031. これもまた、仕方ないことなんだろう

 鉱山の町の名前は「クリスタルマインの町」と言う。

 クリスタルマインなる鉱山で働く人のために作られた町で、主要な産物は水晶とか、ガチャ用の宝石――宝玉だ。

 今回、領主様御一行がこの町に来たのも、ガチャで浪費した宝玉を補充するためだったんだとか。

 だからって在庫放出し過ぎじゃない?



 旅疲れを癒すために、僕は3日分の宿を取った。

 風呂有り3食付き。手持ちの現金はほぼ放出し、完全休息の構えだ。

 明日1日は絶対に働かない。明後日から身体を慣らして精神を統一し、明々後日から本気だす。


〈あの、プレタさん〉

〈何だよモッコイ〉

〈領主様が死んじゃったスけど、ラビットフィールドの町はどうなるんスかね〉

〈なるようになるだろ、後継ぎなら若様ボンクラ姫様ポンコツもいるし。アタシらにはもう関係ないよ〉

〈弟と妹が住んでるんスよ。俺の遺族年金が出ないなんてことはないスよね?〉

〈あー。どうだろ。うちは親も元気だし、兄弟みんな一人立ちしてるしね〉

〈あの領主ならそこは心配なかったスけど、爆死したスからね〉

〈ま、金払いの良さだけが売りの町だし、流石の若様もその辺は判ってると思うけどなぁ。あの町の何処から金が出てるのか知らないけど〉

〈何処から出てるのか知らないから不安なんスよね……〉


 宿の天井付近では、亡霊の人達が景気の悪い話をしていた。

 ところで、この人達はいつまでいて来るんだろう。


〈おっ何だよテロっち。お前、反亡霊主義者か?〉

「いえ、僕としては不都合はないんですけど、お2人は昇天とかしなくて良いのかなと」

〈アタシらは現世こっちに未練もあるし、もうしばらくはゆっくりしてくよ〉

〈俺は弟達が無事でやってるの見てからだな〉


 じゃあ、ほとぼりが冷めたらラビットフィールドの町に戻ってみますかね。特に急ぎの用事もないですし。


〈悪いなテロっち。あ、そういやプレタさんの未練て何スか?〉

〈別に大した話じゃないよ。一度、王都の大聖堂ってやつを見てみたくてさ〉

〈観光目的で亡霊になるとか……流石スね〉

〈うるせーな! 憧れなんだよ!〉


 最初に話し掛けてくれたお兄さん、モッコイさん。

 モッコイさんが死んだ時に元気付けてくれたお姉さん、プレタさん。

 2人とも良い人だ。憑いたのが2人で良かった。

 領主の人が死んだ時に離れていたのは正解だった。いや、あの人は女神大好きらしいので、死んだらすぐに昇天したかも知れないけど。



 そんな2人に心の中を聞かれないよう、意識しながら思考する。



 子供が死ぬのを見たくないと言ったモッコイさんも、非番の日にガチャ刑を見に行く程度には死を娯楽と捉えていた。

 家族のためか恋人のためか、素直に死んだプレタさんも、他人のためにガチャを止めようとすることはなかった。


 だからまあ、2人のような優しい人でも、ガチャで死ぬのは仕方ないかな、という気はする。


 変な話、神のためにガチャを捧げようという領主の方が利他的ではあったかも知れない。どうかな。そうでもないか。


 このガチャが99%で即死なんて糞設定でさえなければ、面倒なことを考えなくて済んだんだけどな。



 意識して思考を閉ざす。



 閉ざす。




 閉ざす。





 僕はいつの間にか、深い眠りについていた。




 ……。




 それから2日間、僕は宿から1歩も出ずに、存分に身体を休めた。

 宿で迎えた3度目の朝。僕は衛兵に囲まれ、詰所へと連行された。

 容疑は、ラビットフィールドの町の領主の殺害。


 誰かしらによる、何かしらの思惑はあったんだろう。

 貴族で高位聖職者の人が突然トチ狂ってガチャ爆死したというより、流れ者に殺されたとする方が都合の良い人は、まあまあいるんだろうな。仕方ないね。


 勿論冤罪だ。あれは勝手にガチャを回して、勝手に爆死したのだから。

 でも、こんな世界で科学捜査が発展するとも思えないし、裁判制度も似たようなものだ。

 僕だって他人の無実を証明するために貴族に喧嘩を売るようなことはしないだろうし、僕がそのまま有罪になるのも妥当だとは思う。仕方ない。


 ここはラビットフィールドの町ではない、他領だ。何でもかんでもガチャ刑に処すなんてこともない。

 だから、僕はこの地における「貴族殺し」と「聖職者殺し」の罪に相応する刑を受けることになり―――それは、滞りなく下された。

 これもまた、仕方ないことなんだろう。


 僕に憑いていた亡霊の2人には、申し訳なかったな、とは思う。

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