041. これで、ガチャを回しましょう

 ……そう、崩落、ですわ。


 採掘のために坑道の奥深くへ向かったわたくし達はロックビーストに襲われて、その衝撃で地面が崩落して……わたくしは、無事だったんですの?


 完全に落盤に埋もれていますわね。

 懐から鎖で吊るした護符杖を引っ張り出し、魔法で灯りをつけます。

 お守り程度の小さな杖ですが、ちょっとした魔法を使うには便利なものですわ。


 一瞬意識を失っていたようですが、特に痛みは……あら。あらら。


 これは駄目ですわね。


「ラヴィ、ラヴィ! 無事ですの!?」

「…お嬢……様………」


 落盤に埋もれた状態ですけれど、ラヴィの声は聞こえてきました。

 無事だったようで何よりですわ。


「ラヴィ、怪我はありますの?」

「いえ、私は掠り傷程度でございます。お嬢様こそ、ご無事ですか!?」

「無事では、ありませんわね」


 両足がちぎれて、血がだくだくですわ。

 痛覚も完全に飛んでますし、我ながら、よく意識がありますわね。


「そんな! 今すぐお助けいた…」

「イワァァァァッ!! ジュウウゥゥゥウウッッ!!」

「!!」


 ……ラヴィの言葉を遮って響いた鳴き声。聞き間違えるはずもありませんわ。

 崩落の原因となったロックビースト、当然一緒に落ちて来ていますわよね。


「イワッ! ジュウッ! イワッ! ジュウッ!」


 ガッ、ガッと岩を砕く音が、徐々に近付いて来ます。

 ロックビーストは、縄張りに入り込んだ生き物を許しません。

 わたくし達を探しているのでしょう。


「……残念ながら、もうおしまいですわね」


 上手く行きませんわ。本当に。


「お嬢様!」


 思い付きで飛び出して、失敗して、誰かに迷惑を掛けて。


「お父様の仇にも会えませんでしたし、ラヴィまで巻き込んで……何もかも、上手く行きませんわ」


 お父様や、お兄様や、ラヴィがいつも助けてくれて。


「お嬢様! まだ、まだ諦めてはッ!」


 今回は、知らない間に亡くなってしまった、お父様に恩返しができる最後のチャンスだと思いましたのに……。


「ごめんなさいね、ラヴィ」


 ラヴィに、今までで一番迷惑を掛けてしまいましたわ。

 何をしても誉めてくれるラヴィ。

 いつだって、どんな失敗も取り返してくれたラヴィ。

 ずっと昔の、ちょっとした恩義でいつまでも仕えてくれたラヴィを。


「……」


 暫しの沈黙。ロックビーストが岩を砕く音だけが聞こえます。


「……まだ、まだです。お嬢様、今私達のいる床を見てくださいませ」

「床?」


 床は……わたくしの血で隠れて、何も見えませんわね。

 魔法の光もだんだん薄くなって来ましたわ。


「この輝き、間違いなく魔晶の大結晶層でございます!」

「……こんな所に、ありましたのね」


 ふふ。わたくしには見えませんけれど、嬉しいですわ。

 最後の最後に、わたくしには珍しい、大成功ではありませんか。


「これで、ガチャを回しましょう」


 ラヴィは震える声で、そう言いました。

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