030. ならば、この報酬で11連ガチャを回してみよ

「冒険者。貴様は神を信じるか?」


 領主は僕にそう聞いた。

 荷馬車で数台分にもなる宝石の山―――11連ガチャ費用の前だ。


「はっ、信じております」


 僕は直接女神に会ったこともあるんだし、疑う余地は特にない。


 〈すげーな、テロっち。流石加護持ちは気合いが違うぜ〉

 〈いやー少年、アタシは女神様ってのは相当やべー奴だと思うよ?〉

 〈っスよね、プレタさん。宝玉300個捧げて自殺しろとか絶対頭おかしいス〉


 あ、実在・不在の話じゃなくて、人柄、もとい神柄の話?

 じゃあ信用できるわけないじゃん。直接会ってんだよ?


 〈あれ絶対邪神の類いだよね? 口に出すとガチャだから誰も言わないけど〉

 〈俺達もう死んでるスからね! ハハハ!〉

 〈ガチャも回してるしな! アハハハハ!〉


 ハハハじゃないけど。


「そうか」


 領主の人には亡霊達の会話が聞こえていないので、そのままサラッと流し


「―――……たった一度ノーマルを引いた程度で、神の寵愛を受けたつもりか」


 ……何かボソッと呟いてる。怖いなぁ。目も怖い。


「ならば、この報酬で11連ガチャを回してみよ。……回せぬとは言わさんぞ」


 領主の合図で、専属護衛や一般兵士の人達が僕を取り囲む。

 逃がさない、ということだろう。


 絶体絶命のピンチ。みたいな雰囲気。


「承知いたしました」


 回せと言われれば回すけども、お金が勿体無いよなぁ。


『ピロリッ、ガチャッ、スタートッ!!』


 単発とまったく変わらない電子音声、総額1500万cコインの宝石が……せ、1500万!?

 改めて意識すると本当に勿体無いけど、宝石の山は最早、風の中に溶けゆくだけだ。


 神の仕組んだ予定調和。

 ガチャメニューのウィンドウに11の安っぽい木の扉が並び、特に派手な演出もなく、結果が表示された。


 【毒付与:下級】。

 【魅了耐性:下級】。

 【対空特効:下級】。

 【対獣特効:下級】。

 【額冠:鉢竹】。

 【電撃耐性:下級】。

 【手甲:竹の手甲】。

 【高速思考:下級】。

 【王国通貨:1000c】。

 【槍:竹の槍】。

 【対空特効:下級】。


 単発ガチャが150万……うう……150万かかると知ってしまうと、この1000cというのが本当に悔しくなるから不思議だよね。


〈11連だと壮観だぜ〉

〈何だこの鉢竹って……竹の額当て? へー面白い〉


 亡霊の人達にとっては他人のお金、他人のガチャなので、完全に他人事気分で楽しんでいた。

 僕は装備品と現金を拾って、この場をお暇することにした。

 一応現金も入ったし、今夜はこの辺の安宿に泊まろう。


「それでは、短い間でしたが、お世話になりました」


 そう言って頭を下げ、立ち去ろうとすると……、


 領主の人と配下の皆さんが口を開けて固まっていた。


 ……おお、そうだ。

 僕は今、99%で死ぬガチャを、11回回したんだった。


「ま、待て、冒険者」

「はっ、何でございましょう」


 僕は即座に膝をついて頭を下げる。


「何故……何故、貴様は、生きておる」


 わりと酷い質問だと思った。


「はっ、恐れながら……女神様の加護・・のお陰にございます」


 本当は呪い・・だけど、呪いも加護も変わんないしな、この世界。

 加護の方は「毎日無料でガチャを回せる」だし。

 つまり、毎日99%の確率で死ねるよ! が、この世界の女神の加護だ。糞では?


「そうか……下がるが良い」

「はっ、失礼いたします!」


 僕はこれ以上難癖をつけられないよう、そそくさとその場を後にする。


「神の加護だと……? 女神様、儂の信仰を試しておられるのか……」


 何か聞こえるけど無視だ。


〈少年聞こえた? 冒険者風情より、司教の方が女神に愛されてるんだって〉

〈邪神に愛されたら死が近付きそうな気もするスね〉


 亡霊の言葉も無視。


 じゃらじゃらじゃらじゃら


 去り行く僕の背後で、何か硬質な物を地面にぶちまける音がする。無視。


『ピロリッ、ガチャッ、スタートッ!!』


 この場にいても、ロクなことにならない。


 ドドドドドドドドドドドパンッ


 凄い爆発音と、悲鳴と絶叫が聞こえるけれど、僕は無視して立ち去る足を速めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る