014. ウサギの毛皮の無断放置は犯罪です

 まず、住民に角はない! 良かったぁ!

 角無し差別なんてなかったんだ!!


 この世界で最初に見た牛には角が3本あるし、道中で乱獲していたウサギにも、川で獲ったフナにも、みんな角が生えていた。

 これは人間にも生えているパターンでは……?

 角のない僕達は、角無し差別を受けるのでは……?


 そんな不安は全て杞憂だったようだ。


 念のため「角のある人って、ここから近いとこだと何処に住んでますか?」とも聞いてみたら、山を越えた275キロメートル先の森に角エルフが住んでいるらしい。

 いるのはいるのか、角のある人。

 あと、275キロメートル先は近くないと思うよ。


「言葉は普通に通じるのね」


 と、山本さんに言われて気付く。


「そう言えばそうだね? キロメートルって単位も通じてたけど」

「にしても275キロなんて妙にキリが悪いし、単位が共通・・しているというよりは、翻訳・・されているのかも」


 んん。じゃあ、ここでは敏捷性の喩えに「100メートル走」を出したら、逆にキリが悪すぎて変な顔をされるってことか。

 しないと思うけど。


「今朝ドロップし立ての新鮮なレタスだよ! 1玉たったの13cコイン!」

「雌牛14頭を絞めてようやくドロップした上質なバターだ! 次に手に入るのはいつか判らんぞ!」


「聞いてくれよ……。今朝うちの玄関前に、ウサギの毛皮が捨てられてたんだよ……ドアの隙間に噛んじまって、なかなか開かなくてさ」

「ひでぇ悪戯だな、おい。何か恨みでも買ったのか?」


 お店の呼び込み、通行人の世間話。特に問題なく聞き取れる。


 それでは文字はどうかといえば、


『ヤーサイ青果店』

『ニック精肉店』


 みたいな店の看板も読めるし、


『大地の月/3日、ラビフィー祭開催!

 楽しいイベントも盛りだくさん♪

 歌謡ショー・大道芸・ガチャ刑執行 etc.

  ◎ラビフィー祭実行委員会』


『STOP×不法投棄!!

 ウサギの毛皮の無断放置は犯罪です。

 不要な毛皮は領主邸裏の集積所まで。

 c(U=;ㅅ;)U<ボクヲステナイデ…

  ◎ラビットフィールドの町・公衆衛生課』


 こんな風に、何かの皮に書かれた貼り紙の文字も当然のように読める。

 明らかに日本語ではない文字で書かれているのに、細かいニュアンスまで理解できるのが不思議だ。


 特にそういうスキルは無かったはずだけど、これは転移特典として、スキル以前の状態で備わった能力なんだろう。


 便利ではあるから、細かい点は気にしないことにした。


「さて、まずは何から始めようか?」

「まずは、ウサギの毛皮を手放したいわね」


 山本さんの提案には僕も同意する所だ。

 毛皮を抱えた僕らに対する通行人の視線には、若干の警戒心、不信感を見出だせる。


「肉屋では引き取ってもらえないよね?」

「そんな視線を感じるものね」

「何かそれっぽいお店は…………あ」

「え、どうしたの……………あ」


 僕は大通り沿いにある、大きめの建物の看板に目を留めた。

 山本さんも僕の視線を追って、同じ場所に目を留めた。


 剣と杖と秤を組み合わせたロゴマーク。


『冒険者ギルド』


 看板には、そう書かれているように読めた。


 そう翻訳されているんだから、つまり、大体そういう施設なんだろう。

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