015. ここいらじゃ、ウサギの毛皮なんか1cにもならないよ

「あんたら何処から来たの。ここいらじゃ、ウサギの毛皮なんか1cコインにもならないよ」

「ですよねぇ」

「私達も、そうじゃないかと」


 カウンターのおばちゃんににべもなく断られた僕達は、へらへらと半笑いで返した。


 町の名前は「ラビットフィールドの町」。

 由来は町の横に広がる、「ラビットフィールド」という草原だ。

 ちょっと出歩けばポコポコ涌いて出て、度胸があれば子供でも狩れる。そんなウサギのドロップアイテムを、お金を出して買いたいか? と聞かれれば、まぁ買わない。


 いわゆる冒険者ギルド―――職安と派遣会社と農協と便利屋が合わさったような施設を見つけた僕達は、最初に素材買取カウンターでウサギの毛皮をお願いしてみた。

 大量に狩った大半は食べたり捨てたりしたけれど、僕のデイパックには15枚、山本さんも転移時に巻いてたマフラーで縛って纏めて20枚。それなりの重さを運んできたんだけど。


 まぁ、町の至るところにボロボロの毛皮がポイ捨てされてるし、何なら近くの草原に新品の毛皮が放置されてるし、町の名前がもう「ラビットフィールドの町」だし、最初から期待はしてなかったから、何ということもない。


「参考までに、このウサギの毛皮って何かに使えるんですか?」

「そうさね、腹をすかした悪ガキが焼いて食ったり」


 それは知ってる。


「宿無しが地面に敷いて寝たり」


 それも知ってる。


「ちょっとしたチラシやメモ用紙とか」


 それはさっき見たな。


「汚い話だけど、鼻を咬んだり、尻を拭いたり」


 それも知ってるなぁ。


「大掃除の時に、雑巾にしたりかね」


 なるほど、新しい使い道が増えたね。


「例えば、これを加工して服を作ったりは?」

「そんな格好で町中に出たら、ムサボリオオウサギと間違えられて、あっという間に蜂の巣だよ」


 駄目元の質問にも、おばちゃんは弓を引くジェスチャーを添えて答えてくれた。


 僕と山本さんは時間を貰ったお礼を行って、ひとまずギルド内の喫茶スペースに移動した。

 お金はあるんだ。ガチャで多少は現金も引いたから。


「毛皮どうする? 捨てる?」

「捨てるのも悔しいのよね」

「わかる」


 注文したサラダと野菜ジュースを摘まみつつ、僕達は今後の展望を相談することにした。


「私はこのギルドで冒険者登録して、働きながら仲間を探すわ。それで、もっと大きな街を目指す」

「僕は、どうしようかな。とりあえず、町の中で仕事を探してみる」

「魔王討伐は?」

「うーん、行けたら行くよ」


 山本さんは「そう」とだけ言って、あっさり引いた。


 それで話は終わり、パーティは解散だ。

 渡したガチャアイテムや現金は、返さなくても良いと言っておいた。



 僕はもう、あの女神の依頼? 強要? そんなのに従ってやるのも面倒なんだけど、山本さんは結構やる気があるらしい。

 もしかしたら、【危機感知:超級】で具体的な危機の時期や内容が、彼女には見えてるのか知れない。

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