026. テロ少年! 新しい靴じゃん?

 護衛依頼の途上でよく話していた兵士のお兄さんが、昨日ガチャ爆死したらしい。


〈あーあー、最悪だよ……あれだけで爆死とかマジでねーぜ……〉


 立ち寄った村の教会で騒いでいた数人の子供が、領主によってガチャによる贖罪を命じられた。

 その子供を捕えるのに躊躇した兵士の人が、一緒にガチャを回させられ、全員爆死したそうだ。


〈今だから言えるけど、うちの領主様って狂信者だからなー。女神様関係で何かあったらすぐガチャだよ。司教様だから他所の領でもお構い無し!

 ラビットフィールドの町の外だと、祭りまで待つとかもないからな。もう即ガチャ〉


 一列に並んだ全員が同時にガチャを回させられたそうだから、その場にいたとしても、僕に何が出来たわけでもなかっただろう。


〈いや、そりゃそうだけど……え、それだけ? もうちょっと俺の死を悼むとかないの? たった3日の付き合いだけど、何かあるだろ〉


 どうも、今朝から脳内でイマジナリーフレンド的なものが五月蝿いなぁ。

 短い付き合いとは言え、知り合いが死んだんだ。僕もわりとショックを受けたんだろう。


〈だよなぁ。いや、テロリスト君にも悪いことしたなと思うよ。俺達兵士は身内の爆死も見慣れてるけどさ、ああーくそっ……。

 先に死んじゃってごめんな、ネイサン、アニー……あ、ネイサンとアニーってのは、町に残してきた弟と妹な。弟がネイサンで、妹がアニー。

 ラビットフィールドの町は税金も安いし社会保障も充実してるから、あいつらが成人するまでは町から金が出ると思うんだけど〉


 ……めっちゃ喋るなぁ! 空想人格イマフレ


 声だけじゃなく、爆死した兵士のお兄さんっぽい姿がうっすら視界に入ってるし、結構疲れてるんだろうか。全然働いてないのに。


 僕は領主からの指名依頼を受けたはずなんだけど、今の所、領主の人とは一言も口を利いていない。

 領主と専属護衛の人達は宿に泊まるけれど、僕や一般兵の人達は馬車での寝泊まりだし、顔を合わせる機会自体がほとんどない。


 一般兵の人達が馬車を広く包囲するように警戒する中、ド素人の僕はほとんど荷馬車に乗って、景色を眺めたり、時々馬車に並走したりする程度の名ばかり護衛だった。


〈それでさーテロリスト君。ラビットフィールドの町に戻ったら、弟と妹に伝言頼みたいんだけど。

 聞いてる? あれ、聞こえてるよな? さっきからたまに反応してるもんな?〉


 ……。


 ちょっと馬車から降りて走ろう。お尻も痛いし。


「でも、今朝のガチャは当たりだったなぁ」


 気を紛らすために、独り言を声に出してみる。


 気分はそれほど良くもないけど、身体の方は調子が良いんだ。


 身体と言うか、装備の違いだね。

 脚部装備の【靴:竹編み靴】、引いた当初は、何これというか、足痛そうというか、また糞アイテムかなという印象だったんだけど、履いてみると凄い。軽く、丈夫で、通気性が良く、衝撃吸収性も高い。

 というか、今まで学校指定の革靴で長旅してたのって、本当にどうかしてたよね。


〈あ、そうそう。それだよ。テロっち、さっきガチャ回してただろ! あれなに? 何で宝玉無しで回せんの?

 てか何でそんなに躊躇なく99%爆死のガチャを回せんの?〉


 ちなみに、昨日一昨日の引きは【魅了耐性:下級】と【対霊特効:下級】。

 魅了耐性は状態異常の蓄積値を10%抑えるやつ。気休めになればいいなと思う。


 対霊特効は、亡霊的な相手に与えるダメージを、耐性無視で5%加算するらしい。

 この「耐性無視で」というのは恐らく、物理攻撃が効かない相手でも、攻撃力の5%分で殴った程度のダメージは与えられる、みたいな話だろう。

 相手の防御力が計算されるなら、大したダメージにはならないかもだけど。


〈なあ、おい、聞いてる? 寂しいから何か言って?〉


 ………このスキルが何か怪しいな?



 と、馬車の近くで軽やかに走っていた僕に、1人の兵士の人が声をかけてきた。

 護衛兵の内の1人、紅一点のお姉さんだ。


「あれ? テロ少年! 新しい靴じゃん?」


 昨日爆死したお兄さんのせいで、皆僕のことテロリストって呼ぶんだけど。


 呼び名はともかく、何という観察眼!

 他人の服装の変化に一瞬で気付くとは。これが女子力なのか。


〈あの人、髪切ったとか服買ったとかすぐ気付くんだよな。

 俺には無理だぜ。言われてもわからんし〉


 うん、僕もそういうの苦手。

 あ、イマジナリーフレンドに反応してしまった。やばい。


「格好良いね、そんなの隠してたの? 前の村で売ってた?」


 そのよく通る声に、離れた位置にいる兵士の人達の視線が集まる。


「何だプレタ、テロリスト君に何かあったのか?」

「靴だよ! 良い感じの靴!」


 が、内容が僕のファッションチェックという、わりとどうでもいい話題だと判ると、警戒の色は笑いに変わった。


「プレタ! あんまりテロリスト君に絡むなよー」

「そうだぞ、一応賓客だぞ」


 護衛どころか賓客なの、僕。

 賓客をテロリスト扱いって酷くない?


「いや、賓客ではねーわ」


 賓客ではなかったらしい。


〈お荷物、おまけ、うーん、見習いってとこか?〉


 イマフレがうるさい。


「旅の間は護衛仲間だろ! 悔しかったらアンタらも、オシャレのひとつでもすりゃ良いじゃん!」

「別に悔しくもねーわ!」

「職務中は制式装備以外禁止だぞ!」

「うるせー! だからアンタらモテないんだよ!」


 兵装の槍を掲げて威嚇する兵士のお姉さんに、「その距離じゃ届かねーよ!」とからかう兵士の人達。自由な職場だな!


「テロリスト君も、プレタの話は程々に聞いとけよ。まともに相手すると疲れるぞ」


 兵士の人達はそんな風に笑って、周囲の警戒に戻った。


 心なしか、昨日から沈み気味だった雰囲気が、少し明るくなっているような気がする。僕自身もそうかも知れない。

 イマフレも、小さく笑っていた。

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