073. 貴様、授業中にふざけているのか!!

 入学式翌日、授業初日、最初の授業の時間。

 半円形で段差のついた大教室で、姫様に言われて最前列中央の席に僕は座っていた。

 学年全体での合同授業なので、全体で80人くらいの生徒と、貴族の御付の人が50人くらいいる。

 背後からの視線というのは、自分に向いていないのが判っていても嫌な感じがする。


 状態異常について、という標題が黒板上部に大きく綴られた。


「知識の有無だけで大きく生存率に関わる物が、状態異常です。

 ですので例年、戦闘座学の最初の授業では状態異常についての説明を行います」

〈ふむふむ、なるほどですわ。これは重要ですわね!〉


 教室内で最もとは縁遠い亡霊の人が大きく頷いた。


「多くの状態異常は直接命に関わる物ではありませんが、状態異常に冒される状況でそれを放置しておくと、そのまま命まで奪われることに繋がるでしょう。

 魔物や賊との戦闘中は勿論、戦争や暗殺といった日常の中にも状態異常の危険は含まれます」


 戦争や暗殺って日常なんですかね。


〈王都にいた時は、我が家にも年に数度は暗殺者がいらしてましたわよ〉


 貴族怖いですね。


 姫様の肯定に戦慄する僕を他所よそに、戦闘座学担当の先生はチョークを振るって板書してゆく。


  ■状態異常10種

  毒―――有害物質

  混乱――精神異常

  転倒――運動神経遮断

  病気――身体異常

  睡眠――精神活動遮断

  魅了――感情異常

  幻惑――認識異常

  暗闇――感覚遮断

  魔封――魔力操作異常

  即死――霊魂遮断


 ほえー。今まで大体状態異常が入る前に戦闘終わってたし、たまに入ったように見えても「何か動きが悪くなったな?」くらいの感じだったけど、こうしてまとめてもらうと、何か格好いいね。

 ところで、即死ってやつだけ持ってないけど、当たると即死するの? バランス調整大丈夫?


「10種の状態異常を分類すると、このようになります」


  A.効果

  ・異常→混乱、病気、魅了、幻惑、魔封

  ・遮断→転倒、睡眠、暗闇、即死

  ・物質→毒


  B.対象

  ・肉体→毒、転倒、病気、暗闇、魔封

  ・精神→混乱、睡眠、魅了、幻惑

  ・霊魂→即死


  C.スキル・種族特性以外に耐性が

  ・有効→毒、混乱、魅了、幻惑、魔封

  ・一部有効→病気

  ・無効→転倒、睡眠、暗闇、即死


 情報量が多い! ノートに写すからちょっと待ってくださいよ!

 スキルの混乱耐性は精神的な混乱にも効いてる(と信じたい)けど、これ見ると、睡眠耐性があるから眠らないとか、暗闇耐性があるから目が光るとかいうわけじゃないんだね。


「状態異常付与の手段は幾つかあります。状態異常付与魔法、一部の魔物が種族特性として持つ状態異常付与攻撃、状態異常付与スキルの付いたドロップアイテム、また、滅多にありませんが素の状態で状態異常スキルを所有している方でしたら、全ての攻撃行動に状態異常効果が乗ります。

 状態異常の防ぎ方も複数ありまして、種族特性による抵抗力、肉体や精神の意識的な操作による抵抗、状態異常耐性スキルの付いたドロップアイテム等です」

〈うちにも毒耐性スキルの付いた銀食器がありましたわよ〉


 へー便利。

 そういうのって、どうやって作るんだろ。

 まぁ僕は自前の毒耐性(蓄積値-50%)があるから、急ぎで必要な物ではないかなぁ。


「状態異常は、状態異常付与の効果を持つ攻撃を受けると、特性やスキル等の効力に応じ蓄積値が増加します。薬や時間経過による蓄積値の減少を待たず、値が100%を超えると、実際に状態異常が発症する形になります。

 その計算式についてですが、判りやすく言いますと……そうですね、ではこの中で、状態異常付与スキルを持つ方はいますか?」


 先生の質問に、僕を含めて10名足らず程の人が挙手をした。


「概ね例年通りの割合ですね。

 では、その状態異常耐性スキルを持っている方はいますか?」


 続けての質問にも、僕を含めて同じくらいの人が挙手。


「そうですね、ではわかりやすい所で、毒状態について考えてみましょう。

 先程挙手をした方の中で、毒付与のスキルを持っている方はいますか?」


 僕ともう1人が手を挙げた。


「では、毒耐性のスキルを持っている方は?」


 今度は手を挙げているのは僕だけだ。


「おいっそこの平民! 貴様、授業中にふざけているのか!!」


 僕の2つ後ろの席に座っていた貴族の人が怒声を上げる。

 正直、僕も怒られるんじゃないかとは思ってたけども。


〈あの方、同じクラスの斧の方ですわね。急にどうされたんですの?〉


 僕がずっと挙手しっぱなしだから、ふざけてると思われたんでしょうけど。


「持ってるんだから仕方ないじゃないですか……」

「そんなわけがないだろうが! スキルは貴族の血を引く者のみが女神様から授けられた、高貴なるしるしだぞ! それをただの平民が、それも複数持っているだと!!」


 いや、平民でもガチャで引けるでしょ。財力さえあれば。

 とは思うんだけど、口には出さない。


〈ふふふ、何をかくそう、このわたくしもスキルを2つ持っているのですわ……!〉


 姫様は元々持ってた【対物特効:下級】と、ガチャで引いた【病気耐性:上級】でしたか。

 病気耐性の方は亡霊だからあんまり意味なさそうですけど。


「この俺様が話しているのに、何だその態度は……っ!

 もう許さん、この俺様が、本物の状態異常スキルの効果を見せてやる!!」


 わぁ、何か怒ってる!


〈わぁ、申し訳ありません! わたくし少し静かにしますわ!〉


 ちょっと遅かったかもですね!

 僕は慌てて先生に助けを求める視線を送ると、


「ううん、実際に状態異常の発症を見てもらうのも良いかも知れませんね。2人とも、前に出てください」


 授業の一環に組み込まれてしまった。


がんばれふんふふぇー!!〉


 口を押えた姫様が応援してくれているけど、しばらく意識を切り離すことにした。



「まずそちらの貴方、状態異常付与スキルをお持ちということですが、何の何級ですか?」

「はいっ、【睡眠付与:上級】です!!」

「上級なら蓄積値は50%ですね。

 耐性が完全にゼロならば、2回の攻撃で蓄積値100%となり、睡眠状態が発生します。

 しかし、大抵の生物は種族特性で状態異常に対する抵抗を持っているため、その通りにはなりません。

 固定値での抵抗がない人間等でも、肉体系の状態異常ならば防御力に、精神系の状態異常ならば精神力に依存し、通常は1~10%程度の蓄積値削減を行います。

 そうですね、ここでは仮に5%としておきましょう」


  [スキル 50%]-[精神抵抗 5%]=[付与 45%]


「と、3回の攻撃で状態異常が発症する形になります」


 あれ、そこ引き算なの?


「すみません、先生」

「はい何でしょう」

「状態異常耐性が10%あったら、50%の内の10%……つまり5%が減るんじゃなくて、そのまま10%が減るってことですか?」

「そうなりますね」


 何かこれ、思ってたより状態異常耐性スキルって強いのでは。

 僕はメニューを開き、自分のスキルを確認する。


「すみません、僕【睡眠耐性:下級】が5つあって、蓄積値が-50%になるんですが」

「……………? ああ! 君が例の」


 例の何です。


「そうですね、でしたら、」


  [スキル 50%]-[精神抵抗 5%]-[耐性 50%]=[付与 なし]


「こうなりますので、何百回攻撃を繰り返しても、状態異常は発症しませんね」


 教室がざわついた。

 たぶん、先生があっさり僕の妄言を受け入れたからだろう。


「なぬっ、先生! この平民の言うことを聞いておられましたか!?

 下級の耐性スキルが5つ等とふざけたことを……!」

「では実際に試してみましょう。ここに、叩かれても音がするだけで、あまり痛くない特殊な素材のハンマーがあります」

「ぐぬぬ、では良いでしょうっ……! 全力で叩き潰してやります!!

 くっ、ここに俺様の斧があれば………っ!!」

「そうですね、叩き潰されると状態異常の実験になりませんので、ある程度は加減をしてください」

「お話し中すみません、全力で手加減をお願いします」


 それから結構な勢いでピコピコピコピコ20回ほど叩かれ、納得した貴族の人にも肩をバシバシ叩かれながら謝られたけど、衝撃耐性スキル(被害量-60%)のお陰で事なきを得たよ。

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