049. とりあえず一発かましておくべきだな
「1つ掘っては~♪」
「国のため~♪」
カーンッ
「2つ掘っても~♪」
「国のため~♪」
カーンッ
この歌、何なんだろうね。
僕も最初は初心者用というか、監督役の人もいる安全な場所で採掘してたんだけど、急に周囲の人が歌い出して二度見したからね。
「フフンフフ~ン♪」
僕の隣を歩くお嬢様も、楽し気に鼻歌で伴奏している。
染まり切ってるなぁ。
横目で観察しながら歩いていると、不意にお嬢様がこちらを向いて、目が合った。
「329番さんは、どうしてこちらに来られましたの?」
そんなことを言った。
「うわぁ、直球だなぁ」
これ、また相手に聞いて罪状自慢する流れだよ。
この犯罪者の罪状マウント気質って何なんだろうね。
先を歩く3人組にも会ってすぐ聞かれたけど、重罪の方が偉いって感覚が判んない。
重罪の方が駄目なやつでしょ。普通。
〈いや、たぶんそういう話じゃねーぞ〉
と
なら、どういう話でしょう。
〈何も考えてねーと思う〉
えええ。確かに表情見てたらそんな感じだけど。
そんなことあります? だってこの人、お貴族様で連続結婚詐欺……
「わたくし、何か間違えましたかしら?」
……っと、返事が遅くなったせいか、お嬢様の表情はガラリと不安に染まった。
亡霊と会話していて、生きた人間に不審がられるのは良くない。
「いや、やっぱり皆そういうの気にしないんだなって驚いただけ」
慌てて返事をすると、またコロッと笑顔に戻る。
やっぱり、プロの演技はすごい。
警戒してても引っ掛かりそうになるもの。
何かまた亡霊の人達が後ろで騒いでるけど、ちょっと生者との会話に集中しますね。
「僕がここに来たのは、冤罪というか、スケープゴートみたいな感じ……っ!?」
あっ、やべっ!
口が滑って、正直に話してしまった。これはカモられる。
流石はお嬢様……詐欺目的で近付いたのに相手を騙せず結局強盗になる眼鏡野郎とは格の違う、本物の詐欺師。
人の心に入り込むのが巧みすぎる。
「あら! つまり、何もしていないのに犯罪者にされたということですの!?
官吏の方に報告して、出して貰いませんと!」
「貴族の人の都合だから、平民が覆すのはちょっと難しい」
「そんな、許せませんわ……!」
何か適当なこと言ってますけど、貴女も貴族ですよね。
最初は浮世離れした貴族っぽい雰囲気も詐欺の手口かと思ってたけど、元衛兵な亡霊の人達が「姫様」なんて呼ぶってことは、恐らくあの糞領主の関係者ですよね。いや、流石に王族ってことは無いだろうし。
とりあえず一発かましておくべきだな。
「君は何でここに来たの? あー……連続結婚詐欺殺人とか?」
言った途端に、両目の寸前を横切るように、黒塗りのナイフが視界を分断していた。
「おい貴様、お嬢様に無礼だぞ」
「ひぇっ」
べきじゃなかった!
死ぬかと思った!
「……そういえば、坑道に入る前はいましたよね……?
え、付いて来てた? いつの間に? うっそでしょ?」
完っ然に意識から外れてたから、本気でびっくりした。
え? 何これ、幻術の類? そういう魔法?
〈……いっ、おいっ! 聞こえるか少年! 大丈夫か!〉
怖いわ! でも混乱1歩手前で踏みとどまった、深呼吸だ、精神安定だ……っ!
〈少年、落ち着いて聞けよ。まずこのメイドは、姫様の狂信者で、姫様に舐めた口を利いたやつを刺すくらいは気軽にする〉
その情報で落ち着かせる気ありますかね?
〈まあ、姫様の目の前では滅多にやらないから安心しなよ〉
うん、うーん……まあ、では、はい。安心したことにします。
続けてください。
〈で、この姫様は、お察しの通り、あの糞領主の娘だ〉
そうだろうとは思ってましたが、何で教えてくれなかったんです。
〈悪かったな。俺達も正直状況が掴めてなくてさ〉
〈少年も聞きたく無さそうだったしね〉
それは、はい。
これから死ぬかもしれない人の面倒な背景なんて、知っても疲れるだけですし。
〈とにかく、今この場でお前に渡すべき情報が、1つだけあるぜ〉
何でしょう。
〈姫様は、少年が想像しているような凄腕結婚詐欺師でも、保険金殺人犯でもない〉
亡霊達は、声を揃えてこう言った。
〈ただの――――ポンコツだ〉
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