037. ここでは奴隷は番号で呼ばれますのよ

 魔晶玉、またの名を宝玉。

 天然の水晶に芳醇な魔力が溶け込んだ特別な原石は、余分な土を磨き落とし、適切な魔力を流すことで圧縮され、球形になる特質を持っていますのよ。


 昔は1つ1つ丁寧に磨いて、魔力を通していたそうですけれど、今は自動化オートメーションの時代です。

 専用の大型魔道具――魔導プラントに原石を放り込めば、玉の状態で出てくるんですの。

 この魔導プラントのお陰で、魔晶玉はかつてと比べて随分安価になったと聞きます。


 プラントの稼働には莫大な魔力が必要ですけれど、魔晶玉の産出地には必ず大地の魔力を流す竜脈がありますので、そこにプラグをにゅっと刺してやれば、原石を放り込むだけで、きちんと成形されて出てくるのですわ。


 自動化は単なる人件費の削減ではなく、人為的ミスをなくす確実化、曖昧な労働内容の定量化にも効果がありますわ。原石とただの岩石が混交した状態では測定が難しかった成果だって、成形された魔晶玉の状態なら一目瞭然ですものね。

 以前は労働年月のみで量られていた鉱山奴隷の労働量も、「どれだけの魔晶玉を採掘したか」という明確な基準を持たせることで、成果に応じた刑期短縮が行われるようになり、全体的な労働意欲が上昇したのだそうです。


 ですので、わたくしの採掘したバケツ2杯分の原石も、その場で魔晶玉に加工して頂きましたの。


「330番の出来高は……5個か」

「ええ、そんな!? バケツ2杯の原石ですのよ! 7個か8個、少なくとも6個にはなりますわよね!?」


 その成果は、予想を下回る数値でしたわ……!


「おい貴様、お嬢様の採掘された魔晶玉をちょろまかしたのではなかろうな!」

「ヒェッ!? さ、330番! メイドを止めろ!!」

「わぁやめなさいラヴィ! ナイフを仕舞いなさい!」

「はっ、お嬢様!」


 わたくしが驚いて声を上げてしまったせいか、ラヴィは官吏の方の首筋にナイフを当てて脅しつけてしまいました。申し訳ありませんわ……。

 ちなみに330番はわたくしの識別番号です。ここでは奴隷は番号で呼ばれますのよ。

 わたくしの次にここに入った盗賊のサンゾックさんは、きっと331番ですわね。


「でも、あれだけ掘って、5個しか取れませんの?

 同じだけの原石で昨日は6個、一昨日は7個、その前は8個になりましたわよ」

「お前新人だな? だったら、あの広間になってる坑道で掘ってたろ?」

「そうですわ。係の官吏の方に案内いただいた場所ですの」

「あの辺もそろそろ掘り尽くしたからな。鉱床も枯れて、段々純度が減ってるんだよ」

「なるほどですわ……!」


 となると、効率的に稼ぐには……。


「あまり人がいない奥の方を掘れば、純度の高い原石が出てきますの?」

「適当に掘っても何も出んぞ。新しい鉱床を見つければ別だがな」


 ううん、難しいですわね。鉱山なんて適当に掘れば原石が出る物だと思ってましたわ。


「そういえば、最近入った若い連中が、一攫千金狙いで深い所を掘ってるらしいな。4人組の男で、年はお前と同じくらいだ」

「へー、夢がありますわね」


 でも、新しい鉱床を見つける……大きく稼ぐには、試してみる価値がありますわね。

 刑期も一気に縮まるまずですわ!


 ……あら? でも、何か忘れているような?


「お嬢様。お嬢様はここに何をしに来たか、覚えておいでですか?」

「……? はっ、お、覚えてますわよ、ラヴィ!」


 そうでした! わたくしはここに、お父様を殺した犯人を捜しに来たのですわ!

 現場の官吏の方には知られていませんが、刑期も何も、上役の方にお願いすればいつでも出られるのでした!


「左様でございますか。流石はお嬢様、見事な記憶力でございます」


 わたくしは鷹揚に頷いて見せ、そのままバケツを片付けてタコ部屋に戻ることにいたしました。


 と、その時です。


「おいっ、そっちのバケツは俺達の掘った石だろが!! 返せ!」


 坑道の出入り口の方から、争うような声と物音が聞こえてきました。


「うるせぇガキ共! てめーらのバケツはそっちの屑石で嵩増ししてる奴だろ!」

「おいおい、どこに証拠があるんだよ? 名前でも書いてたのかぁ?」


 一方はベテランの風格がある、年嵩の殿方の2人組。


「何だとてめぇッ、この盗人野郎!! ぶっ殺してやる!!」

「オ、オイラ達が頑張って掘ったんだな、返して欲しいんだな。舐めた真似してるとぶっ殺してやるんだな」

「ケケケケ……私達に喧嘩を売るとは命知らずな奴等ですねェ! ぶっ殺してやりましょうねェ!!」

「いやそれより、ご丁寧に2人で4人分の屑石掘るくらいなら、普通に採掘したら良くない???」


 もう一方は若い殿方の4人組でした。

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