028. どうせガチャを回すことになるなら、素直に回した方が良い

 また、領主の怒りに触れた村人がいたらしい。

 若い女の人だ。今回は馬車移動中のことだったから、すぐ後ろの荷馬車に乗ってた僕も近くで見てたけど、何に怒ったのかさっぱり判らなかった。


「捕らえろ。そして女神様に詫びさせよ。

 ガチャを回し、宝玉と魂を捧げるのだ」


 領主の人の声、初めて聞いたかもしれない。


〈そういや、俺の魂捧げられてないな〉


 本当だ。

 あ、このイマジナリーフレンドが本当に、昨日ガチャで爆死したお兄さんの亡霊だとしたらだけど。


〈亡霊だぞ〉


 もうそれでいいや。 


「いやっ! やめてっ、ガチャなんて嫌! わた、私まだ死にたくないっ!!

 助けて! お父さん! お母さあん!!」


 兵士の人達に囲まれ、俯せで腕を捻り上げられた村人の人は、必死に逃げ出そうと藻掻いていた。

 そういえば、ガチャに本気で抵抗しようとする人って、この世界に来てからも初めて見たかも知れない。


〈まあ、御貴族様には逆らえないからな。

 どうせガチャを回すことになるなら、素直に回した方が良い。

 100に1つは生き残る可能性もあるし、それに……〉


 亡霊のお兄さんの話は、そこで途切れる。


 村人の人を拘束していた兵士の1人、プレタさんがその先を引き継いだからだ。


「抵抗すると貴女の家族も、貴女の恋人も、貴女の友達も、一緒にガチャを回させられられるだけ」


 遠巻きにしている僕達まで聞こえる程度の声で。


「…………うっ……………!!」


 村人の人は、涙をぼろぼろ流しながらも大人しくなった。



 場が落ち着いたのを見計らって、領主はお付きの人に指示を出す。


「宝玉を用意しろ」

「はっ」


 すぐに領主用の馬車から、スイカほどのサイズの豪華な宝石箱みたいな物が運び出された。

 領主が鍵を開け、お付きの人が箱を傾けると、ゴロゴロと拳大の宝石が転がり出す。


 え、何あれ。


〈あれは【拡張ストレージ】って★★★★★星5アイテムさ。宝玉50個を捧げることで、内部の空間が1ヶ月間拡張されるんだ〉


 亡霊のお兄さんは、僕の疑問に若干世知辛い答えをくれた。

 所持枠の拡張が時限式のタイプか。集金がえぐいな……。


 そこそこ大きな宝石の山ができた所で、プレタさんは村人の人―――受刑者を促した。

 受刑者はガタガタと震えながら、ガチャメニューを開く。


 そして、震える指で、ガチャボタンを押す。


『ピロリッ、ガチャッ、スタートッ!!』


 宝石の山が空気の中に溶けてゆく。


 暗い紫の光がウィンドウから溢れる。


 受刑者は口を半開きにして、無言で泣き続けていた。


 ドプンッ


 そして頭が弾け、身体が地面に横倒しになる。

 死体は徐々に薄くなって消え、後にはドロップアイテムすら残らなかった。



 誰も何も言わない。

 領主は馬車に戻り、村内の宿泊場所に向かう。

 僕達も村外れの夜営場所に移動した。


 その日はそれでおしまい。




 次の日、旅の途上で、また領主は他人にガチャを回させた。

 回したのは、前日に受刑者を抑え込み説得していたプレタさんだった。


 彼女は一切の抵抗も反論もせず、淡々とガチャを回し、爆死した。

 その時も僕は近くで見ていたけれど、理由は全く解らなかったし、止めに入ることも出来なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る