コーヒーとパン

「シュークリーム」

「え?」

 僕は耳を疑った。

「ほら、シュークリーム」

 彼女はそう言って空を指差す。その先にはたしかにシュークリームがあって、今度は目を疑った。

「あれは……シュークリームだね」

 空にシュークリーム。なんとも悍ましい光景だ。空に、シュークリームなんて。

「あなたは、コーヒーだね」

「どうして?」

 話の流れがつかめない。

「あなたがコーヒーなら、私はパンだね」

「だから、どうして?」

 彼女は空のシュークリームを眺めながら話す。

「コーヒーとパンはモーニングセットの定番でしょ?」

「つまり、僕らはセットだと言いたいの?」

「そう。コーヒーだけ、パンだけだと朝は足りない」

「だからお互いがいないとだめということ?」

「コーヒーとパンが揃って初めてモーニングセットと言えるでしょ?」

「さっきから同じようなことを何度も言っていることに君は気付いているのかな」

「つまり、あなたは私を必要としているし、私もあなたを必要としている。ということね」

「さっきそれに似たことを僕は言った気がするけど」

「だから、もし私がシュークリームだったら、あなたは紅茶になるしか一緒にいる手はないということよ」

 結局なにもかもよくわからなかった。

 ただ、彼女が僕を必要としているということが嬉しかった。お互いがお互いを必要としているのなら、ずっと一緒にいられるだろう。


 シュークリームは次第に僕らのところに降りてきた。よく見るとシュークリームは皿の上に乗っていて、紅茶も添えられていた。

そして一言、「あなたを必要としてくれる人を大切にしなさい」と書いてある切れ紙がシュークリームの下に挟まっていた。

 僕はそのシュークリームを仲良くはんぶんこして、少し大きい方を彼女に渡した。

 彼女はまるで幼い子供のように、嬉しそうにシュークリームを頬張った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る