第7話 奪っちゃダメ(2)
野盗たちは目だけを出して布を頭に巻きつけ、大刀を腰に提げてイオマに跨っている。その数30人程。
「おい、そこの野盗ども! そいつらは俺様の相手だ。引っ込んでろ!」
エルは自分の身長よりも長い槍を振り回して啖呵を切った。
「俺の宝剣に手を出すなよ」
トゥービィは右手に剣を左手に大刀を構えてその後ろに控えた。
「馬鹿、宝剣とか言うんじゃねえ」
すかさずエルが小声で叱咤するが、野盗の頭領はにやりと笑って刀を構えた。
「宝剣か。そりゃあ良い事を聞いた。死にたくなければ大人しく差し出すんだな」
頭領は右手を上げて手下に合図をした。それと同時に野盗たちが一斉にエルとトゥービィに襲い掛かる。
多勢に無勢、と思いきや。エルの優雅な槍さばきとトゥービィの豪快な二刀流で、みるみる野盗たちは倒れていく。一人また一人となぎ倒されていく手下を見て、頭領は愕然とする。
「ま、待ってくれ。降参、降参だ。大人しく手を引くから見逃してくれ」
エルはにやりと笑う。
「見逃してやってもいいが、タダって訳にはいかないな。何か良いもの持ってるんだろう?」
これではどちらが追剥ぎか分からない。
頭領は革の袋を差し出した。
「か、金だ。これで許してくれ」
エルはそれをひったくり中をあらためる。銀貨と金貨がずっしりと詰まっている。
「なかなか良い心がけだ。まあいいだろう。もう追剥ぎなんて真似はするなよ」
頭領はこくこくと頷いて、傷だらけの手下を率いると慌てて立ち去った。
「有り難う。助かったよ」
青い幌の荷車の影から2人の男が顔を出す。
「まあいいってことよ。それよりも、こいつを覚えてるか?」
エルはトゥービィの髪を掴んで引き寄せた。
「いてててててて。引っ張るなってー」
王子の抗議も耳に入らない様子のエルは男たちをじろりと睨みつけた。男たちは思わず身をすくめる。
「助けてやった礼に、こいつから買った宝剣を返してもらおうかな」
「ええっ、あれには銀貨30枚も払ったんですぜ。ただお返しするわけには……」
「おーっと。あのまま野盗に襲われてたら身ぐるみはがれて命まで取られてたかも知れないよな?」
痛いところを突かれて男は口ごもる。
「で、ですが……」
「いいから寄越しやがれ。嫌なら力づくでもいいんだぞ」
「は、はいっ」
こうして宝剣はトゥービィの手に戻った。しかしそれだけでは済まないのがエルファンスだ。
「もうちょっと感謝の気持ちを上乗せしてくれてもいいよな? ん?」
「勘弁してください。俺たちはただの運送屋なんですから……あっ、やめてください。荷物に触らないで……!」
おろおろと困り果てる男など気にする風もなく、エルファンスは荷台に積まれた荷物を物色した。
「ラガマイアの王妃への荷物か。これは面白そうだな」
遠慮なくばりばりと小包を開封する。
「や、やめてくださいー!」
小包の中から出てきたのは針のないブローチのような青い石だった。六角形のタイルのようでもあり、表には模様が裏には見たことのない文字が刻まれている。
「面白いな。これで勘弁してやる」
エルは空箱を男に放り投げ、青い石をポケットにしまった。
「王妃様への荷物を取られたら我が社の信用が……」
「気にするな。野盗にでも取られたと言っておけ。他の荷物は無事なんだから感謝しろよ」
「そんなあ……」
がっくりと肩を落とす男たちを尻目にエルは待たせておいたイオマの方へと歩き出す。
「すごいなエル。金も宝剣もへんな石ももらったぞ」
「いいかトゥービィ。これが本当のショーバイってもんだ。分かったか」
「良く分かんねえけど、分かった!」
こうして興奮気味のトゥービィと意気揚々としているエルは再び砦へと向かってイオマを駆った。
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