033. わたくし、仇討ちに行って参りますわ!!

 発端は1ヶ月前のことでした。


 ここはバクシースル領ラビットフィールドの町、領主邸。

 お兄様の執務室に呼び出されたわたくしは、お兄様からその話をお聞きいたしましたの。


「ええっ!! お父様がお亡くなりに!?」


 思いもよらない言葉に、思わず絶叫してしまいましたわ。

 10日と少し前に他領へお出掛けになったお父様、あの時はとてもお元気そうに見えましたのに……。


「声が大きい。しかし、その通りだ」

「一体何があったんですの! 事故にでも遭われまして!?」

「いや。報告によれば、父上は殺されたらしい。護衛に連れていた冒険者にな。兵士も2人やられた」


 そんな! 自ら護衛に、後ろから刺されたのですって!?


「これが父上のドロップアイテム、【時計:領主の懐中時計】だ」


 そう言ってお兄様が差し出されたのは、確かにお父様がいつも懐に持ち歩いていた時計と似たデザインの、我がバクシースル家の家紋の入った――けれど、明らかにその本質を異とする・・・・・・・・・、強いスキルを持った懐中時計でした。

 わたくしはそっと、時計を受け取り、額に押し当て。


 装飾品として装備いたしました。


「それで今後の…」

「悪党め、許すまじ……! わたくし、仇討ちに行って参りますわ!!」

「あっ、おい待て!!」


 ばたんっ、とドアを押し開き、スカートの裾を持って廊下を駆け抜けるわたくしに、扉の前で待っていた専属メイドのラヴィが追走して参ります。


「お嬢様、旦那様の弔い合戦でございますね!! 御供致します!!」

「耳が早いわね、ラヴィ!」

「お嬢様のよく通る美声が屋敷中に聞こえて参りましたので! 惚れ惚れするような愛らしい悲鳴でございました……!」

「それなら話が早いですわ! 早速、出掛ける準備を!」

「もう荷物もまとめて、馬車の準備も整ってございます!」

「話が早いですわ!!」


 私は着のみ着のまま表へ飛び出し、ラヴィの手を借りて玄関前に停めてあった私専用の馬車に駆け込みましたの。


「お嬢様。私は馭者を務めますので、お嬢様はごゆっくりお休みくださいませ!」

「ええ、任せますわ」

「では参ります! ハイヨゥッ」


 2頭の馬車馬の嘶きと共に、馬車が動き始めるのを感じますわ。

 それからすぐ、前面の壁にある小窓が開き、御者台のラヴィのお顔が覗きます。


「お腹が空かれましたら、戸棚のクッキーとレモン水をお召し上がりください!」

「わかりましたわ」

「クローゼットにお嬢様の室内着や替えのドレス、護符杖も入ってございます!」

「後で着替えておきますわ」

「ベッド下の収納にお嬢様が昨日まで読んでおられた本、刺繍しておられたハンカチ、それと私が用意したジグソーパズルが入ってございます!」

「退屈にも困りませんわね」


 側壁の窓を開けば、景色は飛ぶように流れてゆきます。


 お父様の亡くなられた地、クリスタルマインの町まで普通の馬車で6日。

 ラヴィの操るこの馬車ならば、5日ほどで付くでしょう。


 そこにお父様の仇が……仇……あら?

 わたくしとしたことが、名前を聞いていませんでしたわね。


 とはいえ、その場所にさえ行けば仇が………あらら?

 まだそこにいるのかしら? あちらの衛兵に捕まった? 逃げ出した? 殺された?


 結局どうなったのが、お兄様は教えてくれませんでしたわね……。

 お兄様はそういう所があるのですわ。


 何にせよ、まずは踏み出すのみ!

 迷わず行くのですわ! 行けばきっと、何か手掛かりがあるはずですわ!


 憎き裏切り者、下賤なる冒険者め……。

 バクシースル家の名に懸けて、必ずや天誅を下してみせますわ!!

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