071. 後は結果を待つのみだ
王立高等学院、入学試験の2科目目は「魔法」だ。
魔法は使えない人は使えないので、使えたら加点程度の話だ。
ここでは【高速詠唱:下級】×2(上昇率+2%)が役に立った……のかどうかは判らない。
〈氷のイメージは、ヒヤヒヤ~、よりシュキーンッ、ジャクジャクッ! ですわ!〉
姫様のよくわからないアドバイスを参考にしつつ、属性魔法の炎熱、冷気、電撃を一通り。
ウサギの肉を焼くのに使った炎熱はともかく、他の2つは微妙な所だった。
僕の中の冷気のイメージは冷蔵庫かエアコンだし、電撃のイメージは豆電球か静電気。
使えないよりはマシだと思うよ。
試験の3科目目は「知識」。
これが一番重要というか、僕が一番点を取れる可能性があるのがこれだった。
そもそも、ファンタジー世界の連中と剣術や魔法の腕を比べて、それで優位に立てる可能性があると思いますか?
無いよ。
この知識試験の変わっている所は、本やノートの持ち込みは禁止だけど、自分の個人メニューの閲覧――ステータスメニューやギルドメニューなんかは、自由に閲覧して良い点。
魔物の情報を問われる問題ではギルドメニューの「図鑑」タブを見ても良いし、スキルの情報を問われる問題ではステータスメニューの「所持スキル一覧」タブを見ても良い。
自分の戦ったことのある魔物、自分が持っているスキルについては、神様が用意した解答を見ることができるという話。経験や才能で、知識を補える形なわけだ。
〈わたくしも気合入れて応援しますわー!〉
あ、そうだ。確認するの忘れてた。
僕は席の近くにいた試験官の人に声をかける。
「すみません、質問宜しいでしょうか」
「はい、何でしょう?」
「この試験って、スキルの使用は問題ないんですよね」
「そうですね」
そう、その辺りにもスキル所持者優遇のルールがあったりする。
「例えば、スキルを使って誰かに問題の答えを聞くとか、近くの人の答案を覗き見るとかは?」
「スキルで他人に答えを聞くのは問題ありません。過去にも念話スキルで満点を取った受験者がいましたからね。ただ、他の受験者の答案を覗き見るのは不正となります」
「わかりました。ありがとうございます」
ということで、スキルを使って姫様に答えを聞くのは問題ないそうです。
〈まぁ、本当ですの! わたくしも試験に参加できますのね!!
うふふ、夢にまで見た入学試験ですわ!!〉
姫様も嬉しそうなのでWin-Winですね。
計算問題は姫様の方が早いけど、幾何学や方程式は僕の方が慣れている。【高速思考:下級】×8(上昇率+8%)も多少は役に立ったはずだ。
王国の歴史問題なんかは姫様頼りだけど、「スキルの名前と効果を書けるだけ書け」みたいな問題は答案用紙の裏まで埋めた。
そういうわけで、知識試験については結構悪くないと思う。
で、最後の試験が「面接」。
「受験番号エ‐41番、入りなさい」
「はい」
〈はい!〉
僕は姫様の動きを横目に面接室に入り、姫様の動きに合わせて面接官のおじさんにお辞儀をしたり、綺麗な姿勢で歩いたり、椅子に座ったりする。
他所の国の作法なんか知る訳がないけど、姫様は生まれついての貴族の人だし、この辺の礼儀作法はばっちりだ。
「んん……その動作は、誰かに教わったのですか?」
「はい、知人の貴族の方に教わりました」
「よく身に付いていますが、それは貴族女性の動作ですね」
〈はっ、盲点でしたわ!?〉
「ご指摘いただきありがとうございます」
僕は表情を変えずに、その後の所作を僕なりに改めた。
「貴方の紹介者は、なるほど、ウラギール大司教ですか。大司教とはどういったご関係で?」
「私に礼儀作法を教えてくれた方が、ウラギール大司教の知人のお嬢様で、その縁から貴校への推薦をいただきました」
間違ってはないと思うし、他に言い様もないと思う。
「そうでしたか。推薦状にはスキル保有者とありますが、本当でしょうか。
ステータスメニューから、スキル名と効果の説明を読み上げていただけますか?」
「え、全部ですか?」
「はい? ええ、全部です」
「わかりました」
〈ええ……めんどくさいですわね……〉
でもまぁ、面接ですからね。
「はい、では読み上げます。まず【体力上昇:下級】が4つ、保有者のステータスの体力を4%上昇。【魔法力上昇:下級】が6つ、保有者のステータスの魔法力を6%上昇。【攻撃力上昇:下級】が4つ、保有者のステータスの攻撃力を4%上昇。【防御力上昇:下級】が5つ、保有者のステータスの防御力を5%上昇、【敏捷性上昇:下級】が…」
「ちょ、ちょっと待ちなさい! 私は、貴方が保有しているスキルの名前と効果を読み上げるように言ったのですが」
「はい、ですので、保有スキルの名前と効果を上から順に読み上げて……あ」
そういえば【ガチャで
「すみません」
「はい、判ったなら、貴方の保有スキルだけを……」
「1つだけ
先日大聖堂で昇天したプレタさんが存命だった頃に、この呪いの話をしたら、誰にも言わない方が良いって言われたんだよね。
亡くなった人の遺言みたいなものだし、言わないで済むなら言いたくないなぁ。
「伝説級スキルですか……? もしもそれが本当なら、公開を強要することはできませんが。しかし、そんなもの王族でもなければ…」
「ありがとうございます、では先程の続きから。えー、【敏捷性上昇:下級】が7つ、保有者のステータスの敏捷性を7%上昇。【器用度上昇:下級】が3つ、保有者のステータスの器用度を3%上昇……」
「ちょっと、ちょっと待ちなさい! 隠したい箇所は隠しても結構ですので、スキル一覧を見せてください!」
「はい、わかりました」
僕も出来ればそうしたかったんだけど、面接って口頭が基本だからな……。
ということで僕は試験官の人の隣に移動し、【ガチャで
「はい、以上です」
と言って視線を上げると、試験官の人は口を開けて硬直していた。
〈あら? 試験官さま? どういたしましたの?〉
姫様が試験官の人の顔の前で手をパタパタ振ってるけど、これあれですね。やっと気付いたわ。
しばらく人に見せてなかったから忘れてたけど、僕のスキル数って、(効果量はともかく)数だけなら異常に多かったんだよなぁ。
というか姫様、姫様も最初、似たようなリアクションしてましたよね。
〈そうだったかしら?
うーん、女神様の祝福に感動したような覚えがありますわよ?〉
確かに慣れるのも早かったですけど。
ともあれ、試験官の人が正気に戻るには少々時間がかかり、残りの面接時間は何だか駆け足で終わってしまったのだった。
これにて試験はおしまい。後は結果を待つのみだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます