてしまい、申し訳ありません」


 というのも、僕と姫様の王都における保護者、ウラギール大司教と面会の予定があったので。

 学費、宿代、食費と、生活費の全てを出していただいている大恩人で、僕にとってはこの世界で最も信頼できる人間だ。

 生まれつき対霊特効スキルを持っているため、亡霊を見たり話したり、何だったら素手で触るまで可能らしい。ご本人が紳士なので、姫様にぺたぺた触ったりはしないけども。


「学校の方はどうですか?」

〈同じ年頃の方がずらっと並んでいるのは、不思議な感じで面白いですわ。

 授業中にお絵描きをしている方もいらっしゃいますのよ!〉

「僕は色々と新しいことを学べて嬉しいです」


 姫様は大体家庭教師に習った範囲だそうで、授業中はふわふわと周りの生徒の様子を眺めている。

 学年全体の授業の時は、対霊特効持ちの生徒もいるらしく、手を振ったら驚いていたそうだ。


 学校であった出来事をあれこれ話していると、ノックの後、小学生くらいの男の子が3人分のお茶を持って部屋に入ってきた。


〈あら、あの時の子ですわ〉


 あの時、と言われて思い返してみたけれど、今一ピンと来ない。誰でしたっけ。


「ええ。お2人がこの大聖堂にいらっしゃった日に自然発生ポップした子ですよ」


 ……ああ、あの時の。

 初見は衝撃だったけど、ポップ自体はそう珍しいことでもないらしく、特定の時間帯に大聖堂に行けば結構見ることができる。ので、流石に慣れた。

 姫様が男の子を構ったり(相手からは見えてないけど)、お茶の香りを嗅いだり(飲めないけど)して注意がそれた隙に、大司教様は小声で話し掛けてきた。


「その後、シジューサンワ嬢の調子はどうですか?」

「悪霊化する様子も、未練がなくなって昇天する様子もないですね」

「ふむ。学校が未練という訳でもないのかも知れませんね」

「えぇと、だったら中退した方が良いですかね」


 姫様の未練かもしれないという理由で僕は学校に入り、大司教様にお金を出して貰ったのだし。


「いえ、折角ですから、学校にはそのまま通ってください。元々、シジューサンワ嬢が昇天したとしても、卒業までは支援させていただくつもりでしたからね」


 大司教様は眼鏡の奥の細い目で微笑み、そんなことを仰る。


「学生時代には、卒業後には出逢う機会のない相手とも知り合い、友人になることができます。

 貴方にも生涯の友人ができることをお祈りしています」


 何と素晴らしい人なんだろう。不覚にも、僕はちょっと感動してしまった。

 聖職者とはかくあるべしという、慈愛と信頼感の体現のようなお方だ。

 姫様の父親の領主の人も、この方と交友があったというのならば、僕が思っていたよりずっと良い人だったのかも知れない。安易に人を爆死させる場面ばかり見ていたから印象が偏っていたけど、実際、領地ではそこそこ善政を敷いていると言われていたものな。


〈ええ、お父様は立派な方でしたわ!〉


 と、お茶を置いた男の子が部屋を去った所で、姫様も戻ってきた。

 僕の心の声が聞こえない大司教様には、姫様が突然父親を褒め始めたように見えるだろうけど、何となく話の流れを推測したのだろうか。特に気にすることなく、話を進めることにしたらしい。


「他に何か困ったこと、訊きたいこと等はありますか?

 学校のことでなくても構いませんよ」

「そうですね……あ、では1つ」


 僕はウラギール大司教の御言葉に甘え、昨日から気になっていたことを質問することにした。

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