022. それじゃ、これがギルド証だ
冒険者ギルドの良い所は、僕の姿を見ても露骨に脅えたり、目を逸らしたり、道を変えたりしない所だ。
ギルド員の大半は祭の時に僕が一般人を突然殴り付けた場にいなかったし、仮に僕の顔を知っていても、僕を怖がるほど弱い人はいない。
「……おい、あいつ………」
「……ああ、あれが祭で急に暴れだしたやべーやつか………」
「……実力は大したこと無さそうだが、何してくるか解らんからな……絶対絡むなよ………」
「……言われなくても近寄らねぇよ………」
ざわざわと噂話は聞こえるけど、悪意らしい悪意も無さそうだし、特に気にしないことにした。
今の時間帯は利用者が少ないのか、喫茶スペースと販売スペース以外はガラ空きだ。
依頼報告カウンター、素材買取カウンター、依頼受付カウンターの前を通り過ぎ、総合相談カウンターへ。
担当者は、以前に買取カウンターで話を聞いたおばちゃんだった。
「冒険者ギルドへようこそ。新規登録でいいかい?」
「はい、お願いします」
「ちょっと待ってな」
話が早い。
そんなに新人冒険者志望っぽい空気を出してただろうか。
「不思議そうな顔してるね。
いや、昼過ぎに、あんたの連れの女の子が来て登録してったからね。あんたも後で来るかもって言ってたのさ」
そんな風に笑われて、納得する。
おばちゃんは話の合間に、カウンターの下からA4サイズほどの紙を取り出し、両端を抑えて横向きに広げた。
「さて、それじゃステータスメニューを開いて」
「はい」
言われるままにメニューを開く。
「じゃあ写しとるよ」
「え」
特に何の説明もなく、おばちゃんは紙を持ち上げて僕のステータスメニューのウィンドウに裏から押し付け、すり抜けさせる。
それだけで、紙にはウィンドウの表示内容が、そのまま写し取られていた。
この世界―――少なくともこの国には、個人情報という概念は存在しないのだろう。
「ふうん。運が高い以外は、ちょっと物足りない数値だね」
しかも結構な講評付きだ……。
ステータスメニュー。
つまり、装備やスキルの関わらない、基礎ステータスが表示される欄である。
体力、魔法力、攻撃力、防御力、敏捷性、器用度、精神力、幸運値。
例によってマニュアルは無いので、どの数値が何の役に立つのか正確には判らないものの―――それらが数値で表され、他人と比較することができる。
いわゆる「レベル」という物はなく、体を鍛えたり、生き物を殺したりすると、使った能力の数値が直接上がる感じ。
実を言うと、僕は自分のステータスにコンプレックスがある。
今までステータスメニューの話をする時も、頑なにステータスの話だけはしなかったんだけど……というのも、山本さんに一度、ステータスを見せてもらったことがあるんだよね。
薄々感付いてはいたんだけど、僕は同年代の女子である彼女と比べて、ほぼ全てのステータスが下回っていた。
高めと言われた運の値ですら、単発で
それでも、転移者の中では低いだけで、この世界の現地人と比べれば高いのではないか……と一瞬期待もしてみたけれど、おばちゃんのリアクションから判断するに、特にそんなことはなかったらしい。
この町に来るまでの長旅や、ウサギとの戦闘なんかで体力や攻撃力、敏捷性なんかは多少上がったんだけど、それでも冒険者としては「物足りない」。
うーん。つらい。
「それじゃ、これがギルド証だ。登録者本人が持つとギルドメニューが使えるようになるし、身分証にもなるから、なくすんじゃないよ」
おばちゃんはそういって、鍵のような金属片のついたネックレスを僕に手渡した。
え、これだけで登録完了? 早いな!
「あ、ありがとうございます」
思わず声が引っ掛かってしまった。
まあ、見せたのはメニュー内の「基礎ステータス」タブだけで、「スキル一覧」タブや「装備一覧」タブ、「所持品一覧」タブ等は見せなかった。
スキル一覧を見せていたら、「こ、こんなにスキルが沢山なんて!!」みたいなリアクションがあったかも知れないけど、特に求められてもいないのに自分から見せるのも自慢っぽくて恥ずかしい。
というか、普通の人はスキルなんか持ってないし、初期装備もガチャアイテムやドロップアイテムではない、普通の武器(つまり装備品として表示されない武器)だろうから、そんなの見せる必要はないんだろうね。
まぁ、そんな話は良いんだ。大事なのはこれからだから。
「最初の依頼はこのカウンターでも受けられるけど、どうする? このまま受けてくかい?」
僕はおばちゃんの言葉に大きく頷いた。
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