034. それは流石に死刑ですわね
「お嬢様、クリスタルマインの町に到着いたしましたよ」
馭者席側の窓から、メイドのラヴィの呼び掛ける声。
わたくしはハンカチでそっと涎を拭うと、
「わかりましたわ。ご苦労様」
しゃっきりとした声で返事をしました。
いつも「寝起きは良いな」とお父様にも褒められていましたの。うぅ、お父様……。
わたくしは零れ落ちる涙をハンカチで拭い、クローゼットから外出用のドレスを出して、1人で着替えを始めます。
貴族の娘には1人で着替えの出来ない方もいらっしゃいますけれど、わたくしは着替えくらいは1人で出来ますの。
司教だったお父様の影響で、度々奉仕活動のお手伝いをしていたのですけれど、教会内でそれ用の服装に着替えることもありますわ。まさか、奉仕をしに来た者が使用人に奉仕される訳にも参りませんものね。
「お待たせしましたわ、ラヴィ」
ラヴィの手を借りて馬車を降りますと、そこは岩山と森に囲まれた鉱山の町。
草原の隣にあるわたくし達の町と違って、景色が押し寄せてくるような、不思議な感覚がありますわね。
「それで、まずはお父様の仇の手掛かりを探しませんと」
「お任せください、お嬢様。既に見付けてございます」
「仕事が早いですわ」
ラヴィはわたくしが着替えている間に、通行人から情報収集を済ませ、既に仇の居所を突き止めていたとのことですわ。
「まず、旦那様を襲った下手人は、事件の数日後、町の宿で暢気に寝ている所を衛兵に捕まったそうでございます」
すぐに逃げなかったとは、間抜けな犯人ですわ。
「そのまま裁判にかけられ、貴族殺しと聖職者殺しの罪が認められました」
「あら。それは流石に死刑ですわね」
平民が貴族や聖職者を殺したのであれば、どちらか一方でも死刑は確定。
お父様は男爵にして司教でもありましたので、これはダブル役満ですわ。絞首刑の上に斬首刑にですわね。
わたくしの手で仇を討つことは出来ませんでしたわ……。
「ところが、事件当時、下手人は混乱の状態異常にあったことが判明いたしまして、それに伴う減刑が行われました」
「ええっ! そんなことあるんですの!?」
そんな制度初耳ですわ!
それでは誰も彼も、人を殺す前に薬や魔法で混乱状態になろうとするのではありませんの?
犯人も、もしかしたらわざと混乱状態になっていたのでは?
「我が国では一般的でない法ですね。このクリスタルマインを治めるコンゴ=デ=テコナイ伯爵が、他国の制度を真似て導入したそうです」
「はぁー。うちの領とテコナイ領では、法律も違いますのね」
「バクシースル領でしたら減刑されてもガチャ刑ですから、どちらにせよ爆死しておりましたね」
確かに、うちの領は気軽にガチャを回させ過ぎですわ。
お父様の統治は平民からも人気が高いと聞いていますが、ガチャばかりは何とも言えませんわね。
わたくしは実際に人がガチャを回す所は見たことがありませんが、人を爆死させるなど、心優しい女神様が本当に望んでいらっしゃるのかしら?
ととと、今はお父様の仇討ちの話でしたわね!
「それで、犯人は今、どうしていますの?」
「死刑が減刑されると、賠償金支払いになります。ただ、金額は通常の2倍になりますので」
「平民に支払いは難しいでしょう」
「その通りです、お嬢様。下手人は鉱山奴隷として、恐らく死ぬまでクリスタルマインで働くことになるかと」
なるほどですわ。
つまり、犯人は今、クリスタルマインの鉱山にいるのですわね。それだけ判れば十分ですわ。
「それでは、鉱山に行きますわよ!」
と駆け出そうとしたわたくしの前に、
「即断即決、素晴らしい行動力でございます、お嬢様!
しかしお待ちください、
ラヴィが残像を散らしつつ回り込み、道を塞ぎます。
「どうしていけないの、ラヴィ?」
「この鉱山は犯罪奴隷の巣窟でございます。中には入れるのは信用性と腕力に優れたテコナイ領の官吏か、犯罪奴隷のみなのです」
なんと、それではわたくしは鉱山に入ることができませんのね。
自領ならともかく、今から他領の官吏になるのは難しいですわ……。
…………!!
はっ!!! 名案を思い付きましたわ!!!
「官吏に捩じ込んで貰うのは難しくとも、犯罪奴隷に捩じ込んで貰うことなら出来るのではなくて?」
「…………!!! 流石はお嬢様!!!
それでは早速、衛兵に
お嬢様は馬車でお待ちくださいませ!!」
「お願いしますわね、ラヴィ」
それから数分、馬車で本を読み返すなどしていましたら、ラヴィは計画通り、わたくしが一時的に鉱山奴隷として働けるように手続きを済ませ、わたくしの作業服兼囚人服を用意して戻って来ましたの。
犯人を見付けたら、聞かなければならないことが沢山ありますわ。
お父様を殺した理由。
混乱していた原因。
犯した罪を反省しているのか。
場合によっては……わたくしの手で、裁きを下します。
バクシースル家の名に懸けて。
それから3日間、わたくしは鉱山で働きながら、犯人探しを続け。
けれど、何の手掛かりも得られなかったのですわ。
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