025. お前、祭で暴れたテロリストだろ?

 爽やかな目覚めだ。

 屋根と壁、ベッドのある寝床は素晴らしい。文明の匂いがする。


 朝一番で回したガチャの結果も悪くない。

 【転倒付与:下級】というスキルは、直接攻撃に「転倒」なる状態異常の蓄積値を追加するものだ。

 下級の異常付与は蓄積値5%で、つまり、耐性がない相手なら20回攻撃を与えると、相手を転倒状態にできるらしい。


 実は僕の装備している【双剣:トレッキングポール】には【転倒耐性:中級】の装備スキルが付いてたんだけど、この「転倒」がどういう状態なのか、よく解らなかったんだよね。

 今度、適当な相手を20回殴ってみよう。20回も殴ったらウサギはもちろん、ゴブリンでも普通に死ぬけど。


「……意外と使えないな?」


 若干テンションを下げつつも身支度を整え、宿の朝食を美味しくいただき、領主護衛依頼の待ち合わせ場所に向かった。


 町の入り口辺りに、御領主様が乗るのとは別の、護衛用の馬車が停まってるって話だけど。


「あれかな?」


 町を囲む高さ2メートルほどの外壁、その切れ目にある大きな門。通行を邪魔しない路肩に、1台の荷馬車が駐車してある。

 幌無しの、荷台がそのまま馬に牽かれるタイプのやつだ。


 約束の時間には少し早いので遠巻きに眺めていると、馬車の周りに立っていた兵士の人がこちらに気付き、軽く手を挙げてきた。

 あれっぽいな。近付きながら声をかけてみる。


「すみません、護衛依頼を受けてきた者ですけど」

「早かったな。冒険者なんて良くて時間ギリギリか、遅れてくるやつばっかりだと思ってたぜ。領主様の馬車が来るまで、ちょっと休んでろ」


 お言葉に甘えて、馬車の荷台に腰掛けた。

 兵士の人も僕の隣に立ち、荷台に軽く寄り掛かった。


「お前、祭で暴れたテロリストだろ?」


 そんなことを言う。


「その節はお騒がせしまして……」


 よく考えると、相手は治安維持と防衛がお仕事の人だ。

 あの日の僕のようなテロリストは思いっ切り仕事の邪魔というか、排除の対象じゃないか。

 不安に顔を曇らせた僕に、兵士の人は苦笑で答えた。


「いや、あの日は俺も非番だったしな。ここだけの話、子供が爆死するのも正直見たくなかったから、お前が止めに入ってくれたのは助かったぜ」


 兵士の人は気の良いお兄さんといった感じで、領主の馬車が来るまで、色々と話をしてくれた。


 彼は今回の護衛兵の中では一番の年下で、先輩兵士が準備をしたりサボったりしている間、馬車の見張りを任されていたそうだ。

 出身はラビットフィールドの町で、今は家を出て一人暮らしをしているけれど、実家には弟と妹がいるらしい。


 客観的に見ればテロリストな危険人物でしかない僕に対し、大した警戒も持たずに接してくれるのは、彼の戦闘力が僕を余裕で上回っているからというのも有るんだろう。

 槍の型を見せてもらったけど、避けるとか受けるとか、そんなレベルの話ではなかった。この世界の戦闘職、めっちゃ強いね。


 その兵士の人はこの日から2日後、領主の怒りだか何だかに触れて、旅の途上にも関わらず、ガチャ爆死をさせられたそうだ。

 僕はその場にはいなかった。

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