074. 父方の従姉の、キュウジュワ=デ=バクシースルちゃんですわ

 王立高等学院は7日に1度休日がある(とさっき終礼で聞いた。危なく無人の学校に登校する所だった)んだけど、そんな週末の授業終わり。

 大半のクラスメイトが立ち去って道が広くなった頃合いに、僕も帰途についたのだけれど。


 校舎を出た所で、正門の外からやってくる、何だか見覚えのある煌めきを見掛けた。


〈あら、魔晶玉ですわね。それもあんなにたくさん〉


 姫様の仰る通り、それはガチャに使う宝石だった。ちょっと前まで掘ってた奴だ。

 学校の敷地内に、その宝石を満載した荷車をガラガラ引いてくるメイドさんがいる。何あれ。


 興味を持ってぼんやり眺めていると、メイドさんは校舎と正門を繋ぐ道のど真ん中、貴族っぽい髪形金髪縦ロールの女の子、それを取り巻くメイドの人達、その前で土下座をする女の子の後ろで荷車を止めた。土下座の人は制服もボロボロで、背中に泥の靴跡もついている。


 荷車に気を取られてたけど、こっちの方が凄いだな。


「ふふっ、魔晶玉が来ましたわね!!

 薄汚い平民が! 今すぐガチャを回し、その薄汚れた魂を浄化するのですわ!!」

「ううっ、べろっ、どうか、れろっ、どうかお許しを……! べろっ」

「許し? 許しは女神様が与えてくださるかもしれませんわね!

 ふふふ……ウフフフ………オーッホッホホホ!!!」


 何あれ。


〈あ! あれはキュウちゃんですわ!〉


 お知り合いですか、姫様。


〈ええ、父方の従姉の、キュウジュワ=デ=バクシースルちゃんですわ〉


 どういう人なんです? いや、見れば大体わかりますけど、念のため。


〈ラビットフィールドの町に越してからは滅多に会えませんでしたから、今はあまり詳しくは〉


 うーん。情報が増えない。


〈キュウちゃんが怒ると、靴を舐めて謝るまで許してくれないのですわ〉


 えええ……従妹に靴舐めさせる人います……?

 そして、従姉の靴舐める貴族令嬢っています………?

 というか、さっきから平民の人がべろべろ言ってるの、あれ靴舐めてるんですか???

 情報の増やし方がえげつないんですけど。


 実際の所、姫様もあの領主の娘で、あの女神のわりと熱心な信者だし、別に博愛主義の聖人という訳ではないんだけど。まぁ性格は付き合い易い。

 娯楽や気分で人を殺す趣味はないし、少なくとも、学校で同じ生徒に因縁つけてガチャを引かせようとすることは無いだろう。

 にしてもこれ、正気の状態で見ると、流石につらいものがあるな。


 ……ちょっと止めて来ますね。


〈そうですわねぇ。わたくしもキュウちゃんのお顔を近くで見たいですし〉


 そんなこんなで平民虐めの現場へ向かい歩き出すと、


「何をする気だい、死霊術師君」

「セナ君。いや、廊下で人が死にそうだし、ちょっと止めてこようかなと」


 肩を掴んで僕を止める人がいた。

 僕の後見人というか、姫様の後援者というか、王都でお世話になっている大司教様の、弟子のセナ君だ。


「やめておきなよ。相手は上級生の間でも悪名高いバクシースル準男爵令嬢だ」

〈ええっ、キュウちゃん悪名高いんですの!?〉


 僕初めて見ましたけど、わりと悪名高そうなムーブしてますよ。


「準男爵とは言え、バクシースルは金だけはあるからね。

 君の分の魔晶玉だって用意するだろう。

 止めに入ったって、君と彼女が2人ともガチャを回させられるだけだよ」

〈確かに、わたくしの知ってるキュウちゃんならしますわね!〉


 それは別にどうとでもなるんだけど、ここで強引に止めに行くと、やばい人に目を付けられるってことか。

 残念だけど、あの平民の子には【爆死】以外を引く1%の奇跡に懸けてもらおう。ごめんね。

 でも、無理に助けにいく義理も無いからね……。


「準男爵ってあれだっけ、お金で買える爵位?」

「いや、爵位をお金で買ってどうするんだい。

 準男爵は、男爵相当のスキルを発現する血筋を持った分家だね」

「んん……じゃあ準伯爵とか準公爵とかもいるの?」

「準公爵はいないよ。公爵家自体が、いわば準王族みたいなものだから。

 平民の生まれだと、その辺りは知らないものなんだね」


 僕の知ってる準男爵と違うなぁ。


 そんな世間話をしていると、土下座していた女の子の頭が、土下座した状態のまま爆発した。

 残された身体は徐々に薄くなって消えて行く。


「オーホホホホ! 最後まで醜い死に様でしたわ、所詮は下賤な平民ですわね!!」


 そうして、準男爵令嬢とメイドの人達は、空になった荷車と共に去って行った。

 うーん。やっぱり人が死ぬと気分が悪い。


〈キュウちゃん、昔から変わってませんわね〉


 昔って10年前とかですよね。

 流石にやばくないですか、バクシースル家の教育。


「今のでまた、君の扱う亡霊は増やせたのかい?」


 セナ君は僕の背後の何もない辺りをチラチラ見ながらそう尋ねる。


「増えてないよ。亡霊になるかどうかは、死んだ人の自由だし」


 というか、全然知らない憑かれても、何話せばいいか判らないし。


〈未練も無かったのかしら?〉


 逆に聞きますけど、当然のように靴を舐めさせられ、果ては殺されるレベルの虐めを受けてた人が、此の世に残りたいとか思えますかね?

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