第7話スタンピード

 その後エルダーリカオン15匹討伐を完了したのだが15匹中5匹は俺の風魔法、7匹はリィカの体当たり、3匹がレンのちまちま双爪。課題は山盛りだなこりゃ…



 とぼとぼと学院に戻りクエスト報告。他のクラスメイトも何組かクエストを終わらせたらしく皆興奮気味に戦果を報告し合っている。みんなそれなりに苦労したり新たな発見があったりしてるようだ。


 明日は東の森に行って採取クエをこなそうか。食材もストックしておきたいしなぁ。街に買い出しに行ってもいいな。リィカのコテージ、食材なんもなかったしな。

 どうする?と二人に聞くと二人ともしょんぼりしてる。

 想像以上に自分の戦闘スタイルが使えなかったのがショックだったらしい。じゃ俺たちも反省会やるか。


 学内の歓談室で魔王国産のお茶をすすりながら話をする。この国は紅茶も緑茶もある。俺は緑茶はである。

 落ち込んでいるリィカだがリィカは問題ないんじゃないかな。そう思えて来た。冒険者は武器を持たないといけないわけじゃないし見た目幼女の【強化体当たり】あれはあれでインパクト大だ。パーティーの個性と言えば通用するんじゃないかな。ただ身体には気をつけろよ。


 さてレン。そもそも鬼族の特長から考えよう。他の鬼族はどうやって戦ってる?鍛えた身体に闘気を纏っての格闘が多い?

 ふうん、レンは闘気は纏えるの?纏えるけど闘気を乗せて双爪を奮うとあっという間に体力が尽きる、と。ああ、体力の問題なのか。それはやはり向いていないんじゃないかな?

 …実は俺も体力にはあまり自信ない。エルフの魔法と戦術で誤魔化してると自戒する。だから俺は体力任せの戦闘はしない。

 つまりレンも体力がないならないなりの戦法を取ればよいのだ。鬼らしくないと言うなかれ、戦術は個性に合わせればよいのだ。

 

「レンは毒と爪以外は何が出来るの?」

「毒を使う者の嗜みとして回復・治癒の魔法は使えるでござるよ。」

「は?」

「それとバフ・デバフ・支援補助魔法も学んでいるでござる。」


 なんとレンは超回復系魔法使いであった。


「そう言う事は先に言おうよ!なんで双爪使ってんだよ⁈」


 青い顔をしてレンは俯向く。そして絞り出すように呟く。


「…だって〜鬼でヒーラーって言うとみんなにすっごい嫌がられるんだもん!鬼らしくないって‼︎」


 突如口調が変わったレン。目が涙目だ。


「嫌がられるって…鬼族にはヒーラーはいないのか?」

「…鬼族は闘気至上主義だから肉体で闘えない者は立場が低いんだよ…」


 そうなのか。もしかすると鬼族の里では不遇な目に会って来たのかもしれない。

だけどここは様々な種族が集まるギルド学院だ。


他人と違う技能は長所だぞ。


 レンはヒーラー専門に固定だ。もしもの時に自分を守る手段として爪をふるえばいい。これからヒーラー用装備買いに行こう。杖とか。

 え?リィカも装備が欲しい?お前要らんやろ。どんな装備より肌硬く出来るんだから。リィカがぶーたれる。わがままな奴め。後で甘いもの食わせちゃる。


 その後街にレンの装備を買いにみんなで出た。


 本人はローブと杖を所望したのでコーディネートを楽しみながら物色する。機嫌は良くなったようだ。

 側から見たらまるでどこぞの女子高生かと思われるはしゃぎ様であった。


「女の子同士のショッピング、楽しい〜」


 …ごめんな俺男なんだよな…バレたら殺されるんじゃないかな。


 改めて役割を再設定した我ら『魔王の眷族』はひたすらクエストに挑んだ。死に物狂いで挑んだ。


 成績優秀を取らないと授業料免除にならないし、とにかくランクを上げて高評価が貰えるクエストに挑みたかった。


 しかしリィカが入れ込み過ぎている。

 毎回身体のダメージもなんのその、息も絶え絶えで挑むのであまりにも気になってリィカだけを呼び出してつい聞いてしまった。


「どうしてそこまでしてトップに拘るんだ?

龍族の誇りの為か?」


しばらく黙っていたリィカが呟く。


「…魔王に会うんじゃ。会って言いたい事があるのじゃ。…なんで妾を捨てたのかと。」

「え…⁈」

「…【異界の魔王】は…妾の父上なのじゃ。…」


…マジか…⁉︎


俺はそれ以上何も聞かない事にした。この事は俺とリィカだけの秘密だ。



 レンも頑張り過ぎて自分の魔力量を超えて強化、ヒーリング魔法をかけては倒れる、を繰り返してた。

何故そこまで無茶をする? と聞いたらマジな口調の方でカミングアウトを始めた。


「…魔王に絶対に会うんだ…なんで母様と僕を捨てたのか問い詰めるんだ…」


え? えー…え?  

うーむ。魔王サイテー。

何コレ…? リィカとレン、異母姉妹って事?…

めっちゃドロドロして来た。愛憎悲喜交々。


取り敢えず俺だけの秘密という事にして黙っておこう…。修羅場しか見えないが。





 今日も俺達は学院内で受けられる最上位の討伐クエストを受注してサバンナとジャングルの境の獣人の集落にいる。

 西には魔王国と余り仲が良くない人間の王国があるので十分に注意しろ、とこの集落に集まった冒険者が若葉マークの俺達に教えてくれる。

 そう言えば昔、魔王国は隣の人間の王国と争って今の国土を奪い取ったと聞いた。

 とは言えこの先のジャングルは東の大森林と並んで安定した資源供給地だ。我々のような学生でも比較的安全に狩れる。

 

 が、何だか様子がおかしい。空気が異常を伝えている。

 集落の端で風魔法の気配察知をかけてみた所、尋常じゃない数の魔物がジャングルの奥から一斉に移動している。大小数千から万単位の魔物だ。なんだこりゃ。

 ジャングルの中から満身創痍の冒険者が死に物狂いで駆け出して来る。みんなベテランだが泣き叫ぶ者もいる。阿鼻叫喚とはこの事か⁉︎


「ま、魔物の暴走だ‼︎ 最奥で何か起こったらしい‼︎魔物が一斉にジャングルの外に向かって移動している‼︎ 逃げろ‼︎」

「な、何だと⁉︎」

「うわああああっ」


 集落の住人や冒険者は一気にパニックになり逃げ惑う。だが人の足など魔物にすぐ追いつかれるだろう。


「助けてぇ‼︎」


逃げる途中つまづいて転ける獣人の幼女。すかさず助け起こす俺。

 ようじょが危ない‼︎

 なんとかせねば。


「リィカ‼︎ 君の結界術はこの集落を包めるか⁈ コテージの例を見ると一晩は保つよな⁈」

「そうじゃな。大抵の魔物だと一晩と言わず一年は保つが、龍の強度を超える相手だと一瞬じゃ。」

「逃げて来る人をこの集落に集めて直ぐに結界を張ってくれ。」

「解りました。手を尽くします。」


 何処からかミヤマさんが現れすぐに消える。ニンジャか⁈


「レンは怪我してる冒険者達を治療してやってくれ。 後は俺が何とかする。」

「⁈ 何とかって…⁈」

「俺は跳べるからそうそう簡単にはくたばらない。」


 そう言って俺はジャングルの中に跳んでいった。

 後ろから叫び声が聞こえるが時間がない。


俺は自分の魔力の底を知らなかった。大抵の人間は【ボックス】の内容量が魔力量を測る基準になると言う。…だが。 俺の【ボックス】の容量は無限に近い。だから一度全力で魔法を使って見たかった。


 まず跳びながらジャングルの外縁を土魔法で一気に底無し沼に変える。突然足元を取られ転げ回る者、泥沼に沈んでいく者、飛べる者以外は足止めになる。

 飛んで来る敵に対処する。

 頼みは風魔法の気配察知。

 急いで、しかし冷静にマーキングする。千を超えた辺りで攻撃魔法の用意だ。マーキングに合わせてエルフサンダーを食らわす。ワイバーンをも黒焦げにする雷だ。みるみる飛行魔物が落ちて行く。一度やってみたかったマーキング攻撃。

 地上の沼に足を取られた魔物にもマーキング。そしてエルフサンダー‼︎ 力の限りマーキング、エルフサンダー‼︎ マーキング、エルフサンダー‼︎


 20発ほど放ったあたりでちょっと目眩を覚えた。

さすがに魔力は無限という訳ではないようだ。

自分の限界が解ってよかった。

 

 外に向けて暴走している魔物の姿はもう見えない。ジャングル内に散って逃げる魔物がちらほら見えるだけだ。少なくともあの集落の方向は無事だろう。


 暴走ー【スタンピード】はその地域に居座るボス級の魔物に何かあった場合起こると言われている。前ボスが死んだりいなくなったりして新たなボスを選ばなければならない時とかに起こりやすい。


 波を乗り切ってホッとしていた俺の前に巨大な腕が伸びて来る。50mはありそうな巨大な四本腕の猿が現れた‼︎

 こいつこのジャングルのボスじゃないのか⁉︎ 暴れてるって事はこいつも追い出されて来たのか⁉︎

 上空に跳んで逃げるが同時に巨猿もジャンプして跳ぶ‼︎俺は 気円斬を放つが巨猿の巨木の様な腕が叩き落とす。

 こいつ、ヤバい‼︎

巨猿の四本の腕が凄まじい連撃を繰り出す。風バリアを纏う俺に直撃はないが当たれば粉々の肉片だ。


 俺は全方位から土魔法で作り上げた弾丸を巨猿に飛ばす。腕を振り回して弾丸を弾く巨猿。

 だがそれは囮だ。

 俺は【ボックス】からセラミックソードを取り出し、空気中の微小な水を凍らしぶつけ電子を散らし…帯電させて巨猿の心臓目掛けて高速で撃ち出す‼︎


一瞬にして巨猿の胸にでかい穴が空く。折角作ったセラミックソードだが跡形も無く粉々になった。また作らないと。


巨猿の巨体はずずんと地面に倒れ伏せる。動かない。

ホッと息をつく。

 

 魔力の底が見えた状態で無理をした。もう浮いていられないほど疲労している。ヤバい、眠い…戻らないと…


 「グォオオオオオオオオ‼︎」


 と、顔を振り上げた先にもう一体。今の奴より一回りでかい四本腕の巨猿が現れた。

くっそ、猿同士のボス争いかよ…魔力は…もう無い…か…


ごめんな母ちゃん…帰れそうもないわ


 そう思った瞬間。巨猿の動きが止まる。見ると巨猿の頭が吹き飛んでいる。ズズン。 ゆっくりと崩れるように倒れる巨猿。



遠のく意識の中で最後に見た光景。


「こんなとこにハイエルフ? しかも知らないハイエルフ⁈ お前誰だ?」


 上空には巨大な剣を抱えたハイエルフが浮かんでいた。

 

 

 

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