第60話 ろうどう 2


 花火大会における、カナ姉が思い付きで考え出した告白プランはこういうことである。


・花火が始まった時点で、適当な理由をつけてカナ姉が俺と三久の二人を呼び出す。


・場所は関係者だけが入れる場所。カナ姉は知り合いに呼び出されたからといなくなって、二人きりになる。


・しばらく二人で花火を見て、終盤に差し掛かるころに俺が告白。


・花火どーん。


・その後も少しの時間なら二人きりにさせてあげるから、結ばれた後は適当にイチャイチャしやがれコノヤロー!


 ……らしい。


 で、告白の前にプレゼントする用のアクセサリを買うために、カナ姉は俺にお金を作れというのだ。


 まあ、カナ姉を頼った以上は言う通りにするつもりだが、問題になってくるのがお金である。


「カナ姉、ここにあるヤツ……高いね」


「そりゃ知り合いの手作りだし、それなりにいい素材を使ってるからね。


 色々な小物を扱っているが、その全てが学生の俺にとっては高い。5桁6桁、そして7桁……いや、ちょっと手が出ない。


 でも、それだけのお金を出すだけの価値も、またあると思った。


 中心に小さな宝石が輝くネックレスや、細かい装飾の施された指輪、それ以外にも水晶のピアスや、男性用のネクタイピンなど、とても素晴らしいデザインだと思う。


 三久がそれらを身に着けた姿を想像してみる。もしかしたら『こんなのキャラじゃない』なんて恥ずかしがるかもしれないが、三久は元が可愛いから、きっとなんだって似合うと思う。


「遥、今、想像したな?」


「……うん」


 率直にプレゼントしてあげたいと思った。三久が喜ぶ顔が見たいとかではなく、単純に、綺麗なアクセサリを付けた三久を見てみたいと思ったから。


 そんなことを考えていると、ふと、あるページに目が留まった。


 花びらと小さなハートのデザインのネックレス。宝石やカラーストーンなど、俺には詳しいことはわからないが、カジュアルな服装にも合わせることを考えているらしく、若い人向けの商品らしい。


 値段はもちろんそれなりにする。今あるポケットマネーを全部回しても、半分ぐらいにしかならない。


「遥らしい無難な選択だね。まあ、遥がそれでいいんならそれでいいじゃない? こういうのは所詮自己満の世界だし~……ちょっとスマホ返して」


 そうして、カナ姉はどこかに電話かけ始めた。


「あ、カンナ? 急ですまんけど、一つ注文いい? 番号129のネックレスのやつ。え? 内金? 心配すなって、後でちゃんとお金払うけん。……え? 先客があるから一か月先? いやいや、そこなんとか二週間で頼めん? 事情はあとでちゃんと話すけんさ~親友の一生のお願い……え? なんとかスケジュール調整してあげるって? やったあ、ありがと~! さっすが遠藤先生、ビール奢ってやっけん、ちょっと仕事終わったらウチ来いよ――」


 持ち前の強引さで話を進めていくカナ姉。どうやら店主は遠藤さんという方らしいが、ウチのカナ姉が迷惑をかけて申し訳ない。


「割引しないことを引き換えに間に合わせてくれるってさ。よかったね、遥。花火大会までに間に合うよ」


「うん。それは良いんだけど……あの、お金」


 注文してしまった以上はお金は払うつもりだが、今のところ目途はたってない。


 ポケットマネーは全部使うとして、残りをどうするか。俺の口座はあるが、それは授業料やその他生活費のためにあるので、なるべくなら使いたくない。


 そうなると後はアルバイトなどして工面するしかない。


 しかし、この短い期間で果たして都合のいいアルバイトが見つかるだろうか――と思ったが。


「……ふふ、お兄さん、どうやらお困りのようですね」


「やっぱりアルバイトのほうも当てがあるんだね」


「もちろん。ま、毎年この時期は手伝うようになってるからね。遥、お姉ちゃんの代わりにそっち行ってくれん?」


 相談をした時点でそこまで思考回路を働かせているカナ姉をある意味尊敬する。


 とりあえず、次の土日の二日間のアルバイトで不足分のお金は足りるとのことなので、迷惑を承知でお願いすることに。


 なし崩し的に決まったが、俺にとっては、何気にこれが人生初のバイトになる。


 仕事内容は簡単なモノらしいが……まだ先のことだと言うのに、なんだかめちゃくちゃ緊張してきた。

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