051. 危機感知から30秒

「さて……この辺までくれば十分か」

「キャキャキャキャ……そうですねェ」


 前を歩く3人の殺人鬼がこちらを向く。

 口の裂けるような笑み。まだ、来ない。


「この辺りを掘ればいいんですの?」


 姫様が呑気に尋ねる。


「ええ、確かに私の計算では、大結晶層はこの辺りにあると予想されていますねェ……ゲェッゲェッゲェッ」

「でへ、でへへ……で、でも、今日はそれは後回しなんだな……」


 眼鏡とハゲデブが答える。


「黒毛、手足を折って女の動きを止めろ。

 メガネ、金目の物が欲しいならすぐに剥ぎ取れ。

 ハゲデブ、そしたら後は好きにしろ。

 終わったら俺が……肉も骨まで鶴嘴で引き潰す!

 ギャハハハハハ! 久々に女の肉をミンチにできるぜえ!!!」


 刺青いれずみマッチョが鶴嘴を振り上げる。


 危機感知から30秒。ふと、何かが動いた気がして天井を見上げ――


「あ、やばっ、こっちか!!」

「危ないですわ! 左右に跳んでくださいまし!」


 【危機感知:下級】が反応したのは、目の前の殺人鬼達にじゃない!

 広がった空洞の天井付近から岩の塊が降って来る!

 どうにか気付いた僕と姫様は、慌てて後ろに跳び下がった。


「なッ!?」

「でふっ!?」

「へ?」


「イワァァァァァァァァァジュゥゥゥッッ!!!」


 ぐちゃり


 天井から落ちてきた、4~5メートルはある巨大な岩の塊、いや、狼か?

 そいつが無警戒だった3人の上に落下して、磨り潰した。


 死体も血溜まりも、数秒の内に消滅する。死んだ。


「な、なんてこと……!」


 鉱山には魔物がいる。

 道案内役のメガネと並んで刺青マッチョが先頭にいたのは、現れた魔物相手に戦うためだ。

 ただ、こんなデカいやつは見たことがない。


 連続快楽殺人犯、連続強姦殺人犯、連続強盗殺人犯。

 因果応報、死んで当然の連中だ……と思ってたけど、数日でも一緒に過ごしたやつらが目の前で死ぬのは……気分が悪い。


 これなら、混乱状態の方がマシだったかな。

 うん、そんな訳はないな。


「イワァァァァ………ジュゥゥゥゥゥ…………」


 感傷に浸っている場合でもないし、嘔吐えずいている場合でもない。


〈こいつはロックビースト! 鉱山に住む魔物だ!〉


 岩の獣だからロックビースト。鉱山に住んでるのは今見た。


〈モッコイ、無意味な情報は邪魔だ、黙ってろ!

 少年、こいつは縄張りを侵した相手が死ぬか、縄張りを出るまで追ってくる厄介な魔物だ!

 姫様を囮にしてでも、とにかく逃げろ!!〉


 了解です! 逃げます!


 即座に転回しようと上半身を捻る瞬間、ロックビーストも大きく身体を落として踏み込んだ!


 その瞬間だ。


 ぴしり、何かが罅割れる音。


「あれ? ……わ、駄目だ、崩れる!!」


 地面の崩落。浮遊感。


「お嬢様、お手を!!」

「きゃあっ、ラヴィ!!」

「イワァァッ!!?」


 僕達は魔物も含めて全員、地面に空いた大穴に落下した。

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