072. 新入生諸君、入学おめでとう!

「新入生諸君、入学おめでとう!

 今日より諸君も一員となる王立高等学院は、我が国最高峰の学術機関である。

 1人1人が学院の生徒である自覚を持って行動するように!」


 入学のセレモニーは3行で終わった。

 かくして、僕も王立高等学院の生徒となったわけだ。


 卒業までは最短で3年。

 研究課程に入ったら追加で2年というけど、そもそもの入学目的を考えると、そこまでは必要ないだろう。

 何だったら初年度に中退しても構わない。


〈ご入学おめでとうございます!

 うふふ、今日から憧れの学園生活ですわね!〉


 姫様もご入学おめでとうございます。

 僕や他の生徒と同様、亡霊の姫様も、白いショートローブを軸にした学園の制服を身に纏っている。足が無い系の亡霊なので、スカートからはニョロニョロしたしっぽみたいなのが生えていた。

 服と言っても霊体の一部だし、慣れれば気分で変えられるらしい。


〈どうです、似合います?〉


 はい、学校で亡くなった生徒の霊みたいに見えますよ。

 でも入学しただけじゃ未練も晴れないんですかね。


〈授業が楽しみですわ!〉


 本日で没後96日となる(本人が数えてた)姫様は、相変わらず楽しそうに亡霊をやっていた。

 相変わらず悪霊になる気配もないし、もう気にしないで良いかな。なるようになるでしょ。



 で、今から大講堂からクラスごとに分かれて教室へ移動したんだけど、うちのクラスは他と比べて人数が少ないらしい。


 まず、成績上位の貴族や聖職者が集まったA組。

 この学校で唯一の知人、大司教の弟子のセナ君はここ。

 それぞれ貴族の御付の人もいるので、人の数は一番多い。


 次に、成績下位の貴族と成績上位の平民が集まったB組。

 平民の人が貴族の人の学力や技量を支えるというか、まともに出来るようにお前らが育てろよ、みたいな意図で組まれたクラスらしい。

 平民でも、お金持ちの人は貴族と同じだけの学費を払っている(僕も後見人の大司教に全額払って貰った)し、学費は払えない人も「有事の際に国に協力する」的な契約だけ結んで免除されてるはずなんだけど、その辺はあまり関係ないようだ。


 そして、よくわからない連中が集められたX組。僕はここ。

 何だ、よくわからない連中って。3クラスなんだからC組でいいでしょ。


「クラス分けについては以上です。何か質問はありますか?」


 X組に所属する貴族の人がクラス分けの基準について講義した所、担任の先生が返したのが、先程の説明だった。

 担任はたぶん、入試で面接を担当してくれた男の先生だ。

 そう考えると、一応セナ君以外にも知ってる人はいたんだね。


 担任が自分の生徒を「よくわからない連中」と括るのはどうかと思うけど、教室内を見回せば、言いたいことは判らないでもない。

 肩に猛禽を乗せた人とか、頭にタヌキを乗せた人とか、角の生えた人とか、眼鏡をかけたヒツジとか、リボンを付けたヒツジとか。

 担任の先生を含め、人間と亜人が計10人、鳥が1羽、タヌキが1匹、ヒツジが2頭、亡霊が1人。

 教室内の実に1/3近くが魔物だった。


〈329番さん、それは人種差別発言ですわ!

 あの方々はインテリヒツジといって、亜人の1種ですの!

 ですので、魔物率は1/5ですわよ!!〉


 んんん。それでは、魔物率は1/5です。


 ともかく、このX組によくわからない連中をまとめたのは間違いないんだろう。

 先程騒いでいた貴族の人(すごいでかい斧を持ち歩いている)も納得するくらいなので、クラスの他のメンバーからも反論などはなかった。

 あ、よく見ると、あのでかい斧の人。入試の時に剣術試験で戦った人だな。他にあんな斧の人いないよね。


「質問は無いようなので、全体としては以上です。

 ホームルームは終了となりますが、必要ならば各自、席を移動して自己紹介を行っても結構です」


 先生の言葉が終わるやいなや、角の生えた女の子が荷物をまとめて教室を出ていく。

 自己紹介なんか絶対するものか、という強い意思を感じた。


 何だっけ、基本的には何でも角が多いほど強いんでしたっけ?


〈そうですわね。あの方は西のネック森国に住む角エルフの方ですわ。

 角の数は1本ですが、角無しの人間やエルフよりも種族的に強いらしいですわよ〉


 なるほど。ヒツジの人達は角が2本ありますね。


〈勿論、インテリヒツジは大陸西部の人族では最強の一角とも言われてますのよ!〉


 すごいなインテリヒツジ。名前からして頭良さそうだしな。

 とはいえ、ウサギ(角1本)より僕(角0本)の方が強いので、単純に角の数が全てという訳ではないと思うけど。


 ヒツジの人達の席に目をやると、念力か何かで荷物をまとめ、帰り支度をしている所だった。

 というか、みんな普通に帰ろうとしてるな。

 自己紹介タイムとは一体……。


〈ふふっ、329番さん。

 友達の作り方を御存知ありませんのね?〉


 僕は「姫様も友達いませんでしたよね?」という思考を読み取られないよう、深層心理に押し込めた。


〈友達というのは、作ろうとして作るものではないのです。

 いつの間にか友達になっているものなのですわ!〉


 なるほど、それは一理ありますね。

 じゃあ僕も帰ろ。

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