064. 僕は休憩を切り上げ、可能な限りの全速力で王都の方へ向かうことにした
あ。やべ。
〈今度はどうしましたの?〉
メイドの人の遺灰も遺骨もないけど、というか死んだら何も残らない世界なんですけど、どうしましょう。
普通は何を入れるんですか?
〈入れる? 何処に、何をですの???
お墓に何かをです。
故人のドロップアイテムとか? 出ない人も多いですけど。
〈え、え? お墓に??? 墓石にですの???〉
どんなギミックですかそれ。
〈少年、そっちの墓では、墓の何処かに何かを入れるのか?〉
〈ああ! そうなんですの?〉
あ、こっちは何も入れないんですか。
〈そちらの世界では死体が残るんでしたわね。
お家にご先祖様の死体が溜まっても、邪魔になりますものね……〉
別に邪魔になるからって訳じゃないと思いますけど、うーん。
物理法則が違うと異文化理解のハードルが上がるんだよなぁ。
曰く、この世界でのお墓というものは、墓石に魔法で名前と眼や耳の意匠を刻んだだけの物らしい。
故人が死後の世界から、墓石を通してこちらを見たり、生きてる人の声を聞いたり出来るように、とかそんな感じ。
女神も亡霊もいる世界だけど、どこまで実効性があるのかは不明だ。
〈いい機会ですし、魔法の練習にもなりますわ!〉
と姫様が指導してくれるそうなので、1日かけて基礎的な魔力の扱いから習い、翌朝から墓石の作成を始めた。
廃墟の土台にちょうどいいサイズの石があったので、ベースはそれ。
魔法を使うための触媒は、ガチャアイテムの【杖:竹の杖+3】だ。我ながら良い感じに出来たと思う。
〈これでラヴィのお墓も完成ですわー!
また未練がなくなりましたわね!〉
軽いなぁ。
これ、姫様いくつ未練あるんですかね。
〈正直よくわかりませんわ。
これが最後の未練だと思っていたのですが、モッコイさんの時みたいなキラキラは出ませんわね〉
〈ああ、墓石……羨ましいでゴス……〉
安易な語尾みたいになってますよ、プレタさん。
そろそろ慣れてきましたけども。
それより、慣れない魔力操作で疲れたし、出発はお昼ご飯(※焼いたウサギの毛皮)を食べてからにしようかな。
ぶつぶつ呟くプレタさんは落ち着くまで放っておくとして、休憩がてら、僕は久々に自分のギルドメニューを開いてみた。
〈あ、図鑑ですのね! わたくしも見たいですわ!!〉
と、背後から姫様が覗き込んでくる。
どうぞー。
登録者本人がギルド証を所持することで開けるギルドメニュー。
そこでは受注している依頼の管理、達成数などの確認の他、「図鑑」タブでは相対した魔物等(人間や亜人も載ってた)の記録を見ることもできる。
神様が作ったとかいうデータベース的な物と接続し、簡単な説明も表示されるので、モンスター図鑑的に使えたりして面白い。
ギルド証を所持した状態で遭遇した種族だけが表示されることから、危険なモンスターの発見報告にも使われるそうだ。
〈ロックビーストが載ってないのは残念ですわ〉
鉱山奴隷時代はギルド証も没収されてましたからね。
山で見た獣は載ってると思いますけど。
人系は人間、ゴブリン、だけか。
〈ラビットフィールドの町には亜人は少ないですものね。
鉱山奴隷には半獣人の方もいましたわよ〉
え、僕それ会ってないですね。
〈耳と尻尾が削がれていたので、気付かなかったのかも知れませんわ〉
……まあ、会っててもギルド証が手元になかったから登録されてないか。
で、えぇと、獣系がウサギ、ムサボリオオウサギ、オオカミ、キツネ、タヌキ。
そういえば、牛はギルド証もらってから見てないな。
〈ラビットフィールドにウシですの?
牧場から逃げたウシが野生化したのかしら。
ラビットフィールドはマナが豊富ですので、家畜が野生化しやすいのですわ〉
よくわかんないですけど、マナ怖いですね。
それから、霊系が亡霊、と……んんん。
ヤングゴースト? 何これ。
姫様、御存知です?
〈わたくしも知りませんわ?〉
ふーむ。
僕は軽い気持ちで名前をタップし、説明文を開いてみた。
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■ヤングゴースト
種族:ヤングゴースト 平均寿命:15日
▽概要
未練を残した亡霊が変異した魔物で、ステータスやスキルは生前の物に依存します。
ある程度の理性と記憶があるため、基本的に生前の仲間等には敵対的ではありませんが、そのまま放置すると理性も記憶も徐々に薄れてゆき、15日前後でイヴィルゴーストに変異します。そうなると生命特効の種族特性を取得し、あらゆる生命を殺し尽くすまで暴走します。
通常の輪廻転生ルートからも外れてしまいますので、早めに未練をなくして、昇天させてあげて欲しいです。
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うーん。
プレタさんがゴスゴス言い始めたのっていつでしたっけ?
〈確か、町を出る前だったかしら? 一昨日ですわね〉
なるほどですね。
〈ゴスゴス……ピーマンの種を取るときは、ヘタの方から指を付き込んで、抉るようにごっそり掻き出すと良いゴス………種は炒めて黒土の庭に蒔くと、オシャレなコントラストになるゴス……生命が憎いゴス………人が憎いゴス………〉
僕は休憩を切り上げ、可能な限りの全速力で王都へ向かうことにした。
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