070. 我がカマセーヌ家の家宝【斧:鋼鉄の巨戦斧+42】の錆にしてくれるわ!
王立高等学院は、カタロース王国で最も権威ある学術機関であるらしい。
学術機関というのは、教育と研究を担う機関らしいので、大学みたいなもんだと思う。
玄関口で貰ったパンフレットに書いてた。
元は貴族の子女だけが通える学校だったんだけど、何年か前に平民にも門戸を開いて、身分や生まれを問わず、幅広く人材を集めるようになった。
貴族は大体自費、平民はお金持ちなら自費、お金がなければ奨学金で通えるらしい。
〈竹刀に、盾に、杖に、筆記用具に、お財布に、ハンカチに……忘れ物はありませんわね!
最初は剣術の試験ですわよ! うう、緊張しますわ~!!〉
何度も確認したから大丈夫ですよ。たぶん。
剣術の試験は、最低限武器が使えれば大丈夫って話でしょ。
〈あ! 受験票は持ちましたの!?
もう一度確認してください!!〉
門の所で出したんだから、確実に持ってますよ。
受験票と言えば、この紙。
ウラギール大司教にいただいた受験票を見せると問題なく構内に入ることはできたんだけど、写真どころか僕の名前すら書いてないんだけど、替え玉受験し放題なんじゃないかな。
推薦者の名前は書いてるのに、受験者の欄が「平民」になってるんだよなぁ。平民ならどこの誰でも変わらない、という話かな?
と、足音と影が近付いてくるのに顔を上げた。
「おはよう、死霊術師君」
「あ、セナ君。おはよう」
「試験前に学校案内のパンフレットを読んでいるのかい? 随分と余裕なんだね」
そう言われて周囲を見回してみると、周囲の受験生達は、木刀で素振りしていたり、座り込んで瞑想していたり、単語帳を睨みつけていたり、何かに祈りを捧げていたり……なるほど、受験生らしいピリピリした空気を放っていた。
「そうは言っても、今から悪足掻きしたって無駄に疲れるだけだしね」
「それには同意するけど……どうも君、周囲から反感を買っているようだよ」
〈ええっ、そうなんですの!? 学園物語で読みましたわ、これが平民
違いますよ姫様、これは同調圧力というやつです。
彼らは僕に、空気を読んでピリピリしろと言いたいのでしょう。しましょう。
「ありがとうセナ君。僕もちょっとピリピリするから、えーと……話し掛けないでくれるかな」
「あ、ああ……なら、僕も素振りでもしているかな……」
キリッとした顔で言ってみると、セナ君も納得してくれたらしい。
入学試験の1科目目は「剣術」。
これは剣に限らず武器を使った戦闘のテストで、受験生同士で何試合か打ち合いをして、内容によって試験官が評点を付ける物だ。魔法の使用は不可。
魔物使い的な扱いなのか、大きな犬を引き連れた人もいる。というか、結構それ系の人も多い。キツネとかタヌキとかヒツジとか。
僕の最初の対戦相手は、そういう魔物使い的な人じゃなくて、普通に自分の力で戦う感じの人だった。ただし、全身が装飾だらけの豪華な金属装備と……なんというか、非常に立派な、武器。
対するこちらは、竹刀と竹の盾に竹の防具を纏った全身竹装備。
「俺様の相手は平民か、つまらん。これは勝負にならんな」
僕もそう思うけども。
「勝敗じゃなくて、戦闘の内容に点数を付けるらしいですよ」
パンフレットに書いてたし。
「平民の分際で、この俺様を愚弄する気か!
我がカマセーヌ家の家宝【斧:鋼鉄の巨戦斧+42】の錆にしてくれるわ!」
相手の人はそう言って柄の長さは背丈ほど、刃のサイズは1畳程の両刃斧を両手で振り上げる。
試験官の人も何も言わない。
いや、あれ死ぬやつでしょ。武器のサイズを
試験官の人も何か言ってくださいよ。
「はじめ!」
開始の合図じゃなくてですね!
「ぬおおおおおおおっ、死ねええええええ!!」
〈フレー、フレー! 329番さん!!
相手はムサボリオオウサギよりも遅いですわ!!〉
いや姫様、そりゃ確かにウサギよりは遅いですよ。
大抵の人間は全力のウサギより遅いですからね? ウサギは巨大な斧も持ってませんし。
僕はひとまず牽制として、ムサボリオオウサギにするのと同じように、左手に持っていた竹の盾を投げつけた。
「ぬわっ、小癪な!」
ガチャアイテムとは言え所詮は竹だ、相手は剛腕で斧を振って側面で受け流し、
「ふべらっ!?」
と思ったら、顔面に直撃して仰け反った。何これ怖い。
気付けば、僕の左手には【斧:鋼鉄の巨戦斧+42】なる武器が装備されていた。
一瞬だけ僕、相手、試験官の人の動きが止まる……が、おっも! 倒れる!!
〈……あっ、窃盗スキルですわ!〉
あ、なるほど。
4つ重ねて成功率20%にまで上昇した僕の【窃盗:下級】スキルが、盾による投擲攻撃で発動したらしい。最近獣の類としか戦ってないから忘れてたけど、これ他人様の装備してるドロップアイテムも盗めるんだっけ。
………どうしよう、貴族の家宝を盗んでしまったぞ。
早く返そう、というか、今、重力に引かれて半自動で返却中だ。
「そ、そこまで! 勝負あり!」
と我に返った試験官の人がストップをかけたが、これは僕の意思ではない。大地の意思だ。
「避けてください!」
「……うおっ、オオオオオオオッ!!!」
相手の人は間一髪で斧の直撃を避けた! 良かった!
「ふっ……この俺様を倒すとは、平民にしてはなかなかやるではないか」
〈やりましたわー!! おめでとうございます!!〉
そして意外と怒ったり何だりもせず、素直に負けを認めてくれた。
ありがとうございます。
なお、その後も4戦続いた剣術試験では普通に全敗した。
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