060. 弓や竹刀や槍や杖や盾や金属の棒を1人で持って町中を

〈さあ、次はわたくしの番ですわよ!

 …………329番さん? 何をキョロキョロなさってますの?〉


 いえ、また死んだ時みたいに、しれっと戻って来るのかなと。


〈ふふっ、おかしな方ですわ。昇天した方が戻ってくるわけありませんわよ~〉


 死んだ人が亡霊になって戻ってくる時点で、僕にとっては常識外なんですけどね。


 先輩亡霊のモッコイさんが昇天する姿を見てか、姫様もテンション高く空中をくるくる回っている。

 脚の方はニョロニョロと細くなってゆくオーソドックス・オバケ・スタイルだけど、これは既に未練がなくなり霊体が溶け始めている……という訳ではなく、この人は元々こうだった。


〈あ、でもプレタさんの方が先に亡くなったのですから、お先に昇天していただく方が良いですわよね?〉


 ぱたりと動きを止め、もう1人の先輩亡霊に顔を向ける。


〈まずはお家に寄りますの? わたくし、プレタさんのご家族にもお会いしたいですわ!〉

〈家族は別の町に住んでますし、今の家は寮なんで、もう引き払われてると思います。

 アタシの未練はたぶん、王都の大聖堂に行くことですからね。姫様お先にどうぞ〉

〈それは残念ですわ……では、お先に失礼いたしますわね!〉


 姫様の未練って何でしたっけ。


〈まずはお兄様のお顔を見に行きたいですわ!〉


 なるほど、お兄さんはどちらにお住まいで……って、そうか。

 領主邸ですよね。姫様の領主の娘だし。


 これは困ったな。


〈何が困りましたの?〉


 何というか、色々あるんですけど。

 そうですねぇ、では僕のステータスメニューの「装備一覧」タブと「所持アイテム一覧」タブを見てください。

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■装備一覧

 右手/弓:竹の弓+5 (対獣特効:加算量+30%)

 左手/(└両手装備)

 頭部/額冠:鉢竹+3 (混乱耐性:蓄積値-40%)

 胴体/鎧:竹甲+1 (体力上昇:上昇率+2%)

 腕部/手甲:竹の手甲+1 (器用度上昇:上昇率+2%)

 脚部/靴:竹編み靴+1 (敏捷性上昇:上昇率+2%)

 装飾/首飾:絹のネクタイ (【精神力上昇:中級】)

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■所持アイテム一覧

 ・王国通貨×20c

 ・下級魔法薬×2

 ・剣:竹刀+1 (対人特効:加算量+10%)

 ・槍:竹の槍 (【対空特効:下級】)

 ・杖:竹の杖+3 (魔法力上昇:上昇率+4%)

 ・盾:竹の盾+2 (防御力上昇:上昇率+3%)

 ・首飾:竹細工の首飾り (【病気耐性:下級】)

 ・双剣:トレッキングポール (【転倒耐性:中級】)

 ・ウサギの毛皮×10

 ・魚の鱗×1

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 どう思います?


〈全身をガチャアイテムやドロップアイテムで固めるとは豪勢だね。竹とか布とかばっかだけど〉

〈どうしてそんなにウサギの毛皮ゴミを持ち歩いてますの?〉


 ウサギの毛皮は、捨てるのも勿体ないし、案外使うこともあるし……それは良いじゃないですか。


 ここに表示されるのはガチャアイテムとドロップアイテムのみで、例えば鎧の下に着ている制服なんかは表示されない。

 この世界にはいわゆる異次元収納アイテムボックスはない(※有料で使える超激レアアイテム【拡張ストレージ】は存在するけど)ので、入るものは背負い鞄デイパックに突っ込んでいる訳だ。入らないものはデイパックから突き出した状態だったり、ベルトに差したり、手で持ったりしている。


 つまり、僕は今、弓や竹刀や槍や杖や盾や金属の棒を1人で持って町中を歩いているわけ。


〈改めて言われると、不審者以外の何者でもないね。絶対職質するわ〉

〈完全に見慣れてましたわね〉


 冒険者でもこんなに凶器持ち歩いてるやつ見たことないよ。


〈そもそも少年は祭で暴れた前科と、領主殺しの前科まであるからね〉


 領主殺しは冤罪ですけどね!

 すみませんが、これで領主邸には近付けないので……。


〈そうですわね。では、遠目に見るだけで構いませんわ!〉


 申し訳ないですが、それでお願いします。



 で、こっそり見に来た。

 鉄柵の隙間からお屋敷を覗くと、広い庭の向こうの大きな窓際、領主の執務室なる所に人影が見える。

 机に向かって、お仕事でもしてるっぽい。


〈あっ、あれ若様じゃないですか?〉

〈本当ですわ! おーい! おーい! お兄様ー!〉


 スニーキング・ミッションとは思えない賑やかさだな……。

 亡霊が大声を出しても一般人には聞こえないので、問題ないんだけど。


 あ、こっち向いた。


〈あら! お兄様ー! お兄様ー! わたくしですわー!!〉


 窓の外を見て、首を傾げているような。

 もしかして、あの方って対霊特効スキル持ってます?


〈お兄様のスキルは、えぇと、何だか忘れましたが頭の良さそうなスキルでしたわ!〉


 よくわかんないけど、本当に声が聞こえた訳じゃなさそうですね。たぶん。


 それから少しして、姫様のお兄さんは机に戻った。


〈ふー! これで未練が1つなくなりましたわ!〉


 と姫様はこちらを振り返る。

 え、もう良いんです?


〈はい! では次の未練です!!〉


 ……いやにサクサク進むけど、未練ってそんなものだろうか。

 まぁ本人が良いならいいか。

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