第8話俺、めっちゃ怒られる。

 目が覚めた時、その人は俺の頭を撫でていた。

 金色のロングヘアー。深碧色の虹彩。スリムだが筋肉質。ルックスはエルフそのものだ。

 だがその顔は。見覚えがある。いや、しかし、あり得ない。ここにいるはずがない。それとも俺元の世界に戻ったのか…?…全ては夢だったのか?

 頭を撫でる手。懐かしい見覚えのある手。


「…母ちゃん…」


「やっぱりユートだったのかい。 てかなんでお前女になってんの? 母ちゃん男の子産んだはずなんだけどねー。」

「…母ちゃん⁈ 本当に母ちゃん⁈」


 俺の母ちゃんがエルフの格好してそこにいた。


 母ちゃんは俺の胸元のエルフ石に気が付いたようだ。


「なるほど。世界樹様めやってくれたねえ。まさかユートをあっちから引っ張って来るとはねぇ。」

「てか…なんで母ちゃん、エルフの格好してんの…?」

「そりゃエルフだからさ。」

「母ちゃんがエルフ…」


はああああああああああああああっっっっ⁈


「まあエルフの子はエルフだからお前もエルフだよ?」


はあああああああああああああああっっっっっ‼︎


「しかしいきなりハイエルフに女体化とはね。ハイブリッドは怖いね。」

「そ、それ!なんで俺女になってんの?そこが良くわからん‼︎」

「世界樹様がお前のハイエルフの因子を呼び起こす為にエルフ石を使ったのさ。エルフ石はエルフの遺伝子を呼び起こす起爆剤。ハイエルフの因子は本来なら女性じゃないと発動しないものだからね。身体が因子発現する為に引きずられたんだな。」


「…あのさ。本来別のハイエルフが儀式に向かえば俺が呼ばれる事なんかなかったって聞いたんだけど…」

「母ちゃん忙しくていちいちエルフの森になんか行ってらんないよ。」


母ちゃんのせいかああああ‼︎‼︎


怒りの持っていく先がない…

それに実の母親のエルフ姿なんて見ていられない…コスプレみたいだよ母ちゃん…


「お前だってコスプレみたいだよ。てか女装か。息子に女装癖が… てかなんだいその胸‼︎ エルフのくせになんでそんなにデカいんだい⁈」


あ、なんか地雷踏んだ。


俺が母ちゃんに小突かれてる所にリィカとレン、ミヤマさんが入って来た。どうやらここは獣人集落の宿らしい。入って来るなりリィカとレンは俺の頬をビンタする。


「このバカ者が‼︎」

「なんで無茶するんですか‼︎死んだかと思ったじゃないですか‼︎」

「Sクラス冒険者のグリュエラさんがこの地にいなかったら命はなかったんですよ?」


二人は泣きながら怒ってる。震えながら本気で怒ってる。

みんなを不安にさせてしまったなぁ。本当に俺は考えなしだ。ごめんな。

二人の頭を撫でる。ミヤマさんにも目で詫びる。


 【スタンピード】は治まったようだ。

 魔王都から調査隊がやって来てジャングルの戦闘跡を調査して行った。

 俺の母ちゃん…門馬・グリュエラはどうやらこの世界でSクラス冒険者として働いていたらしい。え?そんなに有名なの⁈ 冒険者なら誰でも知ってる⁈


しかも…毎日家から出勤してた…向こうの世界の家。転移門潜って。


 何だよ母ちゃん‼︎ 転移門持ってたんかよ‼︎

俺の苦労は何だったんだよ⁈


「ん? 向こうに帰りたいのかい? 帰ればいいさね。送ってってやるよ。でも本当に今帰りたいのかい?」


 俺は考え込む。

 …リィカとレン。あいつらの願いは叶えてやりたい。仲間だから。放って俺だけいなくなる訳にはいかないじゃないか。

 返事はしばらく保留にした。


そしたら母ちゃんはまた別の仕事があると言っていつの間にか飛んで行ってしまった。


「お前はお前でやる事やりな‼︎」  


ええええ…




 検証の結果この【スタンピード】を収められたのはSクラス冒険者の指示の元、多くの冒険者が力を合わせたから、という流れになった。俺が数千の魔物を片付けた事もリィカが集落全体に貼った強力な結界もお口にチャック、という事だ。

 それぞれの冒険者に防衛クエスト成功報酬が与えられる。もちろん俺達『魔王の眷族』にも。


 結果、俺達『魔王の眷族』は二段階昇進でDランクパーティーに。メンバーもそれぞれDランク冒険者に。


 …入学1ヶ月でギルド学院卒業と同じ資格が取れてしもうた。




 学院に戻るが決して歓迎の雰囲気ではなかった。

嫉妬・羨望・冷淡なクラスメイトや教師陣の目。

 目立っていた。…悪い方に。頑張り過ぎたのだ。あらゆるクエストに貪欲に顔を出すので他の生徒に煙たがれ、教わる事もないので教師達にも嫌がられた。

気付けば学院内でめっちゃ孤立していたのだ。


 どうしてこうなった⁈


 『魔王の眷族』は職員室に呼び出された。


「お前ら学院内のギルドの依頼受けなくていいぞ。」


担任の教師は言う。


「それは…僕らが最優秀生徒として魔王と対面出来る権利を得たという事ですか?」


 それなら目的達成だ。

 

「いや。学内ギルドは初心者向け、F〜Eランクの依頼しか揃えていないからだ。Dランクの者は常時採集以外の依頼はD〜Cランクのクエストしか受けられん。仕方が無いので今後お前らには外の正式な冒険者ギルドで依頼を受けてもらう。ただし学院の必須授業には出ろ。」

「?どういう事です?解るように話して下さい。」

「自由に外のフリークエストをこなしていいって訳だ。

ただし。学内ギルドの依頼はカリキュラムに余り影響がないように2、3日で終わるようなクエストで構成されている。だが外の依頼は学生の都合など考慮しない。平気で1カ月2カ月と拘束される依頼もある。

 その間に学院内では評価点の付く授業行事が山盛りある。【魔術大会】や【武闘大会】、【文化祭】【全校生参加迷宮キャンプ】とかな。もちろんそれらに参加しない生徒が【最優秀生徒】になれるわけがない。」

「そんなの、実質外の依頼なんか受けられないじゃないですか⁈」

「そこは工夫してやり繰りしてくれ。もちろん外での評価も学院の評価点になるぞ。失敗するなよ。」


なんてこった。頑張ったのに。さらにハードルが上がってしもうた。


「それとおまいらもっとクラスメイトと打ち解けてフレンドリーになれ。他の冒険者とのコミュニケーションも評価点なんだぞ。」


コ…コミュ障扱いされた‼︎

…………俺達コミュ障扱いされた……‼︎

そういやクラスメイトと話した事ない………‼︎

ああああああああああああ‼︎


 項垂れて部屋に戻る。

三人で会議を開く。


「まずいな。」

「まずいのう。」

「まずいでござる。」


 しばらくはフレンドリー作戦を展開してクラスメイトとコミュニケーションを取り、学校行事をこなす事に決めた。リィカとレンにはハードルが高そうだ。こいつらは真のコミュ障だからな…。


俺?俺は…自分のスキルを利用するのだ‼︎



 翌日のお昼休み。


「みんなーちょっといいー?携帯食料作ってみたの!みんな食べて見て感想ちょうだいー‼︎」


 生粋の料理の腕でカロリーメ◯トもどきを作ってクラスメイトに配る。微笑みながら。見た目は美少女ハイエルフだもんね。クラスメイトがわらわら集まってつまんでくれる。概ね好評だ。フルーツ味とチョコ味が人気高い。


 よーし好感触!これを無償で続けるのだ。たまーにたまーに。欲しがるタイミングを見てな。


「…ユートは本当に腹黒いな…」

「恐ろしいでござる…クラスメイト全員を餌付けする気でござるか…」


うるさいお前らもコミュニケーション取れ。


 意外な事にリィカはミヤマさんを仲介者にしてみんなと会話し始めた。結界術の講座を開くらしい。うむ俺も受けたいぞ。………魔力じゃないんだ……闘気でもない……?ふうん……呪力⁈何だよ呪力って⁈そんなん龍族以外無理やんけ‼︎


 みんながリィカに突っ込む。すると呪力講座が始まった。え?他人を強く恨んでみましょう?己れを呪うのもアリです?…やめとけみんな引いてるぞ。何人かのクラスメイトが食い付いてる⁈意外と好評だ‼︎


 さてレンはというと…クラスのヒーラー集めてヒーラーあるある話してる。なんか他のヒーラーさんも色々溜まってるようだ。……近づかないようにしよう。うん。


みんな徐々に打ち解けて行ってる…そう見える。


「そういや来週の魔術大会、魔王国十傑魔導王サークライ様がいらっしゃるんですって⁈」

「えーっマジ⁈」


黄色い声が上がる。魔導王サークライ?誰?

むっちゃ呆れた顔された。うん、俺物知らなすぎ。

【魔王国十傑】って?何その厨二設定⁈留守がちな魔王の代わりに魔王国を取り仕切っている十傑集?魔導王ってマドーキングって読むんじゃないよな⁈


 どうやら魔術大会の審査員をその魔導王様が毎年なさっているようだ。ほう、顔を売るにはもってこいだな。この間の【スタンピード】で自分の魔力の限界値も把握出来たしもう失敗はしない。せいぜい俺達で引っ掻き回してやろうぜ。


 …どうしたリィカ? え? 魔術って何?って……お前は何を言っている?

…え⁈ ミヤマさん今なんて?  てか…⁈ マジ⁈ それマジ⁈


「ええ、【魔法】と【魔術】は違います。」

 

 

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