第6話我ら、『魔王の眷属』‼︎

 先程の実技で汗をめっちゃかいたのでみんなでお風呂、という方向になった。…なってしまった。…


 実は今までは深夜にこっそりシャワーを浴びてた。…男に戻って。

 入浴とトイレはペンダントをボックスに仕舞って男の姿で用を足していたのだ。面倒臭いからだ!なんかクッソ面倒臭い自分の身体で性の探究とか始まってしまいそうでやなんだよ!だから見ないようにして来た。…のに。

 誰だよみんなで入ろうなんて言い出したのは⁈

正直逃げ出したい…


 諦めて脱衣所で服を脱ぎ始める。

リィカの目が俺のボディに釘付けになってる。

エルフの常識を超えた胸のボリュームに驚愕しておる。


「嘘でござろう⁈ 拙者エルフは華奢な種族と聞いて育ったでござるよ?」


レンは鬼族の割にはスリムである。そして貧乳である。リィカはお子ちゃまなのでまだ未発育なだけであるが…

 俺はエルフなのに身長170cm、その上胸はやたらデカく尻もキュッと跳ね上がっている。ボンキュッボン!な身体だ。

 リィカが尻にしがみつく。レンは俺の胸を触りまくる。目の前ではミヤマさんがしげしげと観察している。あんたもいるのかい。

 素早く身体を濯いですぐに湯船に浸かる。そういやこんな大きな湯を貼った浴場は初めてだなぁ。

 ざっぱんざっぱんざっぱん‼︎

続け様に飛び込むリィカ達御一行。


「お嬢様、肩まで浸かって100まで数えて下さいね。」


おいおい、こんな異世界にもそんな風習あるの?


「へえ、拙者も母親によく言われましたなぁ懐かしいでござる。」

「これは妾の母上が父上から学んだ入浴の作法なのじゃ。昔の龍族には広まってなかったらしいぞ。」


どこにでもある文化かと思いきや割と特別らしい。

みんなで100を数えてみる。何となく一体感。


そしてみんなに切り出してみる。


「さっきのパーティー名の話だけどさ。『龍の眷族』はアレだけど…『魔王の眷族』てのはどうだ?」

「「「⁈」」」

「俺たちは魔王に会うのが目的のパーティーだからさ。その決意表明と言うかさ。周りへの威嚇にもなるしね。ハッタリは重要さ。」


 これからは他パーティーより目立って成果を上げなければならない。悪目立ちも目立つうちだ。


「『魔王の眷族』…ふふふ…上等じゃ!」

「なるほど…目的を常に忘れない為にあえて…と。その意気や良し!」


 どう気に入ったのかわからんが全員一致で賛成のようだ。


よし!今日から 我ら『魔王の眷族』‼︎


…ノリで決めたこのパーティー名を後々えらく後悔するのだが。。。


 貧乳パラダイスはステキだが俺の身体が触られまくるのでこれ以上耐えられない。だから尻触んなお前ら!胸揉むな!ミヤマさんも‼︎

 三人を置いて逃げるように風呂から上がる。

『あー』じゃねーよ セクハラ3人組‼︎


 


 学院のカリキュラムも始まった。


 実習訓練を中心に組まれていて校内ギルドで依頼を選び毎月一定の数のクエスト依頼をこなさないと合格点が貰えない。

 クエストの質も重要だ。月に一度はハードな魔物討伐クエをこなさないといけない。ずっと楽な薬草採集ばかりやっていたら評価値は一向に上がらない。月末に評価値が足らないと即刻退学である。

 それでも通常Fランクから始めたパーティーは次のランクに上がるまで半年から一年、上のランクになるほど5年10年とかかる。卒業までの一年でDランクが確約されるというのは破格なのだ。


 魔王国はこの大陸の中央からやや北寄り、北に海、西に人間の王国、南にサバンナ地帯、東に中小の獣人国家、さらにその東方にエルフの里を含む大森林を抱える。討伐・採集クエストはサバンナや獣人の森、護衛クエストは人間の王国行きや海賊防衛などになる。


 リィカとレンはパーティーデビュー、という事で最初のクエストはサバンナの魔物・エルダーリカオン15匹討伐を選んだ。森のエルダーウルフ討伐と同等ののE級クエである。エルダーリカオンは全身利用出来るので皮も出来るだけ傷つけない方向で。


 我々はサバンナに出る。近場とはいえ数日かけて行う討伐遠征である。


 早速風魔法に乗せて気配探知をかける。エルフなら誰でも出来る技能だ。里で覚えた。早速引っかかる。小型の魔物の集団見っけ。恐らくあれがエルダーリカオンだろう。俺の風弓なら射程範囲内だが…2人の戦闘を見たい。

 リィカは慣れない槍と盾を装備している。俺のアドバイスを素直に聞き入れているようだ。プライドが高いかと思ったがかなり素直な子である。

 レンは双爪を構える。あまり様になってないような気がするが…?


 まずはこちらにリカオンをおびき寄せる。ボックスに仕舞って置いた魔熊肉を取り出し地面に置き、俺たちは距離を取る。

 エルダーリカオンが3体現れた。


「ユート肉持ってたのか⁈ 用意周到じゃのう。」

「俺、趣味は料理なのよ。今日の夕飯は期待していいよ。」

「わーい楽しみでござる!」


 てか君たち打ち合わせの時ちゃんと聞いてた?準備が大切だって言ったよね?

そういや魔王都名物パンケーキに夢中だったか…


ほら来たよ!


 リィカが身体強化して槍を構える。レンは双爪を。毒塗ってないよね? 肉を食料用に売るんだから気をつけてね。さあレッツらゴー‼︎


 俺が先陣を切る。エサに近づいて来た3匹のエルダーリカオンの最後尾まで風魔法で跳んで退路を塞ぐ。そしてボックスからセラミックソードを引き抜き一番後ろのリカオンの首を一閃。

 続いて前方のリィカが突進して来る。槍を突き出すが当たらない。まあ素人だからなぁ。しかしそのまま勢いでリカオンに力任せに体当たりをする。身体強化を用いたシールドバッシュ‼︎…盾使ってないけど。リカオンは交通事故のように弾き飛ばされた。なんか即死事故っぽい。…武器使えよお嬢様…

 最後の一匹をレンは華麗に踊るように双爪でざくざく刻んで行く。ああ皮は売るんだって。一撃で倒す手はないの?双爪は手数が命?だからこその毒との組み合わせ?うーん。一撃必殺が課題だな。


 10匹ほど討伐したがこいつら全部同じ倒し方だった。リィカの体当たりで獲物を倒すやり方が斬新すぎる。槍は途中で諦めてた。後の方なんか素手で殴って殺してた。

 お前身体大丈夫か?龍化の時の龍麟並に結界強化してるから平気?あ、そう…

  反対にレンは鬼の癖に華奢で体力がないのに双爪で踊りまくる厨二スタイルを選んでしまったためにぜいぜい息が上がって倒れてる。絶対向いてないぞそれ。


 そろそろ日が暮れて来る。一日目の野営の準備に入ろう。この面子では初野営だ。そういや彼女らのボックスの容量知らないんだよな。

 俺は自分の【ボックス】から簡易テントを出して組み立てようとした。

するとリィカが遮る。


「退くのじゃ。そこ危ないぞ。」


 ズゴン! …コテージを出して来た。木造の完成された小屋である。

どんな原理だよ⁈ お前の【ボックス】異次元ポ◯ットかよ⁈  …もしかして入れた事ないだけで俺の【ボックス】にも入るのかな?

 コテージを掴んで【ボックス】に入れるイメージを浮かべる。…入った。おお。【ボックス】ってすげえ。


「な、何するのじゃ‼︎妾の小遣いで買ったんじゃぞー‼︎」


 泣きべそをかきながらぽこぽこ殴ってくる龍っ子。うんかわいい。

ごめんと謝って【ボックス】から取り出す。

 わかった今日はこれを使おう。野営の見張りはどうする?え?探知結界が設置されてるから平気?隠遁結界も?

 聞けば龍族は結界術に優れているらしい。使えるじゃん龍っ子。早く言ってよ!

 双爪を使い過ぎて倒れてるレンを抱えて中に入る。

おいおい⁈

 キッチンに冷蔵庫あるじゃん!あ、この世界冷蔵庫あります。わりかし一般人でも氷作れますからね。日本でも昭和30年代まで使われてた氷式冷蔵庫、普通に普及してます。シャワー室もあるんだ。トイレも水洗なの?あ、この世界水洗トイレもあります。紙は使わず葉っぱですが。使用後の葉っぱは箱に入れて堆肥ボックスに行きます。Fランクのクエストには常にトイレ用葉っぱ採集というのもあるのだ。


 水は馬鹿でかいタンクに魔法で生成して詰める方式?

小屋型のキャンピングカーだなこりゃ。夕食作りが捗るぞー。

 で、材料あるの?…ないじゃん。冷蔵庫空っぽじゃん。そこまではお金が回らなかった?んー…


 俺の【ボックス】から魔猪肉を取り出す。しかし俺の【ボックス】だと時間凍結されるから肉の熟成が進みにくいのが課題だ。採取したまんまの鮮度だと旨くない肉もあるのだ。しかしこの世界魔法はイメージ。【熟成】を意識してみる。土と風の混合魔法だ。そして念じる。おお、心なしか肉の塊の周辺にカビが。ひと月熟成棚に置いたような色合いになる。


 肉を叩いて食用ニルヴァ鳥の卵を溶いて潜らせ保存用パンをおろし金で下ろし、出来たパン粉をまぶし魔猪のラードで揚げる。エルフの里で収穫した野菜も添えて

 トンカツの完成。ちなみにトンカツソースはこの世界にある。調味料は豊富なのだ。コンソメスープも添える。基礎のブイヨンはエルフの里で時間を見つけては作り置きしてたのを使う。里で採れた羊乳もまだあるので卵と蜂蜜を混ぜてデザートにプリンも添える。


 涎を足らすリィカお嬢様。匂いにつられて倒れてたレンも飛び起きる。頂きますも言わないうちに食らいつく2人。


「ユート、店がひらけるぞこれは‼︎何でこんなに美味いのじゃ⁈」

「それは美味しくなーれもえもえきゅんと」

「もえもえきゅん」 「もえもえきゅん」

「ごめんなさい嘘です」

「ユート殿、今すぐにでもお嫁に行けますぞ!」

「いや、俺は嫁を貰いたい側だから」

「カミングアウト…キマシタワ–…」


なんだかんだで和んだ夕食だった。

個々にシャワーを浴びてベッドに入る。フカフカのお布団。野営中なのを忘れそうだ。いやいや意識は監視にも振っておかないと…ぐう。


 リィカの結界魔法はよく効いて、夜中に二頭ほどやって来たリカオンが見えない壁に弾かれて去っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る