038. お友達を作るのですわ!

 仕事上がりに喧嘩を見掛けたわたくしは、喧嘩の仲裁に入りましたの。

 2人組と4人組の喧嘩でしたけれど、2人組の方は最初の日にお知り合いになった方々でしたので、わたくしが声をかけるとすぐに引いてくださいましたわ。


 それで今、4人組の方と一緒にタコ部屋に戻った所なのですけれど。

 ラヴィは隠す気もない殺気を振り撒いていますわね。


 タコ部屋ではいつも、ラヴィが用意してくれた専用スペース(ふわふわの羽毛布団と衝立ついたてに囲まれた一画ですわ)で食事も睡眠もラヴィと2人切りだったのですけれど、今日は久しぶりにお話が出来て、わたくしとても楽しいですわ。

 初日以降、鉱山奴隷の皆様は誰も話し掛けてくれませんでしたもの。


「俺は297番! さっきはありがとよ!」


 297番さんは逆立つ赤毛に、ムサボリオオウサギを思わせる、ギラギラと鋭い目付きの殿方ですわ。

 そして、私の腰周りほどもある太い腕。筋肉がすごいですわね。


「オ、オイラは308番なんだな! でへへ、さ、330番ちゃんは可愛いんだな!」


 308番さんは、とてもふくよかな―――オスモー戦士のような体型で、髪は剃ってらっしゃるのかしら。

 ちょっと鼻息と臭いがきついですけれど、褒めてくれたので良い方ですわ!


「私は314番ですねェ。ご実家は貴族の方で?」


 314番さんは薄い色の金髪に赤い眼、眼鏡を掛けていますわ。

 こちらを値踏みする様なねっとりとした目線、きっと商人をしてらしたのね。


「僕はえーと、329番です」


 329番さんは、わたくしと1番違いですわね!

 この辺りでは珍しい黒髪黒瞳の方ですわ。極東のテール将国のご出身かしら。鉱山では珍しい、柔らかい雰囲気の殿方です。


 サンゾックさんは名前で名乗ってくださいましたけど、流石に先輩方は番号で名乗るのを徹底されますわね。うう、覚えにくいですわ……。

 番号だと覚えにくいので、心の中で渾名をつけさせていただきましょう。

 筋肉さん、オスモーさん、眼鏡さん……と、329番さんは、わたくしと1番違いなので覚えられますわ!


「改めまして、わたくしは330番ですわ! 宜しくお願いしますわね、先輩方!」

「お嬢様に触れたら殺す」


 ラヴィの殺気がすごいですわね。


 実を言いますとわたくし、お兄様以外では近い年頃の殿方と話したことが無いのです。

 お勉強は家庭教師の先生に習っていましたので、学校、というものにも通ったことがありませんし。

 ちょっと緊張してしまいますけど……お友達を作るのですわ!


「皆様、わたくしとは初対面ですわよね? 採掘している時にも、お顔を見た覚えがありませんし」

「おう、俺達は坑道の奥の奥、切羽きりはの方に潜ってるからな!」

「た、タコ部屋では、夜中でもそこのおっかないメイドに追っ払われて、衝立の裏に入れなかったんだな!」


 道理で、お会いしたことがないわけですわ。

 そういえば、新しい鉱床を探している4人組の話は、官吏の方にも伺いましたわね。


「新しい鉱床を見付ければ稼ぎは数倍から数十倍。だがそんなもんは大した話じゃねぇ。俺達はちょっとやそっとの稼ぎじゃ、完済釈放なんて夢のまた夢だしな」

「オ、オイラ達が探してるのは、大結晶層なんだな!!」

「大結晶層ですの?」


 何ですのそれ。

 筋肉さんとオスモーさんのお話に、わたくしは首を傾げました。


「ケケケケ……大結晶層というのは、単なる鉱床とは違い、巨大な壁の如く聳える魔晶の塊、魔晶だけの地層なんですねェ!」

「自分達で掘り出せない程の大結晶層は、発見して報告するだけで、全埋蔵量の2割が褒賞として受け取れるんだぜ!」

「だ、大結晶層が見付かれば、オイラ達でも即金で完済釈放なんだな!!」

「まぁ、400年くらい前に他国で見付けて国を起こした王様がいた、って与太話みたいな伝承があるらしいよ。あんまり真に受けないでね」


 なるほどですわ!


「つまりはロマンですのね!」

「ケケケ、330番様もロマンはお好きですかねェ?

 でしたら、私達と共にロマンを追い求めてみませんかねェ?」

「そ、それがいいんだな! 明日は330番ちゃんも一緒に潜るんだな、でへ、でへへ」


 うーん、ロマン! 良い響きですわ!

 わたくしも、どうせ鉱山を掘るなら上を目指したいと思っていた所ですもの!


 そこへ、ラヴィがそっと耳打ちしてきます。


「お嬢様。このような者達と共に行動するのはお止めください」

「どうしてですの?」

「信用できません。鉱山送りになるような重犯罪者ですよ」


 ううん。ラヴィの言うことにも一利ありますわね。

 でも、大結晶層にも興味はありますし。


「ケケケケ、今なら330番様の分け前は5割増にして差し上げますよ!」

「おいっ、314番てめぇ! 何勝手なことを!」

「まあまあ297番様、ゴニョゴニョゴニョ……」

「なんだとっ、ゴニョゴニョゴニョゴニョ……それならまぁ……」

「だ、だったらオイラに、ゴニョゴニョゴニョ……」

「ええ、ええ、構いませんねェ……キシャシャシャシャ!」


 何だか内緒話が始まりましたわ。

 あら? 329番さんだけは話に入らず、こちらを見て首を横に振ってますわね。

 ……長時間の採掘で首が凝ったりしたのかしら? わかりますわ。


「お嬢様……流石にこれは」


 ラヴィは頭痛をこらえるようなお顔をしていますわね。

 何にせよ、わたくしの気持ちは固まっていますのよ!


「別に分け前は同じで構いませんわよ!

 わたくしも大結晶層探しに参加しますわ!」


 わたくしはロマンを求めてそう宣言いたしました。


「お嬢様!」


 目を見開いて声を挙げるラヴィ。


「それはそれは! 明日から是非宜しくお願いいたしますねェ!」


 対して、にやにやと微笑んで受け入れてくださる皆様。


 あ、329番さんだけは無言で天井を見上げてらっしゃいましたわ。

 わたくしが見上げても、特に何もありませんでしたけれど。

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