012. だから、それまで一緒に行きましょう

 何だか馬鹿馬鹿しくなって、僕はウサギの毛皮を敷いた上に寝転がった。


 空は青い。

 太陽は白い。

 月は、小さめの半月が2つ。


「死のうかな」


 そんな言葉が、口をついて出た。


 本当なら僕も既にバスガス爆発で死んでるはずだしな。


 それを考えなくても、女神の呪いがなければ、他の皆と同じようにガチャ爆死してたはずだし。


 だって、特に生きてる意味なくない? そもそも何でこんな世界に来たんだっけ。


「あの邪神めがみ、何か言ってたっけ」


 神域?での会話を追想する。


 ああ……「貴方達には別の世界へ転移して、魔王を倒し、世界を救ってもらいます」だ。そう言ってた。


 別に義理もないし、どうせ死ぬなら、どうでもいいか。


 頭の下のウサギの毛皮越しに、何かが近付いてくる震動を感じる。

 ウサギのボスかな。どうでもいいや。


「何してるのよ。そんな所で」


 ウサギのボスは、人の言葉で話し掛けてきた。


「絶望」


 僕は目を閉じたまま答えた。


「そんなに?」


 そんなに、何だろう。

 そんなに疲れた? そうでもないな。

 そんなに世界が嫌になった? 死ぬほどではないかも。

 そんなに寂しかった? それは、そうかも知れない。


 僕は、僕が思っていたより寂しがり屋だったわけだ。


「さっきは、変なこと言ってごめんなさい」


 僕は起き上がって毛皮の上に正座し、ウサギのボス、もとい……わざわざ戻ってきてくれた山本さんに、深く頭を下げた。


「……まぁ、本当にね。危険度だけなら、私1人でいる方が低いのよ。川上に行っても、川下に行っても、大体9:1キューイチで生き残れるわ」

「うん、ごめんなさい」

「でもこのまま別れると、ずうっと後悔に苛まれる危険・・があるんだって」

「うん、ありがとう」

「それと、私が寂しくなる危険・・も」


 深い溜め息。


 優しい人なんだろうな。本当に。

 それに、僕と違って責任感もある。


「人里について、もっと気が合って頼りになる人が見つかったら、君とはそこでお別れね」


 それは、うん。仕方ない。

 そうあるべきだと、僕も思う。


「だから、それまで一緒に行きましょう」


 そう言って、手を差し出してくれる。


「ありがとう。よろしくお願いします」


 僕は畏れ多くて、その手を取ることもできなかったから、自分で立ち上がって、また頭を下げた。

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