040. ギャハハハハハ! 久々に女の肉をミンチにできるぜえ!!!

 わたくし達は他の鉱山奴隷の皆様が浅い場所で歌いながら採掘するのを横目に、坑道をどんどん進んでゆきます。

 隊列は先頭に筋肉さんと眼鏡さん、次に体の大きなオスモーさん、その後ろにわたくしと329番さん、最後に1歩離れて、完全に気配を消したラヴィですわ。


 折角ですので、仲良くなるためにお話をしましょう!


「329番さんは、どうしてこちらに来られましたの?」

「うわぁ、直球だなぁ」


 329番さんはちょっと驚いた様子でしたわ。


「……わたくし、何か間違えましたかしら?」


 ここに来て経験の浅さが出てしまいましたわ……。

 同世代の方とは、あまりお話したことがありませんの。

 けれど、329番さんはすぐに、何を考えているのか曖昧な笑顔に戻って答えてくださいました。


「いや、やっぱり皆そういうの気にしないんだなって驚いただけ。

 僕がここに来たのは、冤罪というか、スケープゴートみたいな感じ」

「あら! つまり、何もしていないのに犯罪者にされたということですの!?」


 それはいけませんわ、官吏の方に報告して、出して貰いませんと!

 そう言うと329番さんは、「貴族の人の都合だから、平民が覆すのはちょっと難しい」と困った顔で仰いました。

 何という横暴。許せませんわね、貴族……!


「君は何でここに来たの? あー……連続結婚詐欺殺人とか?」

「おい貴様、お嬢様に無礼だぞ」

「ひぇっ」


 いつの間にか、後ろで会話を聞いていたはずのラヴィが329番さんの眼前にナイフを突き付けていました。


「……そういえば、坑道に入る前はいましたよね……?

 え、付いて来てた? いつの間に? うっそでしょ?」


 ラヴィは一流のメイドですので、わたくしでも時々存在を忘れるほど気配を消せるんですのよ。

 わたくしはナイフを持ったラヴィの手をそっと下ろさせて答えました。


「わたくしは、お父様の仇を探しに来たのですわ!」

「敵討ち? そのために、わざわざ奴隷落ちするような罪を犯して?」

「特に何もしてませんわ! 頼んだら入れましたの!!」


 329番さんは首を傾げて黙り込んでしまいましたので、わたくしは一方的に続けますわ。


「つい先日、領主貴族にして、教区を預かる聖職者であったお父様を、卑劣な冒険者が騙し討ちにしたそうなのですわ」

「……へえ」

「犯人はその時、混乱状態にあったという話ですわ。何か事情があったのかも知れませんし、まずは犯人の方にお話を聞いてみようと思いましたの」

「なるほどなぁ」


 そんなことを話している間に、わたくし達は少し開けた小部屋、自然にできた空洞のような所に辿り着きました。


 と。

 隣にいた329番さんが、さりげなくわたくしの半歩前に出ました。


「さて……この辺までくれば十分か」

「キャキャキャキャ……そうですねェ」


 その時、筋肉さんと眼鏡さんが足を止めて振り返り、オスモーさんも少し横にずれながらこちらを向きました。

 皆さん、満面の笑みでわたくしの方を見てらっしゃいますわ。


「この辺りを掘ればいいんですの?」

「ええ、確かに私の計算では、大結晶層はこの辺りにあると予想されていますねェ……ゲェッゲェッゲェッ」

「でへ、でへへ……で、でも、今日はそれは後回しなんだな……」


 これは……殺気、ですの?


 幼い頃、1人で草原に遊びに行ったわたくしを取り囲んだ、ウサギ達が放っていたのと同じ。


 肌身に感じられるほど強まった、獲物を狙う意思。


329番黒毛、手足を折って女の動きを止めろ。

 314番メガネ、金目の物が欲しいならすぐに剥ぎ取れ。

 308番ハゲデブ、そしたら後は好きにしろ。

 終わったら297番が……肉も骨まで鶴嘴で引き潰す!

 ギャハハハハハ! 久々に女の肉をミンチにできるぜえ!!!」


 筋肉さんが何かを叫んでいらっしゃいますが、そんな場合ではありませんわ!


「あ、やばっ、こっちか!!」

「危ないですわ! 左右に跳んでくださいまし!」


 進行方向を向いていたわたくしと329番さんだけが気付き、後ろに跳び下がると、


「なッ!?」

「でふっ!?」

「へ?」


「イワァァァァァァァァァジュゥゥゥッッ!!!」


 ぐちゃり


 天井から落ちてきた、4.4メートルを超える大きな岩の狼に、前にいた3人が踏み潰されてしまいましたわ!

 飛び散った肉片も、岩の足から染み出る血溜まりも徐々に薄くなり……何も無かったかのように、死の痕跡は消滅しました。


「な、なんてこと……!」


 あれは、ロックビースト!

 鉱山に住むと言われる、危険な魔物ですわ。

 縄張りに入り込んだ生き物を片っ端から殺して回る、鉱夫の天敵。

 鉱山での仕事が、犯罪奴隷に回される大きな理由の1つ……! 


「イワァァァァ………ジュゥゥゥゥゥ…………」


 お三方を殺したロックビーストは、次に、わたくし達の方に水晶の目を向けました。


 来る、と思った、その時でしたわ。


 ぴしり、と硬い物が罅割れる音。


「あれ? ……わ、駄目だ、崩れる!!」

「お嬢様、お手を!!」

「きゃあっ、ラヴィ!!」

「イワァァッ!!?」


 わたくし達の立っていた地面が、砕けて崩落し――わたくし達は、地の底へと落ちていったのです。

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