第16話 さんにん 1


 『たーきもーとさんっ♪』



 6月も半ばになり、そろそろこちらでも梅雨入りの季節かというところ。


 帰宅し、少し勉強してから寝ようと思っていたところに由野さんからメッセージが送られてきた。


 連絡先のほうは三久を通じて俺も渡していたが、こうして送られてきたのは初めてだ。


「由野さんが、俺に用事……?」


 メッセージの感じから、俺にとってはあまり良くない話のような気がする。


 が、無視するのも悪い気がしたので、とりあえず相手をしてみることに。


 ※


(滝)『なに?』

(由)『ちょっと、お願いがあるんですけど、いいですか?』

(滝)『話ぐらいならいいけど』

(由)『やったぜ』

(由)『(変な漫画のスタンプ)』

(滝)『なに? 一応、勉強中だから、手短にしてもらえると』

(由)『あ、すんません』

(由)『では、単刀直入に』

(由)『デート、しませんか?』

(滝)『なに?』

(由)『もう、わかってるくせにぃ』

(由)『だから、で、え、と、ですよぅ♡』

(滝)『なに?』

(滝)『なに?』

(由)『(こいつできるっ……! とある変な漫画のスタンプ)』

(滝)『いや、別になにもやってないし』


 ※


「……うーん」


 やっぱり予感が的中しているような。ここはやはり三久が良くやっているという『ごめん寝てたわ』戦法を取るべきだったか。


 まあ、本当に俺のことをデートに誘っているわけではないようなので、もう少し事情を訊いてみることにするか。


 ※


(滝)『どうぞ』

(由)『どうも』

(由)『あの、明後日なんですけど』

(由)『うちの高校、休みなんですよね。創立記念日』

(滝)『そうなんだ。部活も?』

(由)『そっす』


 ※


 三久、由野さん、御門さんは同じ水泳部。


 中高生の運動部はこの時期だと土日も毎日練習だから、ここ最近、三久とそれほど顔を合わせる機会はない。朝だけは、見送りを継続しているが。


 ※


(由)『夏じゃないですか』

(滝)『うん』

(由)『来月になったら私たちは夏休みです』

(滝)『部活は?』

(由)『うちの水泳部、言うほど強くないんで。頑張ってますけど』

(由)『夏の大会が終わったら、ちょっと暇になります』

(由)『で、そうなったら』

(由)『やっぱ遊ぶじゃないっすか』

(滝)『勉強は?』

(由)『遊ぶじゃないっすか』

(由)『遊ぶじゃないっすか』

(滝)『……まあ、一年生ならそうかな』

(由)『でそ!』

(由)『で、夏に遊ぶとなったら海! プール!』

(滝)『部活でやってるでしょ?』

(由)『それはそれ、これはこれです』

(由)『では、滝本さんに質問です』

(滝)『水着』

(由)『え』

(滝)『当たり?』

(由)『(こいつできるっ……! とある変な漫画のスタンプ)』

(由)『なんで質問前に答え言っちゃうんですか~?』

(由)『ギルティ!』

(滝)『そう言われても』


 ※


 以前から三久がそんな話をしていたので、もしかしたらとは思っていた。

 なので、由野さんがこれからお願いしようとしていることもなんとなくわかる。


 ※


(由)『明後日、三久と真理と三人で、新しい水着を買いに行くことになりまして』

(由)『滝本さんにもご一緒してもらえないかと』

(滝)『そういうの、俺がいてもいいの?』

(由)『荷物持ちはいるじゃないっすか』

(滝)『おやすみ』

(由)『じょ、冗談ですよ~。えへへ』

(滝)『まったくもう』

(由)『もちろん、今までは女三人で行ってました』

(由)『けど、まあ、我々三人、女子高生になって初めての夏ですから』

(由)『うわついた話のひとつやふたつあっても』

(由)『なので、えー、男性の意見も取り入れていこうと、議会はそういうふうに』

(滝)『急に政治家みたいになった』

(由)『ようは男に媚びていきましょうということです』

(滝)『ぶっちゃけるなあ』

(由)『そんなわけで、明後日、買い物に付き合ってもらえませんか?』

(滝)『休みならいいけど、俺、予備校が』

(由)『同じく全日休講らしいという情報が』


 ※


「…………」

 バレてる。

 多分、情報源は三久だ。

 手のかかる電気工事をやるということで、ちょうどその日、臨時で予備校は休みになったのだ。家でゆっくり勉強できると思っていたが。


 ※


(由)『お願いしますよ~、お昼おごりますから~』

(滝)『わかったよ。あんまり遅くならなければ、付き合うよ』

(由)『あざっす!』

(由)『では、また時間が決まったら連絡します』

(由)『三久から』

(滝)『了解』

(由)『それでは、また明後日』

(由)『(キスをしている顔の変な漫画のスタンプ)』


 ※


 

「成り行きで受けちゃったけど、本当にこれでいいのかなあ」


 楽しめと加奈多さんも言っていたし、その教えもあって引き受けてしまったが。


 しかし、今度は三久とその友だち二人と遊ぶわけか。


 女の子三人と、俺一人。


「……着ていく服って、こういう時どうすればいいんだろう」


 三久や加奈多さんに相談するにはあまりにもしょぼい気がして、結局、うだうだと二日間悩むことになった俺だが、その前に一つ気になることが。


 由野さんたち三人で決めたこととはいえ、どうして、三久からのアクションは何もないのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る