第5話龍っ子、野望を語る
ギルド学院は入学が決まった後、希望と適正を考慮してクラス分けが決まる。
魔術を極めたい者は魔術クラス、商売がしたい者は商業クラス、鍛治で生きていきたい者は工業クラス、農業なら農業クラス等。
で、俺はエルフになれる以外これといって取り柄のなく元の世界でも日々のほほんと母ちゃんの世話だけして来た凡才なのでエルフ=狩りという事で安易に冒険者クラスを選択した。憧れのパーティーもいるしね。
驚いた事に同室の龍っ子と鬼娘も冒険者クラスだった。マジか君ら。
初授業が始まった。
冒険者も使う能力で前衛・後衛と役割が分かれる。まずは全員その見極め。担任の教師がなんか魔道具を持ってひとり1人を鑑定していく。個々の方向性を示す魔道具だそうだ。希望と現実のギャップを埋める為の作業だと。便利だね。え、魔王が製作したの?
次々と鑑定されて行く生徒たち。何となくドキドキする。
スリ◯リンは嫌 スリ◯リンは嫌 って感じである。
龍っ子が鑑定される。
龍っ子はちんまい見た目と裏腹に高い火力と頑健な身体を持つタンク向きらしい。さすがの龍族。
次は鬼娘。
鬼娘は支援系。麻痺毒やドレイン、催眠術、それと少々の治癒。何事もひっそりやるのが好きらしい。ニンジャか?
鬼は武闘派が多いと聞いたのだけど。
で、俺はと言うと…
「んー。君なんでも出来るんだ。魔法もそつなく全属性使える。近接戦闘も出来そう。驚いたな。よく言えば万能、しかし悪く言えば器用貧乏。突出した個性がない。まあ君の好きになさい。」
「え?」
「前衛、後衛、どちらでもそこそこだろう。好きになさい。」
中途半端。それが俺の最初の評価。
やっべーぞ。成績優秀者になって魔王に会うのが目的だってのに。
俺はただの凡庸なハイエルフ。(凡庸なハイエルフ
って何だ?)
続いてクラスの面子でパーティーを組めとのお達し。最優秀を目指すには最強のパーティーを…
周りを見ると続々と組み合わせを決めている。え、なんでお前らそんなに素早いの? え?昨日のうちにルームメイト同士で決めた?…そういうもんなの?
後ろから俺の服の裾をがっちり掴んでくるちんまい龍っ子。モジモジしながら上目使いで
「わ、妾と組まんかの…?」
よく言えました。はい、可愛い。思わず頭を撫で撫でする。
「⁈」
「よしよし、お姉さんと組もうねー」 撫で撫で。
「あ、あの、拙者も…よろしいですか?」
やはりあぶれていた様子のレンもやって来る。
もちろんさ鬼娘。
後一人は入れたいところなんだけど…このクラス、人数の都合でひとつだけ3人パーティーになってしまう。はい俺たちでした。ありがとうございました。
しゃあない。この3人で最強を目指そう!
早速チーム毎に打ち合わせ。少なくとも二人に俺が最優秀を目指している事を知ってもらうのが必要だろう。すると、
「聞いてくれユート、レン。わ、妾はどうしてもこの一年で最優秀生徒の座を射止めねばならない。そして異界の魔王に会わねばならんのじゃ‼︎」
何やら深い決意を瞳に込めたリィカがいた。
ほう? 訳を聞きたいところだが…
「奇遇ですなリィカ氏!某も訳あって異界の魔王に会う為にここにいるのです。共に頑張りましょうぞ‼︎」
え?君もなのレンさん?
「そうか…実は俺もなんだ。」
一応ぼかしながら言っておく。意外と魔王って人気があるんだな。魔王国だもんな誰もが会いたがるよな。ただでさえ滅多に会えないんだもんな。
リィカの表情がパァッと明るくなる。
「頑張ろう‼︎我らここに魂の友として魔王と相見える事を誓おう‼︎」
「はい!」
「お、おう」
がっしりレンと俺の腕を取り誓いあげるリィカ。
ここに本年度最強を目指すパーティーの誕生である。
午後はパーティー戦力の把握だ。
生徒が校庭に出て各々の戦法を実演していく。
次々と魔法や剣技を披露する中、リィカがニヤリと笑って一歩前に出る。
「皆の者!危ないから下がっておれ‼︎」
広く場所を取ると、呪文を何か口にする。
身体が赤く光る。見る見る内に膨らんでいく。ぷにぷにの肌が赤い龍鱗に包まれていく。
「ギャオオオオオオオオン‼︎」
響く咆哮。
リィカが赤いドラゴンに変身した。全高4、5メートルくらいか。
呆然と固まる生徒、先生。
うんうんとうなづく猫耳メイドミヤマさん。何であんた生徒に混じってここにいるの?
レッドドラゴンは息を吸い込んだかと思えば次の瞬間、口から猛烈な炎を吐いた!ドラゴンブレスだ‼︎
真っ直ぐ炎が伸び、50メートル先の標的を消炭にする。
「グワオオオオ‼︎」
どうだと言わんばかりに吠えるリィカ。誇らしげだ。
それを見た俺は思わず、
「だーめだアホかお前!ブレスで獲物を黒コゲにしたんじゃ碌なな売り値はつかないぞ!皮とか剥ぐ依頼だったらどーすんだ‼︎ それに森の中だったら炎は禁じ手だ‼︎ 狩場の森を灰にする気か⁈」
つい声を荒げてしまった。
「ど、怒鳴る事ないじゃろ!」
思わず怒られてビビったらしく泣き声で訴える赤龍。ああ悪かった。しかし困ったな。使い所に悩む力だ。パーティープレイじゃまるで役に立たない。
しゅるしゅると龍から元の少女へと戻るリィカ。
しょんぼりしている。フォローするか。
「リィカ、君 火属性の攻撃手段しか持ってないの?」
「龍眼でプレッシャーかけて威圧で殺すとか出来るぞ。」
ドラゴンは威圧で雑魚を殺せる。有名なスキルだ。
「ドラゴンにならない状態ではどお?」
「全身に魔力を流して身体を鋼の強度には出来る。」
「完全にタンクだな…盾と槍を覚えるのがいいんじゃないかな?」
数少ない M MOプレイで得た知識を引用してみる。
『マクロ組めってなんだよ⁈』ってとこでギブアップして辞めた某有名ネットゲームだった。辛い過去だ。
もう一人の仲間に聞いてみる。
「レンはどういう戦い方?」
レンは鋼の爪武器を装備している。ひゅんひゅん爪牙の舞を披露する。
「爪の先に麻痺毒とか腐食毒とか弛緩毒とか塗って攻撃します。」
「うーん。使えそうだが依頼の獲物に毒はヤバそうだね。食料にする場合も多いしね…毒の種類は選びそうだ。」
「時間が経つと消える毒です。そうじゃないと村では使いませんよ。ぷんすか。」
なんだぷんすかって。
俺?俺は器用貧乏だからなぁ。一通り見せる。
まずは魔法。炎弾をライフルの弾のように飛ばす。続いて土魔法で作った石矢尻を風と雷を纏わせレールガンとして飛ばす。俺オリジナルの弓矢だ。
猛烈なスピードで標的を粉砕し、その後ろの障壁魔術を施してあるはずの学院の外壁を撃ち砕く。轟音を立てて壁の向こうの建物が崩れていく。
なんか住人の爺さんが出て来て怒鳴ってる。
…うん知らんふり。心の中でごめんなさいと謝る。
次に水魔法で水の球を作る。飛沫にして凍らせ飛ばす。散弾のように標的に穴を開ける。土魔法で練習場に落し穴、続いて泥沼を作る。エルフサンダーで標的を粉砕する。
続いて剣。里で錬成したセラミックソードをボックスから取り出し、振り回す事で校庭の20mはある大木を一瞬で薪の束に変える。
これくらいかな?
クラスメイトも担任も固まってる。なんか言ってよ。
「ふう。こんな事くらいしかできないけど実力あるパーティーと少しの間いたから解体とかは出来るよ。」
「お…」
?
「「お宝ゲットだぜ〜‼︎‼︎」」
歓喜で抱きついて来る二人。お、おう?喜んでくれるならまあいいか。
だがこの後担任に呼び出されてこっ酷く叱られた。
流石に壁の向こうを破壊したのはやり過ぎだ、爺さんに謝って来い、との事。
ひとりで壊した屋敷まで謝りに行こうとすると
リィカとレンもついて来るという。
「パーティーのしでかした事だから」
ありがとう。急速に深まる連帯感。そうだパーティー名決めないとなぁ。
穴の空いた屋敷まで来る。
なんかまるで場外ホームランを打って謝りに行く野球部員みたいなノリである。
なんと爺さんが手ぐすね引いて門の前で待ち構えていた。
「すいませんでした。お怪我はございませんでしょうか?」
頭を下げてお詫びをする。すると爺さんの反応は予想外のものだった。
「いやいや大したものだ!何年振りかな、障壁魔術をぶち破った生徒は! 今年の生徒は楽しみだねえ‼︎わしは力のある若者は大好きでなぁ‼︎」
なんか喜んでおられる。
上機嫌な爺さん、冒険者マニアだという。あれだな、まんま場外ホームランを期待して待つ近隣住民みたいな。場外魔法とかイベントとして期待してんだ。おおらかだなぁ。え?修理費は全額魔王負担? なるほど…
「そういうな。ああいう臣民に魔王都の冒険者は支えられているんだ。」
と、担任はニヤリと笑う。なるほどこういう通過儀礼らしい。ほっとした。
落ち着いたところで二人に切り出して見る。
「なぁ、俺たちのパーティー名、何にする?」
「それなのですが、ユート様少々ご相談が。」
いつの間にかリィカの秘書らしき猫耳眼鏡女史ミヤマさんが後ろに立っていた。 ううむ怖い。
「実はお嬢様はとある龍族のお偉い家の出身なのですが冒険者として実力はともかく名声を得ないといけないのです。とにかく良い方に目立たないといけません。」
「はあ…」
「『龍の眷族』とか分かりやすいやつがいいんではないでしょうか?」
「『エルフと龍と鬼と』とか良くないですか?ダイレクト過ぎ?」
「妾は『ギガンティック=フォレスト=ガーディアン』とか良いなあ。」
「俺は『三つ巴』とか『三竦み』とか『トリプルクラッシャーズ』とか」
「「「くそダサい‼︎‼︎‼︎」」」
全否定された。
ちょっと真剣に考えて見よう。
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