019. 誰に恐れを抱かれ、誰の怒りを買うか

 他人ひとの金で回すガチャは楽しい。

 たとえ、引いた物を自分が貰えなくてもだ。


 よく考えると、あそこでスキルを引いていたら、僕はそのまま奴隷になっていたことに気付いたんだけど、まぁ今更の話だ。

 朝に自前の無料ガチャで引いたのは、2度目の【防御力上昇:下級】だったけど。……意外とギリギリだったなぁ。


 僕が引いた現金、王国通貨1000cコイン(100c玉が10枚)は、大興奮の中でオークションにかけられ、縁起物としてそれなりの値がついたらしい。各家庭の神棚だか仏壇だかに飾られるんじゃないかな。


 前に引いた現金、普通に使って流通してるんだけど……。


2:8ニーハチで生き残れるって、【危機感知:超級】スキルに言われてたの。理由までは判らなかったけど」

「よく勝率2割で賭けに出られたねぇ」


 僕はわりと本気で驚いたんだけど、言われた山本さんは馬鹿にされたの思ったのか、少し顔をしかめる。


 今僕は、山本さんに屋台でウサギ皮串焼き(1本5cコイン)を2本奢ってもらい、例の処刑寸前で命を拾った女の子と3人、広場のベンチでお話し中だ。

 ちなみに、この串焼きの代金も元を辿れば、僕がガチャで引いた神聖な硬貨である。


「うぅ~……!」

「大丈夫よ。このお兄さんも、理由もなく暴力を振るう人ではないから」


 僕、山本さん、女の子の並びで座ってるんだけど、女の子は山本さんの腕にすがり付いて、明らかに僕を警戒している。

 折れてた骨は、手持ちの下級回服薬2本を使い切ってどうにか繋がった(すごい)みたいだけど、まだあんまり強く握ると危ないと思うよ。

 僕が話しかけたら怯えるから、何も言わないけど。


 どうにもならない女の子への説得を諦め、山本さんは小さく溜め息をついた。


「あんな騒ぎの後だし、冒険者に登録だけしたら、私はこの町は出ようと思う」


 僕の方を向いて、そんなことを言う。


「その子は結局どうするの?」

「連れてくわ。この町には置いておけないし」


 山本さんは僕の耳に口を寄せ、「孤児らしいの」と小さく補足した。なるほど。

 命を助けた孤児というと、異世界モノで定番の「信頼できる仲間」の1つだ。山本さんは信頼できる相手を探すって言ってたし、打ってつけじゃなかろうか。


「気を付けてね。僕はこの町でもう少しのんびりしてくかな」


 のんびりというか、求職はするけども。


「……ねえ。君も一緒に来ない?」

「やめとく。その子も怖がるだろうし」


 それじゃ、また何処かで会えたら。

 そう言って、山本さん達と僕は、今度こそお別れした。


 食べ終わった串に残ったタレ(甘辛くて美味しい)をねぶり、周囲に倣って路上に捨てる。


「さて、本当に求人を探さないと」


 僕は祭で浮かれた空気の中、妙に僕の周りだけ空いた道を、ふらふらと歩き出した。



 この時の僕はまだ、解ってなかった。

 山本さんは判っていたんだろうし、だから僕を誘ってもくれたんじゃないかな?


 さっきの騒動が、どんな結果をもたらすか。


 誰に恐れを抱かれ、誰の怒りを買うか。


 それで僕がどんな状況に陥り、どんな事件に巻き込まれるかを。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る