第3話俺、冒険者に遭遇する。
俺はエルフの森から旅立った。森を出てまず道を探す。人が通る道があればその先に集落があるはず。道すがら獣に遭遇すれば狩る。解体は里の幼女ほど上手くなく残念な腕だが1人で食う分には充分な量は確保出来てる。食った残りはボックスに詰め込み再び道を探す。何度かそうしてやがて道を見つけた。風に乗って道なりに跳んで行く。エルフ移動が気持ちいいのでついぐんぐん進んで行く。夜になると適度な木の上で寝る。エルフの姿だと苦にならないのが不思議だ。
そうやって街道を進んでいるとある時人らしき集団と遭遇した。
ん? 争っているようだ。
馬車のグループが十数人の男達に襲われてる。馬車には3人ほど獣人の護衛がついているようだが馬車のそばには傷ついた御者と見られる男に獣人の老人と5、6歳のケモ耳幼女がしがみついている。
襲っている連中はみな人間のようだ。
人間が獣人を襲っている。
むう。ようじょ。ケモ耳幼女が危ない!
ジェントルメンな俺は幼女の目前に降り立ち、迫り来る男達の足の腱を狙って例の風魔法気円斬を放つ。
「ぐあっ」「げえっ」
次々と倒れる男たち。だが何人か魔力の高い男が防御魔法を使い気円斬をかわす。魔力の高い奴は風魔法の対処法も知っているようだ。ふむ。そういう奴も足はしっかり地面に着けて立っている。土魔法で泥沼を作り腰まで泥に沈める。そして即座に地面を固める。捕獲完了。
護衛の冒険者に声をかける。
「あんたら大丈夫か?」
「あ、ああ…」
「ありがとうエルフの嬢ちゃん…すごい魔法だな。」
護衛の冒険者さんがあっけに取られているようですが何か?
構わず倒れた御者の様子を見る。切り傷が深い。出血が止まらないようだ。俺はボックスからエルフの里で作成した薬草を取り出す。
「これ飲んで」
あっという間に傷口が塞がる。こんなに見た目で分かる効果があるのか。おおファンタジー。
ほっと息をつく老人。
「かたじけない、礼を言わせてください。私どもは魔王都で商いを営むヒムラーと申します。ほらユキやお嬢さんにご挨拶を。」
泣きながらケモ耳幼女が俺にしがみつく。
「ありがとうお姉ちゃんありがとう!」
うむうむよかった。幼女の無事こそ我が望み。
にっこり笑ってケモ耳幼女の頭を撫でる。
襲撃者たちを縛り上げた護衛のリーダーらしき三十前後の男が近づいて来る。虎が少し入っている獣人だ。
「助かった。礼を言うよ。」
「たまたま通りかかっただけさ。幼女が泣いていたもんでね。」
あ、なんか退かれた…
襲ってきたのは街道名物盗賊団らしい。元は隣国・人間の国から流れてきた者の集まりであらゆる種族が集まって出来ている魔王国を目の敵にして臣民を襲う。
なんか複雑なんだなこの世界も。
「商人の馬車は狙われやすい。こんな獣人の領域に近い所にこれだけの人間が入り込んでるとは予想してなかったがな…」
「どうするの?この人間達。間引く?」
物騒な台詞を二十代くらいの猫娘が吐く。
「ギルドに渡せば金になるんだがなぁ…遠いな。」
「もったいないが埋まった奴や歩けない奴は縛って放置。最寄りの集落に連絡して後はまかそう。サブナ、馬で一走り役人を呼んできてくれ。」
サブナと呼ばれたドワーフっぽいおっさんが馬を駆っていった。
人が金になるのか。殺伐とした会話だがこれが冒険者の世界。命が軽い世界か。しょうがないよな。魔王のいる世界だもんな。
「あの。道を訪ねたいんだけどいいすか? 俺、魔王国に行きたいんですが…」
「おお、私どもも魔王国に帰る途中なのです。そうだ、何かお礼もしたい、我々と一緒に参りませんか?」
うーむ正直馬車の速度に合わせて移動するのは苦痛。跳んで移動してきたからなぁ。どうお断りしようかと考えていたら…ケモ耳幼女が怯えたような瞳で俺を仰ぎ見、俺の服の裾をぎゅっ握る。
「…行っちゃうの…?お姉ちゃん…」ぐすっ…
うーん。幼女の頼みは断れんな。頼られると弱いのだ昔から。
「この辺りからだとまだ3日はかかるぞ。君は魔法に長けているようだが女性の一人旅は危険だ。我々と一緒に魔王都に行かないか?」
「てな事言ってるけどリーダーはあんたの戦力をアテにしてるんだ。あんたみたいに使える奴がいると本当に助かる。」
幼女の頭を撫でながら同行を承諾する。この世界のエルフ以外の人との初コンタクトだ。出会いは大切に。
「俺はこのパーティー『砂塵の輩』のリーダー、ディックだ。」
虎っぽい親父が名乗る。
輩って。どんなネーミングだよ⁈
「アタイはキャトー。さっきの斥候がサブナな。」
キャトー。猫娘はまんまな名前だった。
うむ俺も名乗らないといかんのか…
「俺はユート。見ての通りごく普通のエルフだ。」
「俺? 俺っ子?」
「…いやごく普通のエルフは土魔法なんか使わないだろ?」
ギクリ。そうだっけ?
「まあ、気にしないで。ハハハ。」
「しかしあんた旅人にしては軽装だな。荷物はないのかい?」
「ん? 全部ボックスに突っ込んであるよ。」
「ほう、あんだけ魔法が潤沢に使えるなら相当の容量があるんだろうな。」
正直自分のボックスの容量など把握してない。何でもかんでも突っ込んだままだ。あ、ワイバーンも入ったままだっけ。
魔力がある普通の人の容量はリュック程度らしい。なんだそれ。そういやこの人達はちゃんと武器も最低限の荷物も身に付けてるな。
「ボックスは大抵依頼の魔物の素材や肉で満杯なんでな」
なるほどやりくりの問題か。
サブナが最寄りの集落の駐屯所から役人と兵士を連れて来た。引き渡して我々も移動を始める。
ケモ耳幼女が馬車に乗れと手を引く。そういや護衛のパーティーはみんな馬持ちか。俺歩きだもんな。跳んでもいいんだけどな。わかった乗るよ。
日が暮れて来た。みんな野営の準備に入る。夕食はみんな干し肉と乾燥野菜。旅の間は皆こんな程度らしい。味気ない。俺に出来る事と言えば料理くらいしかない。俺は世話になってる礼にと手持ちの魔熊肉や野菜、羊乳、岩塩等を使ってシチューを作る事にした。俺のボックスは時間凍結されてるんで肉も新鮮だよ。
火魔法で加熱、土と風の混合、重力魔法で加圧をかけてトロトロに煮込む。料理は得意中の得意なのだよ。魔法が使えるようになってからはさらに応用が効くようになってエルフの里でも毎日やってたからね。エルフのみんなにも評判良かったよ。
てかこういう事しか役に立たないのよ俺。
「‼︎」「なんだこれ美味いっ」「美味しいー」
おお、大絶賛。いやおっさんたちはどうでもいい。ケモ耳幼女が本当に美味そうに食べてくれるのがなによりのご褒美なのだ。
「おかわりいる?」
「うん!」
「こらユキ!遠慮なさい!」
何をいうかじじい。俺の幸せを奪うな。
腹が一杯になってみんな眠りにつく。ヒムラーさん達は馬車、他は野宿。『砂塵の輩』は交代で見張りに立つ。季節は春だがまだ肌寒い。馬車の中、ケモ耳幼女が震えて丸まっている。
俺はボックスから魔熊の皮を鞣したゴージャスな毛布を幼女にかけてやる。ぬくぬく顔である。
ごめんね砂塵のみなさん。あなたたちの分はないんです。
「あったかい…」
うむうむ。お兄さんも嬉しいよ。ケモ耳幼女と眠れる幸せ。……俺、人間としてなんかヤバくなってね?
それから何度か遭遇した魔物を『砂塵』のみなさんと共に狩ったりしながら進んだ。このパーティーは相当成熟していて随分勉強になる。特にディックさんの統率力がすごい。もしかするとあの盗賊団も砂塵の輩だけでかわし切れたかも知れない。獲物の追い詰め方、皮や素材を傷付けない狩り方とか血抜き、解体も丁寧に教えてくれた。すんごいそつがないんです。
こっちが余りに素人過ぎて申し訳なくなって解体マジになって覚えました。ディックおじさん、キャトー姉さんサブナ兄さんありがとう。
「ねえねえ、そう言えばユートは魔王都に何しに行くの?」
キャトー姉さんが魔狼を解体しながら聞いてくる。
「うん。魔王に会ってみたくて。」
「はあ⁈」
みんなが騒つく。え、難しいの?
「そりゃなあ。滅多に人前に出てこないし本当にいるのかさえ疑われてるくらいだし。」
「アタイだって会ったことなんかないよ‼︎」
「まあ、実在するのは確かだ。俺がギルド学院にいた頃に会った事がある。」とディック。
『ギルド学院』⁈
「魔王都には魔王立ギルド学院があってな。魔術、工学、農学、商業、冒険者とそれぞれに必要な人材を育てている施設だ。魔王の肝入りで整備された。」
ふえ⁈ 随分と市民に優しい魔王だな。
「その学院の成績優秀者が年に一度魔王と御対面できるのさ。」
「さすがディックさん、成績優秀だったんですね。」
「まあな」
ハハハ 『砂塵の輩』自画自賛。
「じゃあギルド学院に入学して成績優秀者を目指すのが一番手っ取り早いと?」
「てか他の手が思い付かん。とにかく魔王は気まぐれ過ぎて魔王都で落ち着いているとこを見た事がない。」
ギルド学院か。異世界に来てまで学校か。
ん? そもそも俺とか受験資格あるのか?
「入学試験って…なんか資格とか条件とかあるんですか?」
「ん、13歳以上なら特に条件はないぞ。他国民でも大丈夫だ。ただ…」
「ただ?」
「そろそろ入学試験のはずだぞ。毎年一回この時期だったな。」
えっ ヤバいっ 早く魔王都に行かないと
「大丈夫、もう魔王都だほら。」
丘を越えて城下が見えて来る。白く巨大な城塞都市。
これが魔王都か。馬車のまま国境門をくぐる。入国の手間とかなかった。ヒムラーさんのおかげですありがとう。
幾ばくかの御礼をヒムラーさんから戴く。そしてとうとうケモ耳幼女とお別れ。泣きながらぶんぶん手を振る幼女。俺も寂しいよ。ぐすん。
俺は砂塵の輩と共に冒険者ギルドに向かう。入学試験の手続きはギルドで出来るという。『砂塵の輩』は依頼完了の報告。俺もパーティーの一員のような顔をしてついて行く。
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