第33話 べんきょう 1


 三久との同居生活二日目。さっそく事件が。


『たすけて』


「次はなんだろう……」

 

 昼の休憩時間に、三久からメッセージが飛んできた。


 絶対に何かあるとは思っていたが、まあ、早い。



(三)『どうしよう』

(滝)『どうかした?』

(三)『ごめんね』

(滝)『うん』

(三)『ばれちゃった』

(滝)『ばれたって、同居のこと?』

(三)『うん』

(三)『ゆっぺとまりに』

(三)『絶対秘密だと思って黙ってたのに、あっさり』

(三)『といつめられて、家に遊びにいくって言われたから、それで』

(滝)『そっか……』



 あの二人は三久のことをよく見てくれているから、ちょっとした異変でも気づいてしまうだろう。


 まあ、朝一緒に起きたときから、三久はずっと幸せそうな顔で一人にやにやとしていたから、学校でもその調子なら、探られてしまうだろう。


 と、ここで由野さんからもメッセージが飛んできた。



(由)『(にやにやと笑っている変な漫画の絵)』

(由)『ふひひ、この体育館裏の名探偵こと由野由宇に隠し事などできませんよ!』

(由)『びしぃっ!』

(滝)『微妙に格好悪い名探偵』

(滝)『とにかく、話し合いましょう』

(由)『え? まりと一緒に式の余興で歌を歌ってくれ? え~、そんな人前で恥ずかしいな~どうしよっかな~』

(滝)『ちがうちがう』

(滝)『知ってるのは、由野さんと御門さんだけ?』

(由)『ふふ、この歩く音割れスピーカーこと私のことを甘く見て』

(滝)『二人だけね』

(由)『わかってるなら、もうちょっと茶番にのってくださいよ』

(滝)『何が望み?』

(由)『ふふ、“わかっている”じゃあないですか。そういうの、私は嫌いじゃないですよ』

(由)『あの……勉強教えてください』

(由)『もうすぐ期末テストなんですが、ピンチなんです』

(由)『われ うけたくない ほしゅう』

(滝)『いいよ』

(由)『すんません』


 ということで、夕方から夜にかけて勉強会が開かれることとなった。

 もちろん、場所はウチだ。


 ※


 通常の講義を終えて家に戻ると、すでに三人が待ち構えていた。


「あの、おにちゃん」


「うん、大丈夫。怒ってないよ」


「……うんっ」


 すぐに俺のもとに駆け寄ってきた三久の頭をぽんと軽く触ると、安心したようにふにゃりとした笑顔を見せる。


 言いふらしたわけではないし、あの二人なら知っていてもらったほうがいいと思う。

 

 からかわれるのは……まあ、この際仕方ないか。


「三久や俺の部屋じゃ狭いから、居間でやろうか。おばあちゃんは?」


「大丈夫だって。晩御飯も食べていってもらえってさ」


 ここから少し距離はあるそうだが、由野さんも御門さんも地元の子なので、帰りは問題ないようだ。


「どもっす、滝本先生」


「どうも」


「どうも。御門さんはともかく、由野さんは随分大人しいね。絶対からかってくると思ったのに」


「ああ~……そうしたいのは山々なんすけどね。そんなことよりまずテストってことで。ねえ、真理」


「そういうことです」


 いつもの勢いがない……ということは、相当深刻なのか。


「そういえば、三久はテスト勉強、大丈夫なのか?」


「私? 私は二人みたいに点数悪くないから」


「そうなのか?」


「うん」


 部活で忙しいからなかなか勉強の時間も取れないだろうと思っていたから、正直、意外だった。


 そういえば、三久のほうから『勉強教えて』とお願いされたことは少なかったか。


「あれ? 滝本さん知らなかったんすか? 三久って、中学の時から東京の大学志望だったんすよ。キャラはこんなですけど、わりと文武両道」


「ゆっぺ~?」


「あはは、そんな顔しなさんなって。これでも褒めてんだから」


 由野さんの言う通り、まだ高一なのに、きっちり目標を定めているのは良いことだ。


 俺も勉強は頑張っていたが、ただ親が指示した大学、親が指示した進路を進んでいただけだから、三久とは全く違う。


「中学の時から良かったですけど、高校に入ってからますます上がって……この前の中間テスト、学年10位でした」


「へえ、すごいじゃないか三久」


「えへへ……おにちゃんに較べれば全然だけど」


 三久は謙遜しているが、すごく頑張っていると思う。


 高校のレベル次第だが、学年で10番以内を維持していけば、十分レベルの高い大学を狙っていけるだろう。


「あ、でも最近ちょっと調子が落ちてきてるんですよね。面白いから三久のことはよく観察してんですけど、あまり勉強に身が入ってないと言うか……あ、いや、待てよ……」


 何か閃いたのか、由野さんが三久の方をじっと見つめている。


「……由野さん?」


「あ~……いや、やっぱ気のせいでした。滝本さん、私たちの勉強のついでに、三久の調子もしっかり取り戻してやってください。親友からのお願いです」


「うん、もちろん。頑張ってみるよ」


 由野さんにしては歯切れの悪い様子だが、まあ、あまり気にしても仕方ない。調子が悪いのは、きっと俺のことでも色々悩ませてしまったからだ。


 高校一年の教科書の範囲だから問題ないとは思うが、人に教えるのは初めてだ。しっかり頑張ろう。

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