050. このまま進むと30秒後に死にます!!

 貴族の生まれにして連続結婚詐欺殺人犯だと思って警戒していたお嬢様は、特に裏も表もない、ただのポンコツだったらしい。


 僕の目の前にお嬢様の手が伸びてきて、ナイフを持ったメイドの手をそっと下ろした。


「わたくしは、お父様の仇を探しに来たのですわ!」


 そんなことを言う。


「敵討ち? そのために、わざわざ奴隷落ちするような罪を犯して?」


 でもそのお父様、言ってしまうと自殺ですよ。

 とばっちりでお貴族様が鉱山奴隷に堕とされるレベルの犯罪被害を受けた人、可哀想すぎるでしょ。


「特に何もしてませんわ! 頼んだら入れましたの!!」


 んんん。何かまたよく解んないこと言い出した。


 一応ここ他領なんだよね。

 ただの御令嬢にそんな権限あるの?


〈足りない分はメイドが脅しでもしたんでしょ〉


 法治社会が恋しい。


テコナイ領この辺バクシースル領うちよりはマシだぜ〉

〈うちは宗教的権威も翳してくるからね〉


 亡霊の言葉に遠い目をしていると、お嬢様は続けて語り出した。


「つい先日、領主貴族にして、教区を預かる聖職者であったお父様を、卑劣な冒険者が騙し討ちにしたそうなのですわ」

「……へえ」


 改めて又聞きで聞くと、何かまた腹立ってきたな。

 この話広まってるんですかね。


「犯人はその時、混乱状態にあったという話ですわ。何か事情があったのかも知れませんし、まずは犯人の方にお話を聞いてみようと思いましたの」

〈領主は糞だけど、姫様は悪いお人じゃないんだ〉

〈アタシら衛兵や、一般の領民にも心を砕いてくださるしね〉

「なるほどなぁ」


 事情は分かった。聞いてもいまいち判んないことが解った。


 詐欺師では? というフィルターを外して見れば、本人は悪い人ではないんだろう。


 となると、逆に困ったな。


〈何がだよ?〉


 無辜の人が殺人鬼の餌食になるのを、黙って見逃す大義名分がないんだけど。


〈いや、テロっちよ。そりゃ、俺達だって出来れば姫様には死んでほしくないけど、出来ればだぜ?

 お前自身が言った通り、無理なら無理で諦めていいんだぞ〉


 僕も実際そのつもりではいますけど、「無理」の範囲が変わりますよね。

 今までは完全に見捨てるつもりでしたけど、可能な範囲で、助けるための努力はしないと。


〈そんなもんかな。まあ、無理のない程度にね〉


 はい、無理のない程度に。


 ―――と。


『危険! 危険! このまま進むと30秒後に死にます!!』


 突如、耳元で騒ぎ立てる電子音声!


 何だこれ!? え、お2人にも聞こえてますか!


〈聞こえないけど、お前の意識から流れてくるな〉


 隣の姫様も、前を歩く3人にも反応はない。

 僕だけに聞こえているのか、これは。


 ……ああ、そうか。これはあれだ。

 【危機感知:下級】の、発動確率5%が当たりを引いたんだ。

 思ってたより煩いな、これ。でも役に立った。


 僕は姫様の半歩前に出て、いつでも彼女と3人の間に入れる位置についた。

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